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偽名仮名の住所録  作者: まつかく
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第86夜 『悪の組織の作り方』

悪の組織も最初はコツコツと地域に根ざした活動から始まったのだよ。

総統の語る昔話は、いつも決まって同じ話から始まる。最初は4人から始めたのだ、と。


中学校の同級生3人を誘い、悪の秘密結社を作った。

資本金は百円だ。決まり事、鉄の掟を書くためのノート。それを買った代金だ。


ケンカにタバコ、カツあげに夜更かし。万引きから賽銭泥棒。

悪いことは何でもやったな。


メンバーも1人、また1人と増え、組織は大きくなっていったのだ。

高校生ぐらいになると、組織のことを暴走族だか愚連隊だかと勘違いして入ってくる奴もいた。


だが、そういう奴はすぐに除名したね。我々は決して『ガキの遊び』をしているワケではないからだ。

そういう奴に限って、レイプなどの低俗な犯罪をするのだ。組織では金にならない欲望犯罪も禁じている。あれはアホがやることだ。


そりゃあ、苦労はしたさ。偏見もあったし、悪口も言われた。

転機が訪れたのは、私が大学4年の頃だ。


それはまず、悪い知らせから始まった。組織の半数にのぼる構成員が足抜けしてしまったのだ。

やれ、親にバレたから辞める。

やれ、就職するから辞める。

やれ、女が妊娠したから……。


そんなこんなで、組織は壊滅的打撃を受けたのだ。

たしかに悪の組織では、保険もないし、老後保障もない。不安になるのも当然だ。

悪の組織で一番《《悪い》》のは、労働待遇だと揶揄する者もいた。


しまいには、近所のガキにまで『ちっとも悪くないね。俺のがワルだよ』とバカにされる始末。


しかし、ここで私は決心したのだよ。

もっと、本格的な……本質的な悪になろう。神が恐怖するぐらいの悪に染まろう。


そうして、雑木林の奥地に秘密基地を作ったのだ。当然、土地の所有者には無断で、だ。悪の組織らしくね。

人数は少なくなったものの、逆を言えば浮わついた心の軟弱者が去り、烏合の衆から少数精鋭になったのだ。


そして我々は悪活動の根底を改めた。

カツアゲ、万引きなどはたいした金にならんと言うことで、詐欺や強盗に変えた。

身の代金目的の誘拐もやったし、株価の違法操縦もやった。

そうして組織が金銭面で潤ってくると、優秀な人材も少しずつ集まってきた。


有名大学を出た科学者やコンサルタント、弁護士に医者が組織に加わった。

経営コンサルタントが組織を合理化し、訴えられれば弁護士が法廷に。


科学者は秘密基地の地下で怪人の研究開発に没頭した。


第一号の怪人は、忘れもしないヘビ男だった。

頭が悪く、強くもない怪人だったが、妙に憎めない奴だったなぁ。


いつだったか、ヘビ男が「新ワザをあみだしたので、見てください」とか言うので司令室に通すと、奴は自分の体を紐のようにくねらせて、蝶々むすびを作ったっけ。


満面の笑みで「かた結びもできます」とか言うのでやらせてみたら、ほどけなくなって、そのまま死んだ。


バカだけど、憎めない奴だったなぁ。

その後も怪人開発は続き、いまではかなり知能が高いヤツも開発できたよ。サソリ男は現時点の最高傑作だ。殺し専門のね。コイツに暗殺を命じて失敗したことは一度もない。


話がそれたな。

まぁ、そんな感じで怪人を作り、銀行強盗や幼稚園バスジャックなどをやらせとるワケだ。


なに?

怪人など見たことがない?

そんな話は作り話だと?


はは、君の内申書にはまず『せっかち』と書いておこう。まぁ話は最後まで聞きなさい。


組織が資金力に優れ、経営も安定してくると、鼻の利く奴らが注目してくる。


『なんだ、悪の組織が儲けているぞ』とね。


当然、真似する輩もチラホラ出始めたのだ。

最初はそういう後追いを、潰したり、最悪の場合は怪人を差し向けて殺したりしていたが、我々が儲けている以上、新規参入は後を絶たない。


特命の対策チームが作られ、議論に議論を重ねた。

世の中の旨味を、我々が独占的に占有するにはどうすればいいか……。

結果、我々は大きな賭けに出た。


地球上に存在する、全メディアの買収だ。


株式をすべて買い取り、実質的に乗っ取ったテレビ局もあれば、役員すべての弱みを握り、実効支配している新聞社もある。

そうして、メディアを通して民衆を日常的に洗脳するのだよ。


『悪は常に正義に倒される』


『悪事は割にあわない。結果、損をする』


『悪い事をすれば、報いをうける』


とね。


我々いがいの人々には真面目に生きてもらわないと、我々悪が儲けられないだろう?

当然、メディアは我々悪の組織が支配しているワケだから、南で怪人が街で暴れようと、北で我々の悪事を暴露しようとする愚か者が殺されようと、ニュースにはならない。


警察のことは言うまでもないだろう。

一般人はニュースでしか世界を知り得ないし、知る必要はないのだ。


さて、おしゃべりが過ぎたが、そろそろ面接も終わりだ。

そちらから、何か質問はあるかね?


なに?

ただのテレビ局だと思っていた?

すごい、是非入社したい?


はは、それは質問ではなく感想だね。


ん?

どうしてそこまで組織について聞かせたかって?


私も総統をやってると、激務のうえ孤独でね。

たまには気晴らしに誰かに……とりとめもない昔話をしたくなるのだよ。


なに?

面接の結果はいつわかるかって?

君は優秀そうだから、わかるだろう。


当然、不合格だよ。

不合格だから、ここまで組織について話せたのだ。

まぁ優秀じゃなくても、あとは想像がつくんじゃないか。


いらぬ事を知り得た不合格者がどうなるか……。

ほら、ちょうど誰かがドアをノックしている。


サソリ男。入っていいぞ。



  《悪の組織の作り方 了》


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