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【第39話】Summer〜Autumn①(生徒・菜美視点)

当作品は女子生徒と女性教師の二人の視点から交互(1〜2話毎)に話が進んでいきます。

なおサブタイトルの見方は、


Spring①(生徒・菜美視点)


その話(内容)における大まかな季節

通し番号

生徒と先生どちらの視点(語り)か

視点(語り)側の名前


という構成です(第1話を例にしています)。


また時折挟まる『Coffee Break』は、本編で出てきたエピソードの詳細や本編には出てこない彼らの日常を会話主体で描いた小話です。飛ばして頂いても差し支えありませんが、本編と一緒にお楽しみ頂けたら幸いです。

 高校最後の夏休みはたくさんの甘酸っぱい思い出とともに過ぎていった。

 そして今日から二学期が始まる。始業式とロングホームルームだけだが、初日から異様な盛り上がりを見せていた。きっと他のクラスも同じだろう。


「お盆明けの登校日でも触れた通り、今日中に文化祭の出し物を決めたいと思います。」

「真剣に、でも時に勢いと直感も大切にしながら決めるんだぞ!」


 これは小牧ちゃんと鳴海先生の発言…ではなく文化祭実行委員のクラス代表である彩乃とモモによるもの。まとめ役の彩乃と盛り上げ役のモモという役割分担が上手く出来ている。

 登校日の時点で既に候補はメイド喫茶、執事喫茶、普通の(?)喫茶店の三つに絞られている。とりあえず方向性は一致しているようだ。モモに至っては偶然入ったあの喫茶店がお気に入りということもあり(あの後も一人で通っていると聞いた)「レトロで!サイフォンで!俺マスターで!「あちらのお客様からです。』がやりたい!」と騒いだものの、「レトロはとにかくサイフォンは無理。モモがマスターだとうるさそう。あちらのお客様は一人で勝手にやれ。」という彩乃のあしらいにより議論に掛けられることなく却下された。


 一方の鳴海先生と小牧ちゃんは余計な口を挟まず、私達の話し合いを見守ってくれている。

 登校日の際、私は二人に対して素っ気ない態度を取ってしまった。今だって完全に立ち直ったかというとそういうわけでもない。隙あれば弱くて未熟な自分が顔を出す。

 でも気まずいまま残り半年を過ごしたくない。また勉強を教えてもらいたいし、何よりもっと色々な話がしたい。二人からしたら私はあくまでも大勢いる生徒の一人だろうけど、少しでも思い出を作りたい。先生達との。みんなとの。だから頑張りたい。自分に出来ることを。

 半年前に比べると少しは成長出来たのかな。そうだったら嬉しいな。


 とはいえまだまだ揺れ動く私の心とは裏腹に、クラスの出し物はすんなりとまとまったようだ。


「……よし、執事もメイドもいる普通の喫茶店をやろう!賛成なら拍手ー!!」


 “普通”とは何なのだろう。でもモモらしい発想だと思った。実際クラスメイト達の意見も「メイドもいいけど執事も捨て難い。」や「どちらも良いけど強いて言うなら執事かな。」や「衣装だけ執事とメイドにして普通に接客する?」など良い意味でどれでも良いという感じだったせいか、あっという間に拍手と歓声が教室中に広まった。彩乃も「…ま、それでもいっか。」と苦笑しながらも拍手をする。


「…鳴海先生、小牧先生。これで良いでしょうか?」


 音が止んだところで彩乃が先生達に声を掛ける。


「えぇ、勿論よ。みんなの執事とメイド姿を楽しみにしているわね。」

「俺も同意。…さて、と。俺達は職員会議があるからそろそろ行かないといけない。もう本来のロングホームルームの時間は終わっているから、話し合いが一段落着いたところで適宜解散して大丈夫だ。報告は明日でいいから百瀬と東雲の指示に従ってくれ。申し訳ないが二人とも後は頼んだぞ。」

「分かりました。」

「ちっひー、小牧ちゃん、いってらっしゃーい!」

「みんな、まだ新学期初日だから飛ばし過ぎないでね。」


 しかし小牧ちゃんの忠告も虚しく話し合いは延長戦に突入し、久しぶりの学校&最後の文化祭ということもありどんどん教室内の熱が上がっていく。

 …今思えば先生達が去った時点で止めておけば良かったのだ。でも誰一人としてそれを言わなかった。途中で忘れ物に気づき戻って来た鳴海先生も最初は「お前ら頑張るなー。まぁ楽しいならそれが一番だけどな。」と言いながらしばらく私達の話し合い(というよりもはや演説会)を見守っていた。会議が始まるまでまだ20分程あったらしい。

 しかし次々とアイデアが出て、それがどんどん採用されていく内に鳴海先生の顔が引きつっていく。実際「じゃあ鳴海先生には……」という発言も出て、「マジかよ…。」とせっかくのカッコよさが台無しと思えるくらい顔を歪ませた(これはこれでレアで良いかも…と思ったことは絶対に秘密)。

 奇しくも職員会議の時間が迫り、「まぁ…頑張れ。」と呟きながら再び去っていった。


「…そろそろお開きにしないとね。じゃあ最後に会見担当だけ決めちゃおう。」

「どうせ立候補はいないだろうし、ここはみんな大好きくじ引きでサクッと決めちゃおう!」


 さすがに一時間半以上話し合っていればみんな疲れてくるだろう。彩乃とモモの提案に反対は無かった。

 モモが即席で紙のくじ引きを作り、引きたい人からどんどん引いていく(彩乃とモモは除外)。私は中盤に並んだ美咲の次に引いたところ…


「……!」

「麻生ちゃん、大当たりー!」

「じゃあ菜美が会計でよろしく。」

「菜美ちゃんなら大丈夫だよぉ!」

「麻生さんには悪いけど助かった…!」


 モモ、彩乃、美咲、そして私の後ろに並んでいた一宮くんが次々と声を掛けてくる。他のクラスメイトも(内心自分で無くて良かったと思いながら)応援や励ましの言葉を口にする。

 …あれ?もしかして私、クラスに馴染んでいる?正直会計はやりたくなかったけど、頑張ればこれも思い出作りの一つになるかもしれない。ピンチはチャンスというヤツだろうか。

 疲労と興奮が良い意味で普段の自分を崩す。私は教室内を見渡し、大きく息を吸ってから声を張り上げる。


「…私、会計やります。精一杯頑張ります。だからみんなで高校最後の文化祭を思いきり楽しもう!よろしくお願いします!」


 深々と一礼し、再び顔を上げると出し物が決まった時と同じくらいの大きな拍手と歓声が迎えてくれた。


「うん!思いきり楽しもうね!」


 満面の笑顔を浮かべたモモが、曲げた腕を差し出してくる。半袖から覗かせる腕は思った以上に逞しい。私も同じように自分の腕を差し出し、お互いの肌が触れるか触れないかの位置でクロスさせる。


 文化祭まであと一ヶ月。


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