第11章 驚異の少年
選抜試験会場は複数の競技場を設置しているため、ハヅキとガブリエルの対戦と並行して、他にも何組かの試合がすでに始まっている。この雰囲気だと、ハヅキのあがり症もなんとかなりそうだった。
それに幸運な事に、初戦の相手はこの小さなガキ…いや小さくて可愛らしい少年だ、と思いながらハヅキは構えた。
「あ、あの。ハヅキさん。」
「何よ?」と緊迫した試験会場で悠長に話しかけるガブリエルにハヅキが拍子抜けする。
「棄権してもいいですよ。僕女性と戦うの苦手なんです。」
とガブリエルがモゾモゾと両手の指を弄りながら言った。
(はい、カッチーン)とハヅキの中でゴングの鐘がなった。それは同時に黒ハヅキが完全に全身を支配した瞬間でもあった。
「あんた、舐めてんの!?」といつになく強気なハヅキ。
途端にハヅキの姿が消え、瞬足の身のこなしから体を反転させ、そのまま暗剣をガブリエルに向けて放つ。
「え、いや。そんなつもりは。僕はただ女の子に…」
ヒョイっと暗剣を軽々と躱しながらガブリエルはハヅキに続けて話し続ける。ガブリエルの視線は、視界から消えたはずのハヅキをしっかりと捉えていた。
「馬鹿にしないで!」
続けてハヅキの構えた両手の掌から氷の柱がガブリエル目掛けて放たれる。
「うわわっ」
と言いながら、それでもスルリと攻撃を躱すガブリエル 。
(何者なの?)
「はい、ひっかかりました。」とガブリエル は片手の指を鳴らしながら小さな声で囁いた。
途端にハヅキは自分の体の動きが静止したことに気付いた。それは疲労からではなく、明らかに敵の意図によるものだ。
「なっ、そんな…」と無理やり捕縛魔法を解こうとするハヅキ。
「えっ、すごい。声を出せるなんて。」とガブリエルが感心した。
するとガブリエルは右手で胸の上に十字を描き唱えた。
『黙示録の2、右の手に七つの星を持つ者よ、七つの金の燭台の間を歩む者よ。我が名は『神の言葉』。耳のあるものは聞け。燃える炎の瞳と光り輝く真鍮の蹄をたてよ。その口の劔で敵対者を屠れ!』
すると、ガブリエルを中心とした小さな魔法円陣の7つの端から閃光が走り、その光が彼の頭上に収束される。暫くするとその光は巨大な剣の形状になり、その光の剣を指差す様にガブリエルが右手を掲げた。
そしてガブリエルが右手を振り下ろすと同時に、光の剣がハヅキを狙って放たれた。その速度をハヅキが追う事は叶わず、そのまま彼女の真横を掠め、爆音と共に後方の壁に突き刺さった。例え捕縛魔法が効いていなくても躱せたとは思えない。
(マトモに受けたら死んじゃう…)
「ま、参りました。」と言ってハヅキはパタリと地面に腰を落とした。
後ろの壁がどうなったのか怖くて振り返れない。気のせいか会場の歓声の中に多少悲鳴にも似た女性達の声が聞こえる。それが苦痛からの悲鳴ではない事を祈るばかりだ。
すると試合終了のブザーが鳴り、歓声のボリュームがさらに上がった。会場はお祭り騒ぎの様を呈し、派手なガブリエルの技がそれをさらに煽った様だった。
「ウッソ、あなた眷属契約もすでに済ましてるって言うの!?」
とハヅキがガブリエルに尋ねた。
「まだ、僕では全然本来の『神の言葉』の力に届いていないんですけど…試してみようっ、と思って。」と言ってガブリエルはエヘヘと笑った。
ガブリエル、ラブ。