第6章 マギアとサピエンティア
マギア聖学院は主に王都の貴族の子息子女のみが通う格式の高い学園である。聖都にあるサピエンティア神学校とライバル校として肩を並べていた。と言えど、両校が協力するのは珍しいことではなく、日頃から課外活動の交流や、あらゆる方面での共同研究等はむしろ積極的に行われている。
「ハヅキ、今日は私はサピエンティアだから迎えに行かないよ。」と七袖はたまに研究目的のために学院を欠席する日がある。
だがやはり両校はライバル同士。例えば魔力や体力を競う大会等では、両校ともお互いより良い結果を出すため大いに盛り上がる。
「今度の剣道の試合?ああ、相手はサピエンティアだよ。」と文武両道を熟す七袖は、剣を極めるために男子生徒の多いサピエンティアに良く足を運んだ。
王都直下のマギアが、権力的に国王と同等の地位を持つ教皇により運営されるサピエンティアと、確かに競争関係にあることに変わりはなかった。
そもそも、王族や貴族を中心とする保守的なマギアと階級制度を取り払った革新的なサピエンティアは、政治的に見ても当時の国王と教皇の関係を象徴していた。
もちろんどちらの派閥も一枚岩ではない。例えば中央聖教会にはやはり王族や貴族を中心としたメンバーで構成される赤の枢機卿団が存在する。そして王族の中にも、今回の留学制度の様に異国との交流や貿易を積極化させるための派閥がある。
この両校連盟での留学制度の設立は、学生達だけに留まらず王都や聖都に住む人々とっても驚きだった。
この留学制度ではマギアとサピエンティアから選ばれた学生達が、他国への親善大使となり留学生として派遣されることになっている。交換留学と言うからには勿論その他国からも王国に招く事になっている。彼らはサピエンティアかマギアのどちらかを選択する事ができた。
保守的な色の濃いマギアでは、逆に浪漫溢れる異国への留学制度が若い学生達の好奇心を掻き立てていた。
春の始業式を終えたハヅキはソフィアと一緒に留学プログラムへの願書を準備していた。七袖にここで頼らないのは、きちんと願書を準備してから彼女に見せびらかせて褒められたいためだ。
「あれ、ソフィーは応募しないの?」
「お父様の賛成を受けられなかったの。お姉様だけズルイわ!私もぜひ異国へ行ってみたかったのに…」
と残念そうにソフィアが溜息をつく。
(あれ、ソフィーにお姉さんなんていたっけ?)
しかしそれよりも、拍子抜けするかの如く留学への願書出願の許可を王家から貰えたのは一体なぜだろう、とハヅキは思った。確かに願書を出す事と留学生に選抜される事は違うため、もしかするとせっかく留学生に選ばれても行かせてもらえないかもしれない、と不安がハヅキの心を過った。
「こうなったからには、私は全力であなたのサポートをするわ。ハヅキ!」とソフィアが目を輝かせる。
「じゃあ願書を出して、後は返事を待つだけだね。」とハヅキが微笑む。
「えっ。」とソフィアが呆れ顔でハヅキを見つめた。
「ん?」とハヅキの目が点になった。
「そんなわけないじゃない!ハヅキ。書類選考の後は選抜試験よ!?あなたちゃんと応募要項読んだの?」といつの間にかハヅキはソフィアにも毎日小言をいわれている。
だがソフィアは七袖よりもハヅキにしつこくは言わない。そんなソフィアが大好きなハヅキ。
「選抜試験ってどんなの?」とハヅキが尋ねた。
「確かトーナメントじゃなかったかしら。魔法あり、武器ありって。」
とワクワクしながらソフィアが答える。
「えー、なんか大変そう…」と呟くハヅキ。
「フフフ、早速明日から特訓よ!」とソフィアが一段と目を輝かせた。
サピエンティア側のお話はぜひ第2部をご覧ください。