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【第1話】Spring①(生徒・菜美視点)

当作品は女子生徒と女性教師の二人の視点から交互(1〜2話毎)に話が進んでいきます。

なおサブタイトルの見方は、


Spring①(生徒・菜美視点)


その話(内容)における大まかな季節

通し番号

生徒と先生どちらの視点(語り)か

視点(語り)側の名前


という構成です。


「このクラスの担任を務める鳴海千尋(なるみ ちひろ)です。高校三年生という大切な時期だけど、勉強だけでなく楽しい思い出をたくさん作ってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。」


爽やかな挨拶とともに頭を下げると、女子生徒達から黄色い声援が上がる。この学校の先生達の中では若手の部類(はっきりした年齢は分からないけど30歳手前くらい)であり、人それぞれ好みはあれど見た目もそこそこ…いや、かなりいいと思う。そりゃあ人気も出るだろう。


「はーい!ちっひーセンセーよろしくねー!」

「今日のちっひ真面目過ぎー!」

「ちっひー恋人出来たー?何なら私が立候補してあげよっか?」

「その呼び方止めろ!…ったく、最初の挨拶くらいはビシッと決めようと思ったのに。お前ら俺の努力を返せ!そしてさっきの俺のことは忘れろ!恥ずかしいから!あと恋人が欲しいならクラスの男子の中からオーディションでもして選べ!」


  すると今度は男子生徒達が盛り上がる。見た目で女子人気を獲得しているなら、男子人気の理由はこのノリの良さだろう。要するに男女問わず生徒から幅広く支持されている。

  しかし私、麻生菜美(あそう なみ)はそんな様子を苛々しながら眺めていた。途中からは視線を向けることすら嫌になり窓の外に目を向ける。ムカつくくらい綺麗に晴れた新学期の初日。


  私は鳴海先生が好きだ。先生としてではなく、一人の男性として。きっかけは正直分からない。気づいたら恋に落ちていた。とはいえ一年、二年とも担任や副担任には当たらず、かろうじて授業(鳴海先生は化学担当)で関われたくらい。しかも私は特別勉強が出来るわけではなく、かといって補習や赤点になるほど出来ないわけでもないという良くも悪くも中途半端な成績。

  そしてキャラ的にも目立つタイプではないので、同級生からだけでなく先生達からも暗いとか無愛想とか思われている気がする。人見知りを拗らせて話しかけるタイミングを失っただけだけど、どうせあと一年だけだし…と今はもう割り切っている。実際一人でいること自体は嫌いではないし。


  だから鳴海先生の印象に残るわけがない。それでもこの気持ちを止めることは出来なかった。

  そして今、鳴海先生は遂に担任として私の前に現れた。週一回の授業やたまに廊下ですれ違った際に挨拶を交せるだけでその日は幸せで満たされた。そんな想い人にこれから一年間は学校に来る度会えるのだ(朝と帰りの一日二回ホームルームがある)。勿論鳴海先生に好意的な感情を持つクラスメイト達とのやり取りだって何度となく見ることになるだろうけど、今だってそっぽ向いてしまっているけど、それでも心の中は喜びでいっぱいだった。

  両思いやお付き合いなんて大それたことは望まないし望めない。告白とかそういったことも今のところは考えていない。

でもせめて楽しい思い出を作りたい。鳴海先生との思い出。そして出来たらクラスメイト達との思い出も。


  視線を逸らしたことで苛つきは多少治ったが、意識まで逸らしたせいか少々自分の世界に入っていたらしい。気づけば騒ぎは止んでいて再度鳴海先生の声が教室に響き渡った。


「あと今からこのクラスの副担任を紹介するぞ。お前ら先生が可愛いからって狙うなよ!」


 何それー!とやや不満げな女子生徒達に対し、大いに盛り上がる男子生徒達。このお祭り騒ぎは鳴海先生効果なのか、それとも単にうるさ…賑やかな生徒が多く集まったのか。きっと両方だろう。


「……小牧先生、もう入って来て大丈夫ですよ。」


 ドアに向かって鳴海先生が優しく声をかけると、「…し、失礼します…。」という小さな声とともに小さな女性が入って来た。

 実際何人の男子生徒が狙うかは別として、確かに小柄で可愛らしい先生だった。スーツ姿だけど残念ながら童顔さとビクビクした態度によりスーツを着こなすのではなく完全にスーツに着られているような状態。…失礼ながらこの女性が副担任で大丈夫なのだろうか。

  先生は見ているこちらもハラハラするくらい緊張した様子で話し始めた。


「は…はじめまして…。小牧玲奈(こまき れな)と申します…。あの…皆さんと楽しく…いえ、勿論勉強もしっかり教えますが!…と、とにかく、ふつつか者ですがよろしくお願いしましゅ!」


  うわぁ…と正直思った。結婚の挨拶の定番台詞の後に噛むというダブルコンボ。実際教室内も一瞬凍った。春なのに。

  でも次の瞬間爆発的な笑いが起こった。小牧先生はゆでダコのように真っ赤になり更に金魚のように口をパクパクさせているが、言うまでもなく私なんかに止められるわけがない。せめてもの罪滅ぼしと心の底からの同情を込めて「小牧先生、ゴメン。」と心の中で呟くだけで精一杯。


  鳴海先生も注意はしているものの、今回ばかりはなかなか騒ぎが収まらない。そんな時、その笑いを一蹴するような大声が教室に響き渡った。



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