第17章 陽王朝へ
陽王朝はカナン王の統治する王国と同等の領土と国力を持つ東の大国である。その歴史は世界史で最も古いとされ、君主制と戦乱の世を繰り返してきた。現在は陽王朝により、一つの国として統治され百数十年目となる。
陽王朝に皇帝シヴァが即位してから、カナンの王国とは友好国となっている。だがその関係はそれほど堅固ではないと言わざる終えない。
それほどに陽王朝の治める土地は戦いによって歴史が刻まれ、権力と領土を広げることによってその存在を誇示してきた。
内政もまた不安定であり、乱世を生き延び、今でも腰淡々と下克上を狙う血気盛んな大名達がいれば、王朝に併合され皇帝に忠誠を尽くす小国の猛者達も存在する。
だが、その様な国が現在一つとなっている理由は、絶対的な権力と力を持つ皇帝シヴァの存在に他ならない。
そしてこの2つの大国の友好は一重に、皇帝シヴァとカナンの信頼関係に成り立つものだ。
もしこの両国が争う事になれば、伝説に残るかつての天上の大戦争よりも大きな規模となるに違いない。
そして、そのような重要な国への留学生として、ハヅキ達が選ばれたのだ。
その真の目的はどうあれ、それはハヅキの生まれた故郷へ帰ることも意味していた。
「ナナちゃん、いよいよだね。」
留学生、そして王国からの親善大使としての任命式、再び王の謁見の間に立ったハヅキは、横にいる七袖に囁いた。
「ああ、きっとミツキを救い出そう。」
2人は目を合わせると、硬く手を繋いだ。
すると外交官であるコルトバが王の元へ近づき、軽く耳打ちした。王は視線をハヅキと七袖の方に向けるといつもの様に和やかな声で言った。
「ハヅキ、七袖。君たちの代わりに来る陽王朝からの留学生はしばらく遅れるそうだ。だが、君たちの出発の日程に変わりはないよ。」
「ハッ。」と七袖が膝まづいて頷いた。ハヅキも真似をしようとしたが上手く膝を折る事ができず転びそうになった。
そんなハヅキを慌てて支える七袖。
そして王は続ける。
「学生諸君、そして護衛の者達よ。くれぐれも異国の地では安全に、そして実り多い成果を期待している。存分に楽しんでくるといい。」
そう言うと一斉に学生達から歓声が上がった。
胸を鼓舞されたハヅキがまた七袖の手を握り、そして言った。
「今度は3人で帰って来ようね。今の私たちの故郷はここなんだから。」
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それは2人が王宮を後にした時のことだった。
グロシャークへ向けて歩くハヅキと七袖の前に、ある二人組が現れたのは。
「こんにちは。ハヅキ様、七袖様。私達は巡回修道士と申します。」