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5 純粋な人

 翌朝いつもより早く目が覚めた。

 いつもは気だるい朝なのに、なんと爽やかなこと。

 歯磨きやら洗顔やらをすませ、朝食をとる。

 昨日のことが夢だったのでは?とふと思ってしまったが、そんなことない、と自分に言い聞かせた。



「さて」



 服はどうしようか。

 とりあえず昨日着た服は洗濯しておいた。

 これ着て出歩くのはちょっとなー……

 マキシ丈ワンピ着てけばいいかな。

 ピンクのマキシワンピ。

 これならきっと大丈夫たろう。

 もしダメならまたこの制服借りよ。

 薄手のカーディガンを羽織って、露出を控えめに。



「いざ異世界へ!」



 ジュリーの家のガーデンテーブルセット。

 椅子をひき、そして座る。

 ドキドキしているのがよく分かる。

 向こうに行けなかったらどうしよう……

 そっと目をつぶり……



「お、来たなー」



 バチッと目を開ける。

 目の前にはカウンター内で新聞らしきものを読んでいるジュリーだ。



「よかったあーーー」



 はぁーっと深いため息をついてカウンターに突っ伏す。



「来れないかと思ったか」



 ハハと笑いながら言われる。



「うん。来られてほっとしたー」



「にしても結構早めに来たなー、お?今日はそれらしい格好だな。」



「この服なら大丈夫かな?昨日の制服に着替えた方がいい?」



「ああ、そのままで別にいいんじゃね?」



 さらりと軽く答えられる。

 うん。じゃこの服で。



「ジュリー、お店は何時オープン?」



「んー?客がきたその時からだ!今日は祝日だし昨日の今日だから混むぞー、洗いもんと蜂蜜よろしく。」



 相変わらず適当だな、おい。

 ん?蜂蜜よろしくとな?

 お店のベルがなる。



「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」



 今日初めてのお客様は紳士なおじ様2人。



「やあ、ジュリー、姪御さんの話を聞いたよ。君がそうかい?可愛らしいお嬢さん、はじめまして」



 ニコニコしながら紳士が言う。



「はじめまして、夢子と言います」



 ニコニコ紳士はゴホン、と軽く咳払いし、



「夢子さん、我々にも薬を頼むよ」



 そう言って席に座る。

 蜂蜜か。

 蜂蜜なのか。



「はい、お待ちください」



 紅茶と蜂蜜を用意している間にも次々とお客様がお見えになった。

 紳士なおじ様達が蜂蜜に目を輝かせながら紅茶を飲む姿、それはそれは可愛らしく胸きゅんである……

 可愛らしいわ。

 なんでもこのティールーム内での話はすぐに噂になるそうな。

 蜂蜜紅茶と私が招かれた話は一夜にしてあっという間に広まったらしい。

 恐るべし紳士ネットワーク。




「こんにちは、ジュリー、夢子さん」



 ボールトン伯爵がいらした。

 伯爵と一緒に若い男性が1人。

 離れていてもよくわかる。

 これはあれだ。

 輝くオーラだ。

 び、美形オーラが眩しい……

 高身長にスラリとした手足、高い形の良い鼻、切れ長の目に長いまつ毛、サラサラの暗めな茶髪。



「おっ、エディ、久しぶりだな。元気だったか?」



 ジュリーが美しい彼に声をかける。



「お久しぶりです、ジュリー。昨日訓練から帰宅しました」



 微笑みながら答える若者。

 訓練てなんだ?

 美しくなる訓練か?

 チラと私を見て再びニコリと微笑む彼。



「はじめまして、貴女が夢子さんですね、俺はエドワードです。父から聞いた通りだ、とても可愛らしい」



 はっ!?

 な、何か幻聴が!!

 美しい人に可愛らしいと言われた?言われた!?

 顔が真っ赤になる。

 自分でもわかる。耳まで赤い。

 頭が真っ白になり軽くパニックである。



「まあ座れや」



 ジュリーが2人にカウンターをすすめる。

 動けないでいる私の腕をジュリーが軽く引っ張り現実に戻してくれた。



「夢子、しっかりしろ、この世界の若者は皆あんな感じだぞ。そんなんじゃお前ここでは生き残れんぞ」



 ぐふっ!

 な、なんて恐ろしい世界!!



