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「ダリアの幸福」  作者: 麻丸。
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「お別れの手紙」



登場人物


高橋日向 双子の兄。一人称は俺。

高橋彼方 双子の弟。一人称は僕。

坂野亮太 クラスメイト。元バスケ部。

中村将悟 クラスメイト。金髪バンドマン。

矢野千秋 クラスメイト。日向に好意を寄せていた。

渡辺真紀 元バスケ部マネージャー。亮太の幼馴染。

竹内京子 二年生。優樹の妹。

新田百合 一年生。日向の恋人。

桜井虎丸 二年生。日向のバイト仲間。サッカー部。

白崎先生 精神科医。

リッキー 犬。ゴールデンレトリバー。

お姉さん リッキーの飼い主。

竹内優樹 彼方の働くボーイズバーの店長。京子の兄。

篠田 誠 優樹の店で働く従業員。元ヤンキー。将悟のバンド仲間。

麗華   彼方の客。

智美   彼方の客。

梨本浩一 カフェ・フレーゴの店長。

川口順平 カフェ・フレーゴのシェフ。


 「お別れの手紙」




退屈な授業なんて耳に入らず、日向は窓の外を眺めていた。

空は青く澄み渡っているけれど、憂鬱な気分が胸の中に渦巻く。

徹夜明けの瞼は重たくて、授業なんてサボればよかったと、後悔していた。


昨日は一睡もできなかった。

いつも通りな一日だったはずなのに、そうじゃなかったからだ。


昨日は朝から雨が降っていて、湿気を纏った空気が余計に夏の暑さを気だるげなものにしていた。

いつも通り、朝は少し早起きをして、駅まで百合を迎えに行って一緒に登校した。

百合は「雨が降ると、湿気で髪がうねるから嫌だ」と言っていたが、百合の髪は真っ直ぐで綺麗だと思う。

そんなことを気にする百合は可愛らしくて、憂鬱な雨もたまにはいいか、とさえ思った。


学校に着いてからは、いつも通り亮太や将悟と話して、たまに派手な女子に囲まれて、それを将悟に助けてもらったり、亮太に拗ねられたりした。


放課後には、進路指導室に呼ばれて、奨学金の説明を受けた。

「一年フリーターをするよりいいだろう」と進路指導の先生に言われたが、色々手続きが面倒で、話半分に聞いていた。

未成年の日向は、何をするにも親の許可が必要だ。

奨学金を借りるとなると、ローンの審査や がある。

そんなの、無理だ。あの母親と話をするなんて、無理に決まっている。

結局は自分で働いて、一括で学費を払えるくらい貯金しないといけないんだ。


その後は、いつも通り百合と昇降口で待ち合わせて、駅まで送り届けた。

二人とも傘を持っているのに、わざと一つの傘で相合傘なんて恋人らしいことをした。

寄り添っても一つの傘は少し小さくて、肩を濡れた。

それでも、幸せだった。


駅で百合と別れて、携帯で時間を確認すると、バイトの時間ギリギリになっていて、その日は家には帰らず、直接バイト先へ向かった。

新学期が始まってからは、部活が忙しくてシフトを減らしていた虎丸が、「今日は雨だから、部活ができないんで、バイト出てきちゃったっす」と言っていた。

