第18章 灰色の教団
突然にハヅキと七袖の前に現れた謎の二人組は、聖職者と思われる聞き慣れない職名を名乗った。
最初に言葉を発したのは小柄な男だ。側頭部の頭髪を剃り込み、背中まで伸ばした長い襟足を三つ編みにしている。東洋の格闘家の様な道着を着ているためか、その様相は軽やかだ。
見慣れ無い謎の二人組に警戒する七袖がハヅキの前に進み、帯刀許可を得た細い長刀の鞘に手を置く。
「何者だ。」
すると、緊迫した空気を払う様に陽気な返答が帰ってきた。
「ハッ!気の強え女剣士だな!凛々しいが、それでは男の様だぞ!」
それはもう1人の男が発した言葉だった。彼の方は小柄な男に比べて随分体格が良く長身だ。その空に向かって逆立つ赤い髪が印象的だ。その瞳は獅子の様に黄金に輝いている。どちらの男も、年齢は七袖とそれほど変わらない様に見える。
その安い挑発に乗るかの様に七袖がそのまま剣を抜こうとする。
「おっと、まあ待てよ。俺たちは怪しいもんじゃねえ。俺はバルキエル。こっちはオング。おい、オング、だから言ったろ。お前はそもそも見た目からして怪しいんだよ。」
とバルキエルと名乗った陽気な男が小柄な男の方の背中をバンバンと叩きながら言った。
「も、申し訳ありません。」とオングが素直にハヅキと七袖に向かって頭を下げた。
だが七袖の警戒が解ける様子は未だ無い。
「巡回修道士とは?聞き慣れ無いな。」
相変わらず鞘に置いた手もそのままである。
「私たちは新設された『灰色の教団』の修道士。陽王朝へ向かうあなた方の護衛を承りました。」
すると「殿下。」と言いながら2人の男がハヅキの前に跪いた。
「こちらは王の書状にございます。」とオングは七袖に皮の封筒に入った手紙を差し出した。
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王からの手紙
『ハヅキ、七袖。僕の安心のためもう2人護衛をつけさせてもらうよ。
彼らは旅に慣れ、陽王朝へ行くための訓練を十二分に受けている。
ハヅキと七袖が向こうで自分自身の勉学に励むためにも、彼らは役に立つだろう。
じゃあ、気をつけて。
パパより♡』
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七袖は書状の内容を確認すると、それをハヅキにも見せた。
「ハヅキ、お前は王の事をパパと呼んでいるのか…」と七袖は動揺を隠さない。
「えっ、今そこ?ナナちゃんそこかなあ…」とハヅキが誤魔化す。
七袖は少しだけ咳払いをすると跪いたままの2人の男に向き直って言った。
「顔を上げろ。そういうことなら宜しく頼む。」
するとバルキエルはパアッと顔を輝かせ白い歯を出しながら笑顔で答えた。
「よっしゃあ!まあ俺らにドンと任せておけば嬢ちゃん達の安全は保証するぜっ!」
(どうも軽い男だ。)と七袖は思った。
これが七袖とバルキエルの最初の出会いである。
バルキエルは第1部から登場しています。ぜひそちらも読んで頂ければ嬉しいです!槍の王のシリーズリンクからご参照頂けます。