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第6夜 『博士の新発見』
ある博士が興奮の極みにある。
20年の歳月を費やして、ようやく薬が完成したのだ。
それは世界が求め続けていた薬であり、『実現は不可能』とまで考えられていた薬だった。
それは死をもってしても治療が困難だといわれる難病につける薬……。
『馬鹿につける薬』だった。
フラスコの中に揺れる緑色の液体を、博士はうっとりとして見つめた。
「安全性のテストも兼ねて、早速私が試してみよう」
博士は薬液を指先ですくうと、すっと額に引く。
深呼吸をし、閉じた眼を開いた。博士のその目は澄み渡り、千年の先さえも見通せそうだ。
「なんということだ……」
博士は研究ノートの最後の行に、新たな発見を書き加えた。
それは身をもって体感した、確かなデータだった。
『馬鹿には自覚症状ナシ』
《博士の新発見 了》