本当はシフトを入れてなかったらしいが、真っ直ぐ家に帰ってもすることがなくて退屈だという。

自分に素っ気ない態度を取り続ける京子は、休みだった。

雨が降っているせいか、店は暇で、いつもより時間が経つのが遅く感じた。


問題は、その後だった。

バイトを終えて家に帰ったら、「あるもの」がリビングのテーブルの上に置かれていた。

それは身に覚えのない、白い箱だった。

その箱には、有名な靴のブランド名が大きく書いてあった。


―誰がこんなものを。


日向は不思議に思って、その箱を開けた。

中には手紙が一通と、家の鍵。

それと、タオルに包まれた『何か』が入っていた。

その手紙には、「日向へ」と書かれている。

少し雑な、彼方の筆跡。



『日向へ。

 これで、最後です。もう僕は、この家には戻らないよ。

 どうか、僕のことは探さないでください。もう僕は、一人で生きていけるから。

 どこかで会っても、他人のフリをしよう。その方が、お互いのためだから。

 一緒に入れておいたお金は、学費にでも使ってください。

 携帯も、これまで通り、自由に使っていいよ。

 今までありがとう。僕は、日向と一緒に過ごせて、幸せだったよ。

 どうか、日向も幸せに。ありがとう。さようなら。

                            彼方 』


それは、彼方からのお別れの言葉だった。

手紙を読み終えた日向は、震える手でタオルの中身を確認した。

タオルに包まれていたのは、現金だった。

それも、有り得ないくらいの、大金。

とても高校生が、夏休みのバイトで稼げるような金額じゃない。

分厚い札束を一枚ずつ数えてみたら、二百万円にもなった。


動揺して、手から札束が滑り落ちる。

パサパサと乾いた音を立てて、札束が宙を舞った。


慌てて日向は、携帯電話を取り出す。

ずっと躊躇っていた彼方の番号を、無意識に押した。

けれど、コール音は一度も鳴らず、無機質なアナウンスが電話口から流れてくる。

彼方の携帯電話は、電源が切られていて、繋がらなかった。

いや、もしかしたら、着信拒否にされているのかもしれない。

すぐにメールを送った。

けれど、アドレスが変えられていて、彼方には届かなかった。


どうしたらいいか、わからなかった。

別れの手紙に、家の鍵、大金を目の前にして、日向は混乱していた。

彼方と連絡が取れる手段は、携帯電話だけ。

その携帯電話も繋がらない。


彼方がどこで働いているのかも、どこで生活しているのかも、知らない。

二百万なんて大金、まともな仕事で稼げるはずがない。

彼方は一体、何のバイトをしていたんだ。

何か危ないことをしているのか。

法に触れているのかもしれない。

犯罪を犯しているのかもしれない。

彼方の身は、大丈夫なのか。


彼方を探さなくては。

探して、連れ戻して、話をしなければ。

どういうつもりだ。何をやっていた。どうしてこんなことをしたのか。

問い詰めたいことが、たくさんある。


けれど、どうやって彼方を見つけ出す?

