インタールード
ここは聖都、教皇の神殿にあるテラスに、ある人物が招かれていた。
教皇ミルティアスは普段よりも軽装で、よそ行き用ではない白のドレスを着ている。教皇の王冠も外しているため、豊かなブルネットの髪が背中に流れている。
「こんな秘密のお茶会に呼んでもらえるなんて光栄だな。ミルティ。」
そう言うのは王都からお忍びで訪れたカナン王、その人である。
「ちょっと、間男みたいな事言わないでくれる?気持ち悪い。」とミルティアスは吐き捨てた。
「つれないなあ。サピエンティアにいた頃は良くデートしたのにっ。」
と王は両手を絡ませながら椅子に深く腰を下ろした。
「うう…消したい過去。人生の汚点が教皇にもあるってことね。教訓だわ。」
「ふふ、さて今日は何の御用かな。」
「何の御用じゃないわよ。例の選抜試験、一体どうゆうつもりだったわけ?」
とミルティアスはその言動にイライラを隠さない。
「さて、何のことだろう。」と白々しく王は答えた。
「あっそう。まあ何かしら不正があるなら私が見逃す筈がないのだけど。私の網を潜り抜けるのは貴方くらいだと思ったのよ。」
「陽王朝からは例の皇太子君が来るそうだよ。なんと僕たちの後輩になるそうだ。」
「また話を逸らして…陽王朝…?」ミルティアスがまるでヒントでももらったかの様に考え込む。
「これ美味しいお茶だね。どこの?」と相変わらず和やかな王。
するとミルティアスはハッと思い付いたかの様に言った。
「ま、まさかカナン。あんた…」
「まあ仮にも僕の娘を送るわけだからね。世が世なら人質交換というやつさ。」
「そんなんで私を騙せると思ってるの?」とミルティアスは突っ撥ねた。
「嘘は言っていない。」と王は冷静に答える。
「全てを打ち明けてもいないわね。ほんとあんたって、昔っからそう…」
そう言うと2人は仲良く同時に午後の紅茶を啜った。ひと呼吸おくと、ミルティアスが静かに言った。
「東洋の地からかの力を奪えば、世界の均衡が崩れるわよ。それこそ戦争になりかねない。本気なの?」
「おっと、さすがミルティ。相変わらずの聡明さだ。」
するとミルティアスは再び紅茶を啜った後、冷たく王に言った。
「それは教皇である私の領域よ。この私の引退前に、全く…」
「ふふ、ここは最後の共同作業ってことで如何かな。」
相変わらず王は微笑を絶やさない。するとうんざりとした表情でミルティアスがため息混じりに答えた。
「カナン、もう帰って。」
これで『焦燥と月下のマギア(上)』完結となります。ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。同作(下)巻では、いよいよ陽王朝へ着いた一同が、王朝、使徒、吸血鬼を巻き込んだ大混戦へと巻き込まれて行きます。今後の槍の王シリーズの物語の根幹に当たる事象が描かれる予定です。どうぞ今後とも応援よろしくお願いいたします。