表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焦燥と月下のマギア(上)  作者: Sy
槍の王 第3部
1/24

プロローグ

「おとーさん!おかーさん!」


2人の幼い姉妹の悲鳴が共鳴するかの様に、小さくて簡素な奴隷用の民家に響き渡った。


「どうして?どうしてこんなことするの?」


姉であるミツキが叫んだ。だがその幼い声は、容赦無く両親を斬りつける兵士達には届かない。


「おねえちゃん、怖いよう…」


妹のハヅキがミツキの衣服の袖を小さな手で必死に掴みながら小声で囁いた。2人の目には絶望の涙が浮かんでいる。


「賢者様達の託宣たくせんなんて当てになるんですかね。こんな小汚い奴隷の娘なんかが本当に?」


真っ黒なたてがみを背中に蓄えた獣人族の兵士が上官に尋ねた。すると、すぐに威厳のある声で左右の側頭部から鹿の様な角を生やした上官が答えた。


「口を慎むんだな。俺たちはただ我がみかどの命に従うのみだ。」


そう言い放った上官の左側の角が途中で折れているが、新しい傷ではない様だ。生まれつきの様に見えなくもない。


自分達の小さな体の数倍の大きさもあるその獣達の姿に、幼い2人はただ恐怖に震えるだけだった。


そして両親から流れ出た血溜まりの中に、幼い2人は素足で立っていた。


ミツキは未だに、その生暖かい液体の感触を覚えている。


突然両親を目の前で惨殺されたあの胸の痛みも。


そして、この手から離してしまった妹の掌の温かみでさえ。


「ハヅキ…」


ミツキは絶望の中再び目を覚ます。


気の遠くなる様な人体実験の繰り返し。身体の痛みはもうとっくに忘れてしまった。


今はなぜ生きているのかも分からない。


しかしミツキはあらがった。


この小さくて何の意味もない人生の結末に。その思いからか、ミツキは暗い実験室の中でこう囁いた。


「ナナちゃん…。」


それは以前に、幼い双子の姉妹を救ってくれた女剣士の名前だった。


その名はミツキにとって、希望の象徴だったのかもしれない。

第3部はじまりました〜。上・下に分ける!と言う決断をしてから早かったです。いきなり異国!にはならず、まずはもう一つ、学園ものをお楽しみ頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