唯一の連絡手段の電話も、メールも通じない。

彼方の居場所さえ、わからない。


それに、こんなこと、誰にも言えない。

学校では「彼方は体調を崩して休んでいる」ということになっているし、百合との間で、彼方の話はタブーだ。

百合と約束をしたんだ。彼方を忘れると。百合だけを愛すると。

約束通り、愛しているのは百合だけだ。

だけど、やっぱり、彼方のことが心配だ。


百合の前で、彼方の話はできない。

それは、約束を破るということだ。

百合を失いたくはない。けれど、やっぱり彼方も大切だ。

自分はどうしたら。どうすれば。


そんなことを考えているうちに、朝を迎えた。

どれだけ考えても答えは出ないまま、いつも通りの朝がやってくる。

仕方なく、寝ずに学校へ行く準備をして、駅まで百合を迎えに行った。


百合に悩んでいることを悟られないように、いつもより口数多く他愛のない話をした。

けれど、やっぱり自分は隠し事ができないようで、百合は訝しげな瞳を向けた。

「今日は元気ないですね。何かあったんですか?」そう問われても、正直な話をできるわけもなく、「なんでもない」とわかりやすい嘘を吐いた。


以前、真紀に言われたことを思い出す。

「嘘が吐けなくて人を傷付ける人もいる。」

まさに自分のことだと思う。

こんな時くらい、上手く嘘を吐けたらいいのに。

いや、百合に嘘は吐きたくない。けれど、本当のことは怖くて言えない。

また自分は、保身に走ってしまっている。


誰かに相談したいけれど、何と言えばいいのかわからない。

警察で捜索願を出すことも考えたが、やめた。

もし本当に犯罪にでも関わっていたら、彼方はどうなる。逮捕されてしまうのではないか。

そんなことになったら、自分はどうすればいい。彼方はどう思う。彼方のためにも、大事にはしたくない。

それに「探さないでください」なんて書かれていたら、どうしたらいいかわからなくなる。


探したい。探して、会いたい。会って、話をしたい。

けれど、彼方はそれを望んでいない。

だからといって、このままにはしておけない。

でも、自分一人じゃ、彼方を探し出すことすらできない。


そんなことを考えているうちに、授業が終わって、束の間の休み時間に入っていた。

今はここにいたくない。どこか静かなところでゆっくりと考えたい。

また屋上でサボるか。でも、最近少しサボりすぎている気がする。

それに、昨日の雨で、今日はいつにも増して蒸し暑い。

黒の学ランは、よく日光を吸収するし、熱中症になってしまう。

他にいいサボり場所も知らないし、どうしようか。


「ねえねえ、日向君ー。」


「今日の放課後とかは空いてないのー?」


そんなことを考えていると、あっという間に、猫撫で声の女子四人に囲まれる。

くどいくらいの甘い香水の香りが、日向に纏わる。

派手な化粧に、短すぎるスカート。装飾された爪に、脱色を繰り返して傷んだ髪。

こういうタイプの女子は、苦手だ。


「今日こそ、一緒にカラオケ行こうよー。」


「それとも、パンケーキ食べに行くー?」


「いや…今日もバイトあるから…。」


下手な愛想笑いで、頬が引きつる。

自分には百合がいるのだから、他の女子の誘いは断らなければいけない。

けれど、彼女たちは気にする様子もなく言葉を続ける。


「えー今日もバイトー?」


「日向君、毎日バイトなんだねー。」


「一日くらいサボって遊びに行っても平気だよー!」


「いや…それはちょっと…。」


「いいじゃんいいじゃんー。彼女には内緒にするからさー。」


「もっと日向君と仲良くなりたいなー。」


夏休み前まで彼方に群がっていたくせに、よく言う。

彼方はいつも、こういう女子を相手にしていたのか。

彼女たちは、とにかく話を聞かない。

会話をするというより、一方的に話しかけてくる。

「彼女がいるから」「バイトがあるから」そう言って断ろうとしても、言い終わる前に、また言葉を重ねてくる。


そんな彼女たちと、彼方は上手く談笑していた。

それは彼方の凄いところだと思う。

自分と違って、誰にでも愛想よく、体よく、当たり障りのない会話ができる彼方。

その姿はまるで、テレビドラマで見たホストのようだとも思う。

愛想のない自分と違って、確かに彼方にホストは似合いそうだ。

まさか、彼方はホストでもしているのか。

