【第8話】Coffee Break『二人だけの』
当作品は女子生徒と女性教師の二人の視点から交互(1〜2話毎)に話が進んでいきます。
なおサブタイトルの見方は、
Spring①(生徒・菜美視点)
その話(内容)における大まかな季節
通し番号
生徒と先生どちらの視点(語り)か
視点(語り)側の名前
という構成です(第1話を例にしています)。
また時折挟まる『Coffee Break』は、本編で出てきたエピソードの詳細や本編には出てこない彼らの日常を会話主体で描いた小話です。飛ばして頂いても差し支えありませんが、本編と一緒にお楽しみ頂けたら幸いです。
新学期から三週間ほど過ぎたある日。麻生菜美が密かに日課にしていたことが鳴海千尋にバレてしまった。
「…お、麻生じゃん。おはよう。ていうかこんな早くから来ていたんだな…ってお前何してるの?」
「なっななな鳴海先生…!?鳴海先生こそ何故こんな早くに…?」
「俺だってたまには早く来るんだよ!普段だってギリギリ間に合っているし!そしてその新種の生き物に遭遇したみたいな顔やめろ!地味に傷つくから!……まぁ一応聞いたものの、麻生が何をしているかは分かったわけだが。」
「…ごめんなさい。」
「何で謝るんだよ。…麻生だったんだな。毎日黒板を綺麗にしてくれて、チョークも揃えてくれて、鉢植えにも水をやっていてくれていたのは。」
「勝手な真似をしてごめんなさい。ただ鉢植え…クレマチスって毎日水をあげないと枯れちゃうみたいで…。」
「まぁ持ってきた生徒自身が『自分はマメじゃないから枯らせそう。誰か代わりに頼む!』って言っていたものな。」
「少し様子見ていたんですけど、誰も水をあげる気配がなかったので…。」
「それで麻生が水やりを引き受けてくれたんだな。で、そのついでに黒板掃除も?」
「はい。私、通勤ラッシュが苦手なので、早めに家を出ているんです。最初は本でも読んで過ごそうと思ったんですけど、何か気になってしまって…。」
「そうだったんだな。でも麻生のおかげで俺達教師は気持ちよく授業が出来ているよ。他の先生からも『鳴海先生のクラスが一限目だとテンション上がるんですよね。』って言われて俺も嬉しかったし。…でも誰がやってくれているか分からなかったし、良くも悪くも自己主張の強い生徒が多いこのクラスで黙秘しているということはあまり知られたくないのかなと思ったんだよ。」
「…恥ずかしかったんです。それに私みたいな生徒がこんなことしていたらただの点数稼ぎに思われそうで…。」
「誰もそんなこと思わないだろうけど、何だか麻生らしいな。まぁ知られたくないならこれは二人だけの秘密にしておこうな。」
「鳴海先生との…秘密…?」
「そ、麻生と俺の秘密。でも御礼くらいは言わせて欲しい。…麻生、いつもありがとう。」
「いえ…こちらこそわざわざありがとうございます。これからもっと頑張ります!」
「いや、もうこれで十分だよ。まぁもし頑張ってくれるなら化学の勉強の方でお願いしたいかな。」
「ぜ…善処します。」
「ところでさ、毎朝早く来ていたら二番目に来る生徒とかに怪しまれないか?いや、麻生は何も悪いことしていないけど。」
「あ、それなら大丈夫です。うちのクラスみんなのんびり登校してくるし、わざと一度教室を出て時間潰してからまた戻ったりもしているので。」
「そこまでしてバレたくないのかよ…。」