表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焦燥と月下のマギア(上)  作者: Sy
槍の王 第3部
20/24

第19章 移動召喚獣 ジャンゴジャンゴ

陽王朝へ発つ朝、グロシャークハウスにソフィアが見送りに来た。


せっかく出来た友達とのしばしの別れは、ハヅキにとって思ったよりも寂しいものだった。


「無事戻ってくるのよ、ハヅキ。手紙、書いてね。」


「うん、ソフィー。元気でね。」


と2人は涙ぐみながら抱きしめ合った。


王国と陽王朝はそれぞれ大陸の端から端に位置しているため、移動魔法を伴ったキャラバンですら地上を行き来すると1年以上掛かってしまう。だが、両国の貿易や旅行者のため、特別に用意されている移動方法があった。


それは移動召喚獣ジャンゴジャンゴである。


巨大で長い竜の形をした機械仕掛けの召喚獣は両国の魔法技術の結晶だった。幾度の成功と失敗を繰り返しながら造られたその移動要塞は両国の友好の象徴となり、今では愛称として『JJ』と人々に呼ばれ親しまれている。


巨大な竜の口を入り口とし、その肢体は空洞となり物資や人々を格納し空中を移動する事ができる。


ジャンゴジャンゴの登場により、両国の貿易と振興は益々発展し、現在の様な友好関係を築いたと言える。


この画期的な人造召喚獣のおかげで、移動時間は1年強から3週間へと短縮された。瞬間移動あるいは速力強化魔法を幾重にも組み合わせ、複雑な魔法円陣と術者達の魔力供給がその移動速度の源となっている。


ソフィアと別れた後JJの停留地に着いたハヅキは、先に到着していた七袖ナナソデ達と合流した。


そしてハヅキは余りに巨大なジャンゴジャンゴの姿に驚いた。


ハヅキと七袖にとってその存在を間近に見るのはこれが初めてだった。


「うわあ!スゴイ!」とハヅキが叫ぶ。


その巨大な召喚獣は空中に漂いながら、大きな鋼鉄の鎖によって地上に繋がれている。


「こんなものが存在するとは…驚きだ。」と七袖も驚嘆している。


「そうだろう、そうだろう。」となぜか隣にいた赤髪の大男が自慢げに言った。


するとハヅキのスーパー人見知りが発動し、パッと七袖の後ろに身を隠す。


「な、なんだよ嬢ちゃん。俺らこれからしばらく一緒なんだぜえ?ツレねえなあ。」


と残念そうにバルキエルはつぶやいた。


「あら皆さん、ご機嫌よう。」


それは貴族らしい可憐なドレスを着こなしたセレステだった。その豊かな銀色の髪が神々しい。


「本当に来たのか、セレステ。」と七袖が驚きを隠さない。


「もちろんよ。昨晩は楽しみで眠れなかったのよ。」とセレステが微笑む。


その後ろに馬車数台分に及ぶセレステの荷物を使用人達がJJに運んでいるが誰も突っ込まない。


「ハヅキ様。これを機会にお近づきになれたらとても光栄だわ。」


と続けてセレステが優しく微笑むが、さらに七袖の後ろに潜り込むハヅキ。


それをまた面白そうにセレステが眺めていた。


「な!なんてこった…こんな美しいお嬢様とご一緒できるとは…」と突然バルキエルが割り込んできた。


すかさずひざまずきセレステの手を取ろうとするがヒラリとかわされてしまう。


セレステの興味がすでに移動召喚獣の方へ移っていたからである。


「あの、ハヅキ様。これをどうぞ。」とオングがおもむろにハヅキにある物を手渡した。


それは近くの売店で購入したジャンゴジャンゴを模した小さな縫いぐるみだった。


するとハヅキが目をキラキラ輝かせてその可愛らしくも不細工な縫いぐるみを見つめている。が、発動した根暗な性格のせいか中々手を出せない。


そして了承を請うかの様に七袖を見つめた。七袖は「もらうといい。」と優しくうなずいた。


「あ、ありがとう。」と消え入る様な声を発しながらハヅキが恐る恐る縫いぐるみに手を伸ばした。


オングの眼差しは細く切れ長のその瞳の奥から、どこか優しさを感じさせる。とハヅキは思った。


「なんだよ、物で釣れんのか嬢ちゃんは。ホレホレ、じゃあ俺がさっき買ったこれやるぜ!」とバルキエルは同じく売店で購入したジャンゴジャンゴ印のスルメの様な駄菓子を一つ差し出した。


「イラナイ。」と冷たく言い放つハヅキ。その目はすでに可愛らしいJJの人形に釘付けである。


「おい、貴様。」と七袖が不機嫌そうにバルキエルを小突く。


「その『嬢ちゃん』と呼ぶのを止めろ。この方は姫なのだぞ!」


するとバルキエルは面倒くさそうに呟いた。


「なんだよう。じゃあなんて呼べばいいんだ。ハヅキ姫?俺らこれから長い付き合いなんだぜ?もっと気楽な呼び方にしてくれよ、なっ?」と相変わらず馴れ馴れしい。


(グズなのか、こいつは…)と七袖はわざと聞こえる様に舌打ちを鳴らす。


だがそれを無視し、バルキエルが「おっ、そうだ。」と、ポンっと手を叩いた。


「ズッキーにしよう。ガッハッハ!カワイイじゃねえか!」と笑い出すバルキエル。


ハヅキが顔を青くしながら手を両頬に当てながら叫んだ。


「絶対嫌っ!」


「そろそろ時間です。」とオングが囁く。


ジャンゴジャンゴの陽王朝への出発の時刻が迫っていた。


「絶対イヤーーーーー!」


とハヅキの叫び声がJJ出発駅に響いた。

最近、第3部の(下)のプロットを漸く書き始めました。年内には上下共に書き終えたい!と思います。頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