【第2話】Spring②(生徒・菜美視点)
当作品は女子生徒と女性教師の二人の視点から交互(1〜2話毎)に話が進んでいきます。
なおサブタイトルの見方は、
Spring①(生徒・菜美視点)
その話(内容)における大まかな季節
通し番号
生徒と先生どちらの視点(語り)か
視点(語り)側の名前
という構成です(第1話を例にしています)。
「こちらこそふつつか者ですがよろしくお願いします!お婿にもらって下さい!」
隣に座っていた男子が勢いよく立ち上がり、声高らかに言い放つ。小牧先生の時ほどではないけど、また一瞬温度が下がる教室。そしてまたもや笑いが起こったものの、今度のそれは何処か親しみの感じられるものだった。
「モモちゃん、かっこかわいー!」
「モモお前マジで最高!」
かっこいいのかかわいいのか両方なのかイマイチよく分からない女子生徒の声や、待ってましたとばかりに賞賛する男子生徒。他の生徒も概ね同じ気持ちらしく、席の近い者同士で盛り上がっている。
…噂通りの男子だわ、百瀬裕太。
通称“学校一のお祭り男”。しかも自然と派生したものではなく、本人自らそう称して浸透させたのだ。同じクラスになったことがないものの選択科目で一緒になったことがあるので彼の顔と名前は一方的に知っているが、さすがに相手は私のことは知らないだろう。
でもこの自称お祭り男のおかげでクラス内は適度な温度を取り戻し、小牧先生のゆでダコ具合もほんの少し落ち着いたようだ。
「とりあえず百瀬の引き取り先も無事に決まったところで次の話にいくぞー。」
鳴海先生が綺麗にまとめたところでまた少し笑いが起こったが、今度はすぐにフェードアウトし鳴海先生の声だけがしばらくは響き渡った。
彼はさりげなく小牧先生を助けたのだろうか。それとも単に笑いを取りたかっただけなのだろうか。…まさか本気でお婿にもらってもらうつもり!?年齢的に今すぐは無理だろうけど。
でもとりあえず彼は思った以上に凄いと思った。色々な意味で。その場の空気を読んでいるのか読めないのか敢えて空気を読まないのかは分からないけど、周りから愛されるキャラをしているのは事実だろう。
そんなことを考えながら何となく、本当に何となく彼に目を向ける。それは一瞬のつもりだった。でもその彼と目が合ってしまった。それはもうバッチリと。しかも彼に至っては満面の笑顔まで添えてくれた。
正直そういったものに免疫のない私は、申し訳ないけど思いきり目を逸らしてしまった。自分から見ておいて感じの悪い対応をしてしまったと反省はしている。でもどうしていいか分からず、先程の小牧先生ほどではないものの(むしろそうだと思いたい)顔も身体も火照っている。結局それ以降、その日は一度も彼に目を向けることが出来なかった。
しかしこれはあくまでも序の口。何たってまだ新学期の初日。だから当たり前ながらこれから起こる出来事や変化を今日の私は知る由もなかった。