19 精霊王再び〜スコーンの秘密〜
「はー」
無事終わった。
やりきった感がある。
「なんとかうまくいったな」
「ジュリーはニートにならずにすみそうだね」
「お前のおかけだ、ありがとな!」
そう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「へへ、役に立てて良かった」
その瞬間である。
見たような光景が。
店内に眩い光と大きな円い陣が現れる。
これはまさか……
青い髪の……
「ん?何処だここは?」
「「別人かいいい!」」
思わず突っ込んでしまった私とジュリー。
青ではなく赤髪長髪の男の人が立っている。
赤いインドのサリー服のようなものを着ている。
水の精霊王と同じように華奢で美しいのは確かだがなんというかこう少し偉そうに見える。
「ん?なんだお前らは」
いや、それこっちの台詞なんだが……
「ええと、私は夢子といいます。こちらはジュリー。あなた様は……」
「火の精霊王だ」
水の次は火のですか……
なぜだろう……もうファンタジー的なことが起きてもあんまり驚かない。
じーっと私を見てくる精霊王。
「んん?お前か!なかなか面白かったぞ」
そう言ってニカっと笑う精霊王。
何か面白いことしましたか、私。
「普通火をおこすのにあんなに必死に祈る奴はいない、あまりにも滑稽で可笑しくてな。人間なんぞに興味はなかったんだが、思わず出てきてしまった」
「そ、そうですか……」
「ん?お前水の精霊王から慈愛を受けているのか。ずいぶんと気に入られたみたいだな」
え、なにそれ?慈愛ってどういう事?
「ふむ、その様子だと何も知らんらしいな」
ジュリーも私も顔を見合わせる。
「久々に笑わせてもらった礼に教えてやろう。魔法を使うのに必要な物がわかるか?」
「ええと、魔石と付属してる杖ですか?」
呆れたようにハハハと笑われる。
なんかすいませんね、何もわかってないもんで。
「魔法を使うのに魔石も杖も何もいらない。今これを知ってる人間はおそらくいないだろうな」
え、そうなの?
「必要なのは念だ。お前らがわかりやすい様に言い換えるとすれば……そうだな『愛』だな。念は澄んでいればいるだけ大きなものとなる。魔石や杖は単なるきっかけに過ぎん。大昔の人間が子供に生活魔法を教えるのに魔石を使っていた。それが根付き時が流れ主流になったのだろう」
「ええと、じゃあ愛を込めて念じれば魔法使えるって事ですか?どんな魔法でも?」
「澄んだ気持ちを持って念じればどんな魔法も使えるだろうな」
「澄んだ気持ち……」
「お前が火を使う時に念じた気持ち、あれは見事だったぞ。汚れのない澄んだ念だった。その念をもって火魔法を使い何か焼いていたのであろう?」
「はい、お菓子のスコーンを」
「その菓子はたいそう美味く出来上がったに違いない。料理に使う水や火に澄んだ念を込めればそれだけ美味くなる。念は人間の心にそのまま届くからな」
料理は愛情ってやつですかね。
「小娘、お前のその純粋な心が強き魔法の源だ。たいした魔法の使い手になれるだろう」
チラとジュリーを見る精霊王。
「男、お前にもその素質は備わっているぞ。隠していても俺にはわかる」
「え……」
言葉に詰まるジュリー、どういう意味だろう?
「まあいい。折角だから俺もお前に慈愛を授けてやる」
そう言って私の方に手をかざす精霊王。
胸元が暖かくなった気がした。
「精霊王は気に入った人間には手助けをする。それが慈愛だ。困った時はその石を通して俺を呼べ」
そう言うと精霊王は消えていった。
胸元を見れば水の精霊王からもらった青い石に赤い色がマーブルの様に混ざりあっている。
今度は火の精霊王ですか……
私……魔法使い目指してるんじゃないんだけどなあ……
ハアー、と深いため息をついて1日が終わった。
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