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TOC条約の趣旨について

作者: 吏咎依卑
掲載日:2017/06/28

 TOC条約の趣旨を簡潔に説明したテキストが無さそうなので、独自の見解ですがこの条約の趣旨を簡単にイメージできるように解説してみたいと思います。


 条約の詳細については国連のHPにて確認していただくとして、まず結論から申しますと、この条約はいわば「組織的犯罪集団の得点を減らす」ことを目的とした条約です。これはどういうことかといえば、サッカーで喩えるなら「超法規的措置によって相手の得点機会を妨害しつつ、既に入っている得点も減らす」という感じでしょうか。


 こう書くとなんだか酷く不公平な話に思われそうですが、そもそも相手はルール無用で活動している者達で、しかもそれを自粛する気配がないのですから、ルールを重んじフェアプレーを尊ぶ立場からすれば彼等の活動を野放しにするほうが不公平であると言えるでしょう。とはいえ、彼等の活動によって発生するこちらの失点を防ぐことを目的とした条約ではありませんから、「デモ」などの政治活動や「テロ」などの破壊活動を未然に防ごうという趣旨はありません。


 TOC条約では、あくまでも組織的犯罪集団(Organized Criminal Group)による「資金および人員・物資(finantial and other material benefit)」の獲得を目的とした活動を妨害することに主眼をおいています。一方で、組織的犯罪集団による政治活動や破壊活動の阻止を目的とはしていません。ですから、たとえばテロ組織による「マネーロンダリング」や「人身取引」や「密売・密入国」などの「資金および人員・物資」の獲得を目的とした活動については積極的に防止したり阻止したりする対象としますが、彼等が起こす「デモ」や「テロ」などの政治活動や破壊活動については防止や阻止の対象としていないのです。


 つまり、この条約はスポーツに喩えれば「ゲームの基本的なルールは変えずに(加盟国の主権を尊重した上で)、相手にのみペナルティを与える追加のルールを作ろうぜ」という趣旨の条約なのです。


 そのことは条約にある「没収・押収を目的とした国際的連携(International cooperation for purposes of confiscation)」や「犯人の引渡し(Extradition)」という項目を考えてみるとよくわかると思います。組織的犯罪集団が獲得した「資金」や「人員」や「物資」を没収・押収する――すなわち彼等が活動によって得た権益を減らす為に国際的に連携しましょうと言っているのですから、こちらの失点を防ぐのではなく「相手の得点機会を妨げつつ得点を減らす」ことに主眼が置かれているのは明白です。「テロ」などの破壊活動の防止を目的とするのなら、この項目は必要ないでしょう。


 そのため、この条約に加盟した暁には、具体的な措置として、我が国においては組織的犯罪集団であると認定されていない組織Aが、条約に加盟している国において組織的犯罪集団であると認定された組織Bと金銭的あるいは物質的取引があった場合には、我が国の主権と法に則って、組織ABの取引を停止させる等の措置を講ずる事になるでしょう。また、組織Bが海外に拠点を持っていた場合については、拠点国の主権と法に則って、組織Bには相応の措置が取られる事になります。一方、彼等による「テロ」などの破壊活動については条約の対象とはなっていませんから、各国で独自かつ個別に取り締まる必要があるでしょう。


 TOC条約の趣旨は、あくまでも組織的犯罪集団の得点である「資金および人員・物資」の獲得を目的とした活動について、加盟国間で情報を交換し、国際的に連携して戒めましょうというものです。彼等の活動によって発生する失点である「テロの犠牲者」とか「強奪・略奪」を減らすことを目的としたものではありません。そのためTOC条約は、破壊活動としての「テロ行為」を対象としたものではないと言い得るかもしれません。しかし、だからといって「テロ組織」を対象にしたものではないとは言い切れないでしょう。


 つまり、TOC条約とは「狭義のテロ対策」ではなくとも「広義のテロ対策」ではあるわけです。


 そのため「TOC条約はテロ対策ではない」という言説は、TOC条約の趣旨を理解せずにその対象を勝手に「テロ行為」に限定して作られたものであると言えるでしょう。逆にいえば、この言説を唱える人達は「テロ対策」とは「狭義のテロ対策」であると勝手に誤解しているという事になります。しかし、先に述べたとおり、TOC条約はそもそも「テロ行為」を対象としない「広義のテロ対策」ですから、この言説は「誤解の上に誤解を重ねて出来上がった誤解の塊」と言わねばなりません。条約の趣旨を理解できれば誤解するはずがないので、きっと趣旨を理解できなかったのでしょうね。


 以上が、TOC条約の趣旨に関する筆者の見解となります。個人的な見解なので至らないところがあるかもしれませんが、理解の一助となれば幸いです。


 さて、ここからは余談になりますが、上記を踏まえて改めて「テロ等準備罪法案」について考えてみれば、TOC条約の加盟条件を満たしつつ、TOC条約では対象としていない「狭義のテロ」を対象とすることで、国際協調と並行して我が国におけるテロ対策をより一層充実させようという「一挙両得」を狙った意欲的な法案であったと言えるのかもしれません。この法案については「外圧を利用して成立させようとしている」なんていう言説も有りましたが、本当にそのとおりで、外圧に関係なく主体的に成立させなかったら国としておかしいくらいです。


 また、テロ等準備罪について「現代の治安維持法である」とする言説があるようですが、テロ等準備罪は治安維持ではなく違法行為の取締を目的にしているのですから(違法行為の取締が治安維持に繋がることは有るでしょうが)、そのような説は「法の目的を誤解した妄言」であるといえるでしょう。そもそも法の適用範囲が違いすぎるので、両者を引き合いに出すのは「サッカーボールを地球と同じ大きさと認識する」くらい無理があります。恐らくはテロ等準備罪を目と鼻の先に感じている人の見解と思われますが、ちょっと近視眼的すぎるので、もう少し離れて見た方が良いですよ。

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[一言]  他の方への感想の返しも含めて、とても勉強になりましたし、読み手に対する語りの柔らかさというか、頭ごなしでない感じが、とても良かったです。  話はエッセイとはずれますが、今の日本の、マス…
[気になる点] 共謀罪の開設を治安維持法の再来と言っている方にとっては、「当初の目的」だの「条約の趣旨」だのは、「伝家の宝刀発言」と同じ口約束の類いに過ぎません。 確かに口約束で安心させようというアク…
2017/06/28 19:41 退会済み
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