「夢子さん、噂を聞きましてね、我々にも薬をお願いするよ」



 ボールトン伯爵が言う。



「いや、俺は遠慮します」



 さわやかにサラリと蜂蜜を断るエドワード様。



「甘いものはあまり……ご覧の通り風邪はひいていませんので」



 微笑みながら言うエドワード様。

 まあ本人いらないならいらないでいいんじゃね?



「相変わらず真面目だねえ」



「夢子さん、エディは末の3番目の息子でね、真面目の塊みたいな奴なんですよ」



 困ったもんだといった感じで話をされるボールトン伯爵。



「そんな、真面目なのは素晴らしい事だと思います。私も見習わなきゃ」



 店内にベルが鳴り響く。



「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」



 ゆっくりお話してみたかったけど次々お客様がいらっしゃる。

 今日は若いお客様も多く、ジュリーの言う通り美形な人ばかりだ。

 たくさんの美辞麗句にドキドキしながらもお仕事は手を抜かずに。

 蜂蜜紅茶、すっかり定番人気メニューになったようだ。

 カウンターの方を気にしてみるとボールトン伯爵もニコニコしながら紅茶を飲んでいる。

 おそらくエドワード様はストレートで飲んでいるであろう。

 カウンターの方に戻るとボールトン伯爵が話しかけてくる。



「夢子さん、とても美味しく頂いているよ。どうもありがとう」



「それは嬉しいです!蜂蜜の他にも生姜を入れたり、すりおろしリンゴを入れると風邪には効果的なんですよ」



「へえ、夢子さんの知識は素晴らしいですな。紅茶が本当にお好きなのだね」



 ボールトン伯爵が感心したように言ってくださる。



「俺もそう思います。好きな事を仕事にされて、立派に知識を活かしている。誰しもが出来ることではありません」



 エドワード様までが言う。



「いえ、あの……」



 褒められた。

 素直に嬉しい。

 でも……



「あの……私はここの従業員ではないのです。ただの手伝いで……」



 そう、ここで、働いているわけではない。

 現実を見なければ。

 この異世界ティールームで働いているって勘違いしそうになっていた。ここには遊びに来てるんだから。



「自分の世界では……就職が決まらなくて、仕事がなくて、実家に甘えながら過ごしてます……恥ずかしい話ですが、23にもなって自立出来てないんです」



 実家だけでなく、この異世界にも甘えてるんだ、私。



「紅茶は趣味みたいなもので、知識だけは確かにあります。それを活かしてお仕事出来れば確かに良いのですが……やはり就職となると難しくて」



 食品関係の面接も受けてみたけど全滅だったもんね。

 てか何さらけ出してんだろ私、恥ずかしい。涙目になってきたわよ。



 ハハハと苦笑いすると、突然エドワード様が立ち上がって真っ直ぐ私に頭を下げてきた。



 え?なに?



「すみません、夢子さん……俺の発言のせいで貴女に不快な想いをさせてしまった」



 は?

 な、なんですと?



「しかし、俺は……己と向き合い考え、自立しようとする貴女を尊敬する」



 え?

 尊敬?



「あ、あの、その、ああああ頭を上げてください、どうかお願いです」



 プチパニックである。

 とにかく頭を上げてほしくてお願いする。



「不快な思いだなんてとんでもない、逆に色々と気づかされたんです。気にしてなんかいませんから!感謝したいほどですから!」



 エドワード様の一言がなければこの異世界で浮かれてジュリーに甘えて過ごすとこだった。あぶないあぶない、そんなのは現実世界と変わらない。



「エドワード様のおかげで、しっかりと自分を見つめ直す事が出来そうです。どうもありがとうございます。なので、どうか頭を上げてください」



 ゆっくりと申し訳なさそうにエドワード様が頭を上げる。

 真っ直ぐに私を見る曇りのない深いブルーの瞳。ああ、この人は真面目というよりとても純粋な人なんだろう……目を見ればわかる。



「何かお詫びが出来れば良いのだが……」



「お詫びだなんてとんでもない!」



「しかし……」



 頼むからそんな美しい顔で申し訳なさそうな悲しそうな表情をしないでおくれ!

 全然気にしてないのに!

 困ってジュリーを見るとめっちゃニヤニヤしてるでないか!

 なんだこのおっさん!

 なんかムカつくな、おい!



「ああああの、でしたら!」



 思い切って言ってみよう。

 この異世界に来てずっと思っていた事を。



「私の淹れた紅茶を飲んで頂けますか?」

お読み下さりありがとうございます!

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