第5章 初めての(七袖以外の)友達
七袖は若いながらも多くの苦難と試練を潜り抜けてきているが、ここまで驚いたのは久しぶりである。
「ナナちゃん、お友達なの。」
ある日ハヅキがなんと友人を連れてきたのだ。それはマギアでの昼食の時間、カフェテリアでの出来事だった。
「ご機嫌よう、七袖様。わたくし…」
「なっ、何だと!?」
七袖は余りの驚きに肝心のお友達の名前を聞き漏らしてしまった事に気づかない。ハヅキの横には、プラチナブロンドのツインテールを赤のリボンで結んだ派手な娘が立っていた。その派手さとは無関係だが、一瞬の間を置いてもう一度聞き直す七袖。
「ハ、ハヅキにお友達?」
改めて口に出してみると自然に目から涙が零れ落ちた。
「き、きゃあー!どう致しましたの七袖様!?私何か粗相をなさったかしら…」
ツインテールが慌てて七袖に清潔でいい香りのするハンカチを差し出した。
「ありがとう。これからも末長くハヅキをお願いしたい…うう…」
そう言うと七袖は再び涙を流した。
ラベンダーのいい匂い。ふと七袖はツインテールからもらったハンカチの匂いを嗅ぎながら思った。マギアでは珍しくはないが、やはり育ちの良いお嬢様の様だ。
「もーっ!なにこれ。なんで泣くの…?」と不服そうにハヅキがぼやく。
2人を眺めながら若干引き気味のハヅキの初めてのお友達が苦笑いを浮かべている。
「な、七袖様って話してみると少しイメージが違う様な…」とツインテールが小声で言う。
「ん…君は私のことを知っているのかい?」
(はい、きましたー。)と心の中でハヅキが呟く。七袖はかなり有名人であるにも関わらず本人にはその自覚は全くない。その証拠に毎日の様に浴びせられる他の女子生徒からの罵声や悪口も勿論、長年ハヅキが1人で受け止めてきたのだ。
そしてついでに言うと七袖は滅多に他人に興味を示さない。つまり名前も覚えなければ、顔すらも怪しい。その証拠にきっと七袖に初めてできたこの友達、ソフィアも『ツインテール』くらいにしか記憶に残らないであろう。
「ごめんね。ナナちゃん、何と『ド』が着くほど鈍感なの。」
「『ド』は最初から『鈍感』と言う言葉に着いているわよ。」
とツインテールが冷静に突っ込むと、3人はケラケラと笑った。
季節は春を迎え、七袖は卒業を控えた高等部の最終学年に上がり、ハヅキとソフィアは中等部に進学した。それは同時に、例の留学プログラムへの応募資格を満たす年齢でもあった。
いつかゆるーい感じでマギアとサピエンティアの学園ものを徒然に描いてみたいなと思う今日この頃です。