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3 蜂蜜紅茶

「この世界で生きてくと決めた?」



「そ。この世界に骨を埋めるのさ」



 そう言ってニカッと笑うジュリー。



「夢子、入り口のドア開けてごらん」



 入り口?

 言われたままにドアを開ける。

 カランカランと音がなり……



「あれ?」



 扉の向こうは庭だ。

 私が元の世界の庭で見つけたガーデンテーブルセットが置かれている。

 後ろを見る。

 ジュリーが笑いながら手を振っている。



「行き来自由……」



 ほっとした。

 いつでも帰れる。

 ドアを閉めてジュリーの元に戻る。



「な?戻れるだろ?」



「夢子さんにとってはドアの向こう側が元の世界なのだね。不思議なものだね」



 紳士なおじ様はそのドアからお店に入ってきた。

 ということは……本来ドアの向こうはこの世界のお外なのか。



「俺はね夢子、ある日この世界から帰れなくなった。それは自分でこの世界で生きると決めた日からだよ」



「どうしてこの世界で生きてく事にしたの?」



「うーん、話せば長くなるからまた今度な。」



「え、気になる!」



「そろそろ忙しくなる時間だ。夢子、お前暇なら手伝ってけよ」



「うん……」



 どうやら教えてくれる気はないらしい。まあいっか。そのうち教えてくれるだろう。



「それでは私はそろそろ行くとするよ。夢子さん、また今度」



 そう言って紳士なおじ様は、爪のサイズ程の銀色で出来た四角いお金らしきものを置いて行ってしまった。



「ありがとうございましたー」



 そう言ってハッと思い出す。



「お名前聞くの忘れてた……」



「彼はボールトン伯爵」



 茶器を片付けながらジュリーが教えてくれた。



「ここの常連だよ」



「そっか、じゃあまた会えるね。素敵なおじ様だったな」



 お客様がいない今、ジュリーからこの世界の話を聞いた。

 どうやらこの世界は階級社会らしい。

 王様がいて、貴族がいて、私のような庶民の皆様がいらっしゃる。

 このお店は王都のセレブ街にあって、貴族の皆様の憩いの場になっているそうな。

 古いお店だが長い歴史があるらしい。

 そして何より驚いたのが、この世界には魔法というものがあるという。

 ゲームの中でしか見た事のない魔法、見てみたい。



「ジュリー、何か魔法使ってみて!!」



「ほらよ」



 そう言うとジュリーは細い銀色の棒を持って、赤紫色の小石が丸く敷き詰められたガスコンロのようなものをコンコンと軽く叩いた。



「おおおお!!!」



 ボワっと勢いよく火が点いたではないか!



「何これどうなってんの?!」



 鼻息荒くジュリーに聞く。



「うーん、なんでもこの銀の杖に火の魔力が込められているらしく、この杖とセットになってるコンロを叩くと火が点くっぽい。

ぶっちゃけ俺にも仕組みはよくわからんし、この世界の魔法についても詳しく知らん」



 すげーよなーって笑いながら言ってるけど、私からしたらコレは奇跡ですよー。

 なんなのこの世界、楽しすぎる。



「じゃ、この蛇口のようなものは?水?」



 コンロの隣にある蛇口のようなもの。



「これはそう、水」



 ジュリーが蛇口に手を触れるとなんと水が出てくるではないか。



「なにこれどうなってるの?」



「このブレスレットに魔石とかいうのがついてて……お?お前俺がやったブレスレットつけてる!それ魔石ついてるやつだわ。手かざしてみ?」



 そーいやジュリーに貰ったブレスレットつけてたな。

 これ魔石とかいうやつだったのか。

 どれどれ。



 蛇口に手をかざすと水がシャーっと出てきた。



「うお!なにこれすごい」



「すげー世界だよなー」



 何この世界、ファンタジー!魔法の仕組みなんて皆目見当もつかない。

 でもそれで全然構わない、だって異世界だもの!凄い、ステキ!