いや、そんなはずない。彼方は高校生だ。雇ってもらえるわけない。

そんなこと、しているはずがない。


でも、夏休み前まで彼方を囲んでいたこの女子たちなら、彼方の居場所を知っているかもしれない。

今でも彼方と、携帯電話で連絡を取っているかもしれない。


「あのね、最近パンケーキが流行ってるんだよー。」


「街の方に美味しいパンケーキ屋さんができてねー。」


「あ、あのさ…。」


思い切って聞いてみようと、彼女たちの話に口を挟む。


「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど…。」


いつもは適当に相槌を打つか、ただ黙って話を聞いているだけの日向が、自ら話しかけてきたことに、彼女たちは驚いて、目を瞬かせた。

そして、すぐに興味津々という様子で、目を輝かせる。


「え?なになにー?何を聞きたいの?」


「誕生日?血液型?そ・れ・と・も、好きな男の人のタイプとかー?」


「言っとくけど、スリーサイズは内緒だからね!」


彼女たちは日向に詰め寄り、楽しそうにきゃきゃと、笑顔を浮かべて、口々に好き勝手なことを話す。

甘い猫撫で声が自分に向けられる。派手に装飾された笑顔が近付く。

日向は圧倒されて、なかなか口を開けない。


「私は甘いものが好きだから、日向君と一緒にカフェとか行きたいなー。」


「あっ、ずるいー!私も私もー!」


「やっぱりパンケーキだよね!あ、でも最近フレンチトーストも流行ってるんだよ~。」


どうしよう。また彼女たちのペースだ。

お喋りな彼女たちは、口を閉じることがない。


「あの…あのさ…!」


先程より大きな声を出して、彼女たちの話を打ち切る。

彼女たちは少し驚いたように、静かになり、日向を見つめた。

四人の視線が一斉に集まると、少し気恥ずかしくなる。


「なになに?どうしたのー?」


女子の一人が、日向の顔を覗きこむ。

化粧で装飾された睫毛は、不自然なほど長かった。


「いや、その…彼方と…連絡取ってる?」


その言葉に、彼女たちは不思議そうに首を傾げた。


「えー?彼方君とー?」


「取ってないよー?」


彼女たちは不満そうに言葉を洩らす。

わざとらしく肩を竦める女子もいれば、わかりやすく唇を尖らせる女子もいた。


「…え?それ、本当…?」


「だって彼方君、携帯の番号は、絶対教えてくれなかったもん。」


女子の一人が、可愛らしく頬を膨らませながら言った。

あんなに仲良さげにしていたのに、彼方は連絡先の交換もしていなかったのか。

携帯電話を持ち始めたのは、夏休みに入る少し前だった。

それでも、誰かと連絡先を交換していると思ったのに。


「あ…そうなんだ…。」


日向は肩を落とす。

彼女たちが当てになると思ったのに。

どうやら当てが外れたようだ。


思えば、自分は彼方の交友関係をよく知らない。

今まで彼方は、自分にベッタリくっついていて、離れることがほとんどなかった。

二人きりで過ごすことが多かったし、自分たちの間に入ってきた人間は、亮太くらいだ。

亮太も、彼方の連絡先は知らないと言っていた。将悟も百合も、知るはずがない。

彼方が自分を避けるようになって、自分以外の人間と話をしていたのは、女子ばっかりだった。

それも、こういう派手で、自分から話かけてくる積極的な女子ばかり。

同じクラスの女子もいれば、別のクラスの女子、下級生と、幅広かった。

その一人一人に当たっていけば、彼方に辿り着けるだろうか。


いや、ダメだ。数が多すぎるし、誰が彼方と親しかったかなんて、日向はいちいち覚えていない。

それに、彼女たちが本当のことを言ってくれる保証もない。

仮に、彼方と連絡を取っている人物がいたとしても、きっと彼方が先に口止めしているだろう。

この方法では、彼方に辿り着けない。

じゃあ、どうすれば。


「あ。ねえねえ、それなら、日向君の番号教えてよー。」


女子の一人が、思いついたように、携帯電話を取り出す。


「私も私も!ね、お願い。」


「みんなで番号交換しよーよー。」


それに続いて、全員が携帯電話を取り出す。

携帯電話に付けられたぬいぐるみやストラップが、ごちゃごちゃと揺れる。

携帯電話より大きなキーホルダー、持ちにくそうなスマートフォンカバー。

派手な女子たちは、携帯電話も派手に装飾しないと気が済まないらしい。


