表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽名仮名の住所録  作者: まつかく
39/145

第51夜 『恐怖の連載』

ある女が、実は自分が何らかの物語の登場人物ではないかと疑いはじめる。それも、どうやら主人公らしい。


彼女の名前は、シャビンシュタイガーという。

どこか欧州のフットボールチームにいそうな名前であるが、彼女のいる世界には欧州は存在しない。


彼女の知る限り、世界は微妙に狭く、いまだに専制君主国家が乱立している。

そして、当然ながら王国を守る騎士のような存在も数多くあり、例に漏れず彼女もその一人だった。それもずば抜けて強い。


周囲のファイターたちが、銃器を使うなか、彼女は刀を愛用しており真っ向から時代に逆行していた。


銀髪と、左右の瞳の色が違うヘテロクロミア虹彩異色症のおかげでよく目立った。ちなみに虹彩異色は戦闘で危機的状況に陥ると双眸共に黄金に色を変え強くなる。


そんな彼女についた通り名は、漆黒の光輪とかなんとかという、どうにも矛盾しているような呼び名だった。


そんななかにあって、彼女は気がついたのだ。何かがおかしい。


最初は、ちょっとしたことだった。

使えば使用者すら死に至らしめるという秘術を使ったのに、なんだのかんだの理由がついて、ちょっとダメージを負っただけで死ななかった。


世界最強と呼ばれた伝説の剣士を倒したにも関わらず、さらなる最強の敵が現れる。


ちなみに、最初に倒した最強の剣士は、生き別れの実の兄だった。幼少期にしか会っていないのに、自分でも良く思い出せたと不思議に思う。


さらに言うならば、倒した兄は瀕死の重傷からあっさり回復し、仲間に加わった。


何かが、おかしい。


どこかで聞いたような話の気もするし、いざとなったら世界の摂理がねじれてでも、自分が勝つように仕組まれている気がしてならない。


眼鏡をかけ、スーツを着た敵はほぼ必ず強敵であったし、敬語が加わればさらに強化される。

それに、自分は無条件でいろいろな人に信頼を得て、ひねくれた発言をしていても必ずモテる。


疑問は日に日に大きくなったが、自分がなんらかの創作物だと決定づけるほどの確証もなく、ただ旅が続いていた。


仲間たちの妙に意味深な発言は伏線だろうか?

そろそろ中だるみしてきたから、新メンバーが増えるだろうか?

そんな愚にもつかないことを考えるのが、いつしか楽しくなってきた。


そんな、ある日。最強の敵が現れた。突然に。

よくわからないうちに戦闘は始まる。ちなみに、敵は生き別れた父だった。


勝ったか負けたか、判然としないまま、意識は失われる。




気がつくと、彼女は高校生になっていた。

王国や最強の敵など消えてなくなり、彼女はただの高校生になっていたのだ。

名前は虎子に変わっていた。


そして、妙な展開になる。なんの前触れもなく、同級生同士、殺し合えと命令されるのだ。

彼女の抱いた疑惑は、ほぼ確実なものとなっていた。


これは、物語が変わったのだ。

そして、彼女はキャラを使い回されたのだ。


王国時代の設定は、ほとんど残っていない。しかし、なんとなく前回と同じクールな役柄だったので彼女は気に入った。


どうやらこれは、どこぞの作家の世界に違いない。

クロスオーバーだのなんだの理由をつけて、キャラ作りをサボっているのだ。前回はファンタジーで、今回はデスゲームものらしい。


ところで、前回の結末はどうなったのだろう?


かくして、思索に耽るまもなく、殺し合いが始まる。

ボウガンだの拳銃だのナタだのフォークだの、不公平きわまる武器を手に、同級生たちが殺し合いをはじめた。


しかし、彼女はいっこうに動じない。


彼女の推測が正しければ、彼女のキャラクターは作者のお気に入りであり、そういうキャラはなかなか死なないものだ。

何らかの山場や、見せ場がない限りは安心していい。


こういうデスゲームには、あらかじめ用意された死に役が存在して、まずそいつらから殺されるはずだ。


仮に危機的状況に陥っても、お気に入りキャラはご都合主義が助けてくれる。

しかし――。


『ドギャーン』という効果音と共に彼女は死んだ。

なぜだ? 幽霊のまま世界をぼんやりみていると、特にデスゲームは進展しないまま、世界は止まった。



ふと意識が戻ると、彼女はまた女子高生だった。

創造主は、デスゲームを最初からやり直すつもりなのだろうかと、首をかしげる。


ミカ「なんなのよ、また最初から?」


タカシ「え、なんだよ急に」


何かがおかしい。

なぜ発言の前に名前が出るのだ?


ミカ「なにこれ、ワケわかんない」


タカシ「ワケわかんないのは、オメーだよ」


誰だ、タカシって誰だ。


(ちょっとイケメンで、二人になるとすっごい優しいタカシ。そう彼が私のカレシ)


考えるまでもなく、唐突に《《神の声》》のようなモノが聞こえてきて、すぐに状況がつかめた。なるほど、これは恋愛小説らしい。彼女は――虎子ことミカは世界観をつかもうと努力する。

自分のいる世界を知らないというのは不安きわまりない。


すると、妙なオヤジがタカシに絡んできた。


オヤジ「昼間っからデートとは、いい身分だな、ええおいー」


タカシは切れた。


タカシ「うるせぇ、オッサン。ドカッ!」


殴られたオヤジは悲鳴のような声をあげた。

タカシはさらに殴った。オヤジがこけた。

タカシは馬乗りになって殴った。オヤジは鼻血をだした。血。またタカシが殴った。


タカシ「ガッシ!ボカ!」


もう、何が何だかわからない。ガッシボカとは何なのだ。何をどうやったらそんな音が出るのだ。


今までとは明らかに違う世界観に、シャビンシュタイガー虎子ことミカは戸惑った。


冷静に考えると、彼氏はイケメンで気が短く、ミカには優しいという設定らしいことがわかる。


タカシ「へへ、逃げていきやがった。ファック!!!」


なるほど


よくある恋愛小説のようだ


文体までが変化している



タカシ「さあ、ミカ。遊びに行こうぜ。愛してる////」


シャビンシュタイガー虎子ことミカは考える。

どうやら物語の創造主は、結局恋愛小説の執筆をすることに落ち着いたらしい。

設定ばかりにこだわったファンタジーを捨て、借り物のプロットであるデスゲームを捨て、ようやく等身大の表現に落ち着いたのだ。この連載は長く続くだろう。


――これは、これで良いのかも知れない。


シャビンシュタイガー虎子ことミカ自身、もう戦いや殺し合いはうんざりなのだ。

これからはシャビンシュタイガーでも、虎子でもなく、ミカとして生きよう。

きっと幸せになれる。


ミカは、これから先に起こりうることを少し想像してみた。

最近の恋愛小説のプロットはだいたい似通っているゆえ、筋は簡単に推測できた。


まず、タカシの浮気、そして自分の浮気。

それで一度は別れるだろう。


よりを戻したら、まずレイプされ――。

すぐに妊娠……中絶――。

DVにつぐDV……。それでも愛してる。


薬漬けの果てに白血病――。死。


ミカ「キャァァァァァ!!!!!」


ミカは叫んだ。


ミカ「これってホラーじゃない!!!」



  《恐怖の連載 了》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