第22章 兄と妹
ハヅキが悪夢から目醒めると、まだ夜のままだった。
未だ眠りに戻れないハヅキは、ジャンゴジャンゴの客室をつなぐ廊下に出ると、船の窓から雲の上の夜空を眺めていた。
「眠れないのですか、ハヅキ様。」
それはハヅキを心配して追ってきたオングだった。
「オングさん、ごめんなさい。こんな夜遅くに外に出て。」
するとオングは優しく微笑んでハヅキに暖かいミルクの入ったマグを渡した。
「空の上は冷えます。これを飲んだらまたベットに戻ると良いでしょう。」
オングはまるで妹に接する様にハヅキを気遣った。
「ありがとう。」
わざわざミルクを用意してくれたオングに、ハヅキは心から感謝した。そして先ほどの悪夢の後、今は独りではない事に心底ホッとした。
「優しいんですね。オングさん。」
オングはその切れ長の目で少しだけ微笑むと答えた。
「私にも妹がいたのです。ちょうどハヅキ様と同じくらいの年頃です。」
そう言うとオングは何処か寂しそうな顔をして外の夜空を眺めた。
ハヅキは何故だかオングには気を許して話せる事に気づいた。それからミルクを飲み干すまで、2人は取り止めもなく色々なことを話した。
オングはその時、普段よりも笑顔を良く見せた。
「もし、私にもお兄ちゃんがいたら、オングさんみたいな人だったら良いな。」
とハヅキが欠伸をしながら言うと、オングは本当に嬉しそうに微笑んでいた。
「さあハヅキ様。もうお眠りください。陽王朝へはもうすぐです。」
その夜はハヅキが悪夢に悩まされる最後の夜となった。
それはこれから赴く陽王朝にて、ハヅキが姉ミツキと再会することを意味していた。