「いや、そういうのは…。俺、彼女いるから…。」


日向は手を左右に振って、拒否する。

けれど、彼女たちがそれを素直に聞くはずがない。


「えーいいじゃんいいじゃん。」


「そうだよー。彼女だって携帯の中まで見ないでしょー?」


「絶対バレないから大丈夫だよー。」


「番号交換するくらい、いいでしょ?ね?」


「いや…彼女に悪いし…。」


押しの強い女子に、日向がどうしようもなく、しどろもどろしていると、ふいに後ろからポンと、肩を叩かれる。


「日向。職員室呼ばれてるんだろ?いくぞ。」


振り返れば、将悟が自分の肩に手を置いていた。


「え?職員室…?」


そんな予定はない。呼ばれた記憶もない。

わけがわからないというように日向が首を傾げようとすると、将悟は顎で廊下の方を差す。

そして、意味ありげな瞬きを一つ。ウインクのつもりだろうか。


「あ、ああ!そうだった!」


これは将悟の助け舟だ。

上手く断ることも、話を切り上げることもできない日向への、将悟の気遣い。

日向は大袈裟に手を叩いて見せ、将悟に促されるまま、一緒に教室を出る。

少し、わざとらしかっただろうか。


「えー。日向君、行っちゃうのー?」


「今度番号教えてよねー。」


「絶対だよー。」


背後から、女子たちの名残惜しそうな声が聞こえる。

彼女たちには悪いが、助かった。

教室の中だけでも騒がしいのに、番号なんて教えたら、一日中電話がかかってきそうだ。

そんなことになったら百合にも悪いし、自分もうんざりしてしまう。

ここ数日、ああいう風に女子に囲まれ続けて、少し疲れてしまった。

積極的な女子は怖い。圧倒されて、何も言えなくなる。


廊下を少し歩いて、教室が見えなくなったところで、将悟は立ち止まる。

日向もつられて立ち止まった。


「お前なあ…百合ちゃんいるんだから、ちゃんと断れよ。」


将悟は呆れ気味に溜息を吐く。

こうやって人の世話を焼いて、溜息を吐くのは、将悟の癖だ。

誠は「お節介」なんて言っていたが、自分は将悟の気遣いにいつも助けられている。


「断ってるけど…話聞いてくれないんだ…。でも、ありがとう。連れ出してくれて。」


「もっとハッキリ言ってもいいんじゃねーの?」


「うん…。俺も、そうできればいいんだけど…。」


そうは言われても、女子の扱いなんてわからない。

ハッキリ断わらなければいけないけれど、強く言うのもなんだか悪い気がする。

自分は彼方のように体よく断る術を持たないし、口下手だ。

でもやっぱり百合にも悪いし、ハッキリ言おうとは思っても、なかなか言えない。

結局、自分は優柔不断で、口下手で、臆病なんだ。

もっとしっかりしなければ、と思うのに、なかなか上手くいかない。


「で、どうしたわけ?」


「え?」


将悟は日向の顔を覗きこんで、じーっと窺うような視線を向ける。

顔に何か付いているだろうか。

女子たちの甘ったるい香水の匂いが、染み付いているのだろうか。

いや、そんなことじゃない。将悟は結構鋭い男だ。


「お前、今日なんかへこんでるだろ?百合ちゃんと喧嘩でもしたか?」


隠していたつもりなのに、将悟にはすぐに見破られる。

いや、他の人間も、言わないだけで気付いているのかもしれない。

百合だって、すぐに自分が悩んでいることに気付いた。

自分は本当に、隠し事が下手だ。


「…ううん。なんでもない。」


日向は小さく首を振る。


なんでもなくは、ない。

けれど、将悟に言っていいのか、わからなかった。

言うとしても、どう言ったらいいか、どこまで話せばいいか、わからなかった。

「お節介」な将悟のことだ。

言えば、きっと将悟はものすごく心配して、一緒に彼方を探してくれるだろう。

けれど、そうすれば、大事になるのは免れない。

学校で噂になったり、それを聞きつけた警察が動くかもしれない。

彼方のためにも、下手に騒ぎ立てるのはよくない。


彼方が大金を残していなくなったことは、誰にも言わず、まだ自分の心の内に秘めておこう。

一人でも、なんとかして彼方を探さなくては。

彼方に会って、ちゃんと話をしなければ。



「ちょっと寝不足なだけだから、平気。」



取り繕う笑顔が下手なことは、日向が一番よくわかっていた。



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