第3章 白銀の騎士
ある日、ハヅキと七袖は例の『白銀の騎士』と学院内の廊下ですれ違った。
「これはこれは、殿下。ご機嫌よう。」そう言って豊かなシルバーブロンドの髪を真後ろで束ねた華麗な女史がハヅキに挨拶をした。
その物腰は七袖とは対照的に女性的だ。だが今日は、男装をしているかのように鎧を纏っている。剣術の稽古に行くのだろう。銀色に輝く甲冑と、美しく磨かれたレイピアが彼女の優雅な姿を際立たせていた。
しかし人見知りのハヅキは折角の挨拶を前に、七袖の後ろへ隠れてしまう。
「お、おいハヅキ。失礼であろう。」と七袖が窘める。
すると白銀の騎士が言った。
「ふふ、いいのよ。七袖。ハヅキ様。いつか私ともお話ししてくださいね。」
そう言うと騎士は緩やかに微笑んだ。
「すまない、セレステ。こいつは恥ずかしがり屋なんだ。」
と七袖が呆れたように答える。
「あら可愛らしいわ。」
ハヅキは七袖の背中の後ろからセレステの様子を伺った。
(なんて綺麗な人。)
セレステを目にするのはこれが初めてではなかったが、改めて見るとやはりこの世のものとは思えない程美しいとハヅキは思った。
「それよりも、七袖。早くしないと稽古に遅れるわ。今日は合同だったでしょう。」
「げっ、ヤバイ!」と七袖は慌てて走り出した。
未だ背中にしがみつくハヅキを引っ張りながら七袖は急いだ。
「セレステ、今日は負けないぞ!」と叫びながら。
その様子を眺めながら、セレステは2人に笑顔で手を振った。
「ナナちゃん、あの人と仲良さそう。」
とハヅキは呟いた。
「ああ。セレステはマギアでも最強の剣士さ。」とウキウキした表情の七袖を見ながら、ハヅキは漸く七袖の背中から離れた。
「つまんない。」
そう言ってハヅキは嫉妬心を押さえながら言った。
しかし、七袖と仲の良いセレステへの小さな嫉妬心などかき消される程の妬みを、又しても他の女子生徒から買ってしまうのだった。
ちなみにセレステは第1部(第19章参照)・第2部(第12章参照)でも登場しております。ぜひご覧頂ければ幸いデス。