 カランとお店のベルが鳴る。

 おっとお客様だわ。

 興奮してる場合でない。



「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー」



 やはり身なりのいいおじ様がご来店。



「やあジュリー」



 チラと私の方を見る。



「こちらの素敵なレディは?」



 きゃっ。素敵だなんて。

 ポッと頬が紅くなる。



「俺の姪ですよ。ちょっと手伝い中」



 カウンターに座るおじ様。



「はじめまして。夢子といいます」



 ニコリとご挨拶。



「笑顔が美しいですな。私はローデンという」



「ローデン様」



 普段褒められる事なんてないからなんだか照れてしまう。

 この世界の紳士はみんなこんな感じなのかしら?

 うっとりしちゃうわ。



 ローデン様を皮切りに次々とお客様がやってきた。

 その度に挨拶をする。

 そして褒められる。

 何この世界、優しすぎる。



 空いてる席に案内をして、ティーカップ、ポットを用意。

 ジュリーが淹れた紅茶を席まで運び、空いた食器類を洗って片付け、テーブルを拭く。



 メニュー表らしきものはない。

 皆様ジュリーが勝手に淹れた紅茶を何も言わずに飲まれていらっしゃる。



 どれくらい時間が過ぎたのだろう。

 ようやくお客様が落ち着いて来た頃にふと気がついた。



「ねえジュリー、女性客がいないのはなんで?」



 女の人来ないのはなぜ?

 喫茶店って女の人のイメージよね?



「あー、この世界な、女性はコーヒー派が多い」



「え、そうなの?」



「ミルク入れたり、砂糖入れまくって激甘で飲むのが良いらしい。紅茶は紳士の飲み物なんだとさ」



「へー、なるほどねー!」



 紅茶は紳士の飲み物かー。



「ゴホンゴホン」



 カウンターの隅にいたおじ様が軽く咳をした。

 何度かコンコンしていたので気になってしまう。風邪でもひいてるのかな?

 じっと見ていたのがバレたのだろう。目が合ってしまった。



「これは失礼。どうやら少し風邪をひいたようだ」



「あ、それなら……」



 さっき片付けしてる時に見つけた蜂蜜。

 それを持ってきておじ様の所へ。



「蜂蜜は喉にいいですよ。風邪ひいてる時にはお薬にもなりますから。紅茶に少し入れませんか?」



 ニコリと微笑みながらオススメした。



 その瞬間、空気が変わった。

 おじ様の眉間にシワが寄り、3名ほど店内にいるお客様がこちらをじっと見た。

 不安になってジュリーを見ると困ったような顔をしているのがわかる。



 え?何か私変な事言った?

 庶民の小娘の余計なお世話だった?



「お嬢さん、蜂蜜は薬になると言ったかい?」



「え、あ、はい。蜂蜜は殺菌作用があるので喉が痛い時や風邪をひいた時には薬としてオススメです……」



 どんどん声が小さくなってしまう。

 おじ様にはジロリとにらまれてしまった。

 どうしよう、手が震える。

 私何か失礼したのかな。



「薬ならばいただこう!お嬢さん、たっぷりお願いする」



 おじ様の目がキラリと光る。

 な、なんだろ……なんでか少し嬉しそうなような興奮気味というか。



「は、はい」



 蜂蜜をスプーンですくってティーカップへ。

 2杯程でいいかな?

 溶けるまで混ぜて、おじ様へカップをお返しする。



「お嬢さん、ありがとう」



 そう言っておじ様はグイッと紅茶を飲む。

 一気に飲みほし、目を輝かせながら満足そうにカップを置く。



「ふぅ……いい薬だったよ、お嬢さん」



 そう言ってニッコリ笑い、お金を置いておじ様は去っていった。



「ゴホンゴホン」

「ゲホゲホ」

「ゴホンケホッ」



 突然咳の合唱が店内にこだまする。

 一体どうした、何が起きている。



「お嬢さん、私にも薬を」

「私にも」

「こちらもお願いする」



 ジュリーを見ると苦笑いしながらうんうんと頷かれたので、とりあえずはお客様のリクエストにお応えしよう。



「はい、今行きますー!」

お読み下さりありがとうございます!

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