第2夜 『勝ち組の部屋』
良い部屋ですよ。
食事は出るし、静かだから読書にも睡眠にも向く。隣人がうるさい時もあるけど、そういう隣人はすぐに引っ越しますしね。
通気性がよく、そよ風が肌を撫でてゆく。
鉄筋コンクリートづくりの立派な建物で、近隣への日照権を考えてか、景観を考えてかは知らないが、高さはないですがね。もっと高層にすれば窓から吹く風が、読みかけで止まってる退屈な小説のページを進めてくれるだろうに。残念だ。
類は友を呼ぶと言いますが、周りの住人たちは似た性格、似た境遇の方たちが多いですね。不思議なものです。私も例外ではないのかな?
まぁしかし、それゆえに悩みを共有でき、お互いを深く知ることが出来る。
なかには流行のルームシェアをしている住人もいるそうですよ。楽しそうで少し羨ましいかな。……私は気を使うので嫌ですがね。
日中、部屋を出て少し歩くと、広場があって日差しが心地良いですよ。ベンチでおしゃべりしてる人もチラホラ。
広場でスポーツをしていたのでしょう、水飲み場は活気にあふれていますね。良い所でしょう?
え? そりゃあ天国じゃないんですし悪人だってきっといますよ。
でも安全のためのセキュリティーも充実していて、むしろ訪問者の人は大変でしょうね。
友達呼んでも、毎回警備のオジサンに『身分証の提示をお願いします』なんて言われてたら面倒ですよ、正直やりすぎかも。
まあ警備のオジサンが厳重に警戒してくれているので安心は安心です、そりゃあ多少は息苦しいですがね。
それでも万全を期してか、各部屋の窓に格子が取り付けてあって、セコムいらず。
こんな物騒な時代に何かあってから駆けつけてては遅いですよ。安心と秩序は先回りの時代です。
勝ち組、負け組みの二元論は下らないですが、ここに暮らすと自分は勝ち組かなって。思ったり、思わなかったり。
ん? 家賃ですか?
いくらぐらいかなー自分で払ってないのでわかりません。私の部屋自体は広くないワンルームだけど、相当かかるんじゃないですか?
みんなには内緒ですけど、僕の家賃は国が全額負担してくれるんです。まぁ期限付きですけどね。期限内なら、壁や床に穴が開いても無償で直してくれますよ。
あれ? たしか…。
そういや期限たしか……今日までだったかな?
え? 住めなくなるのに、なぜニヤついてるのかって?
ニヤついてますか? はは、やだなぁー
最後の最後までいたせりつくせりで恐縮ですが、なんか期限の日に僕の好きなもの何でも食べさせてくれるそうなんですよ。サヨナラパーティーみたいなものかな?
後で知ったんですが、牧師さんも来るそうなんです。
食事の後に、お祈りとかしてくれるそうなんですよ。出張サービスみたいなものかな。飲み物のチョイス、シャンパンはまずかったかなぁ。
牧師さんを招待してるの知ってたら、注文をキリストの血と肉にしてたのに……。
パンとワインにね!
ははは、良いジョークでしょう?
なんでも、私が座る椅子の調整も終わったそうなんで、そろそろ……。主役が行かない事には始まらないですからね。
椅子?
あぁなにか特別な椅子だそうですよ。
係の人は電気がどうこう言ってたな……。たしか『ホットシート』と呼んでましたね。温かいのかな? じゃあ 行ってきます。
アナタも入居できるといいですね。
ではまた。
《勝ち組の部屋 了》