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「ダリアの幸福」  作者: 麻丸。
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「暴かれた関係。」



登場人物


高橋日向 双子の兄。一人称は俺。

高橋彼方 双子の弟。一人称は僕。

坂野亮太 クラスメイト。

中村将悟 クラスメイト。

矢野千秋 クラスメイト。

新田百合 一年生。



2日に1回くらいのペースで更新していこうと思います。


 「暴かれた関係。」


日向が好きだ。

というより、日向以外の人間が嫌いだ。


笑って愛想よくしていれば、周りに人は集まってくる。

でも、そいつらは僕たちのことを見分けることができない。

というより、どっちでもいいのだろう。


2人で1セット。

そういう認識でしかないのだから。


僕じゃないと駄目。

日向じゃないと駄目。

そんなことはないのだから。


二人のどちらかでいい。

どちらでもいい。

そういうこと。


でも僕は僕で、日向は日向で。

僕には日向じゃないと駄目なんだ。


たまに自分でも何を言っているのかわからなくなる。

けれど、僕の世界には日向しかいない。


周りで談笑するクラスメイトも、

告白してくる女の子たちも、

暴力を振るい続ける母親も、

全部全部、いらない。


日向だけいればいい。

日向だけが、僕のことをわかっていてくれたらいい。


依存だって立派な恋心だ。

別に男が好きだとか、同性愛者なわけじゃない。


日向だから好きなんだ。

男とか女とか、関係ない。

日向だから、好きなんだ。


生まれる前からずっと一緒で、

産まれた時もずっと一緒で、

ずっと一緒に育ってきた。


僕が一番日向のことをわかっている。

僕が一番日向のことをわかってあげられる。


たかが数年クラスメイトだった奴に、

たかが数か月片思いをしていた女に、

日向を奪われてたまるか。


17年間、ずっと好きだったんだ。

ずっと一緒にいたんだ。


何がこの感情の始まりだったのかなんて、覚えていない。

理由なんて関係ないくらい、二人でいることが当たり前だったから。


日向には僕がいればいい。

僕には日向しかいないから。

二人でずっと、狭い世界で生きていければいい。


ここは僕たちが守り続けた箱庭だ。

誰にも汚させはしない。






日向が出ていった玄関に座り込む。

帰ってきた日向を一番に迎えられるように。

会えない時間を数秒でも減らすため。


日向と離れるこの少しの時間が、寂しくて苦しくて辛くて仕方がなかった。


指先で唇に触れる。

日向にキスをしたのは、気の迷いなどではなかった。

何をしてでも、日向を繋ぎとめていたかった。


日向の怯えるような表情に、少しの背徳感と高揚感を覚えた。

潤んだ瞳で見つめてくる日向を、滅茶苦茶にしてしまいたかった。

自分の感触だけを教え込ませて、離れられないようにしたかった。

自分だけを見ていてほしかった。


「キス、したい…。」


もう一度日向の柔らかな唇に、触れてみたい。


-早く、早く帰ってきて。-


彼方は苦しいほどに、日向に恋焦がれていた。









小さな喫茶店の窓際の席。

大通りを見渡せる特等席だ。

平日のせいか、他に客は少なかった。


「で、話って…?」


人数分並べられたコーヒーを前に日向が切り出す。

四人掛けのソファ席での対面には亮太と将悟がいた。


「日向!この前はごめん!俺いつも空気読めなくて、お前を傷つけた。

 本当に…ごめん!」


頭を下げ、両手をその前で合わせて亮太が謝る。

図書室の出来事のことだろう。

日向も、あの時のことをずっと謝りたいと思っていた。


「いや、あれは俺が悪かったから…おれも、ごめん。」


日向は俯き加減で小さく頭を下げる。

将悟は黙って二人の様子を、じっと見ていた。


「俺たち…また、友達に戻れるよな…?」


「それは…。」


彼方のことが思い浮かぶ。

きっと亮太と親しくしていたら、また彼方が不安がる。

もっと束縛がきつくなる。

彼方のためには、亮太を拒絶した方がいいのではないかと考える。


「おい、それは弟のこと話してからだろ。」


黙っていた将悟が口を開ける。

鋭い目つきで日向のことを睨みつけていた。


「でもそれは…日向には関係ないじゃ」


「アホか。元をたどればこいつが原因だろ!」


遠慮がちな亮太の言葉を遮る将悟。

日向は二人の話についていけない。

おそらく彼方のことを話しているのだろうが。


「何の話だ…?」


「それは…先週の月曜日の…。」


先週の月曜日。

それは彼方が日向に嘘を吐いた日。

亮太に殴られて、頬を腫らして帰ってきた日だ。


「お前…まさか弟から何も聞いてないのか?」


「…ああ。何も話そうとしないし…。」


「嘘…だろ…?」


将悟は意外そうな顔をする。

亮太もパチパチと大きな瞬きをして将悟と顔を見合わせる。


「亮太に殴られたってことくらいしか…聞いてない。

 なんでそんなことになったのか、とか全然…何も言わなくて…。」


付き合いが浅い日向でもわかる。

亮太は明るく底抜けの馬鹿だが、人をすぐ殴るような男ではない。

きっと、よっぽどのことがあったのだろう。


「何が…あったんだ?」


「それはその…えっと…。」


亮太が言い辛そうに口ごもる。

そんな亮太の様子を見て、将悟は大きなため息を一つ吐く。


「お前の弟が、こいつの好きな女のことを強姦しようとしていたんだ。」


「…は?」


「ちょっ、将悟!もっと柔らかい言い方があるだろうが!!」


唖然とする日向と、慌てる様子の亮太を横目に、将悟は続ける。


「で、その子はお前のことが好きだったらしくて、

 お前の弟がお前のフリして、弄んだ。」


「弄んだって…強姦って…そんな…。」


「将悟!…もうやめろよ!」


思考がついていかない。

何も知らなかった自分に、唖然とする日向。


「たまたま駆けつけた俺らがヤラレそうになってたその子助けて、

 こいつがぶち切れてお前の弟を殴った。」


「…っ!そんな生々しく言わなくてもいいだろ!」


日向の目を真っ直ぐ見つめ、淡々と話す将悟。

亮太は辛そうに俯いて、膝の上で拳を握る。


「なんで…彼方はそんな…。」


日向はあまりの衝撃的な話に、言葉が出てこない。

自分に嘘を吐いてまでやりたかったことが、強姦だなんて信じられなかった。

自分に依存し、執着する彼方がやることとは思えなかった。


「お前を奪われたくない。自分のものだ、ってアイツは言ってたぞ。

 その子のことが邪魔だって。」


「将悟、もうやめろよ…。」


絞り出すような小声で亮太が将悟を制止しようとする。

将悟は構わず、淡々とした口調で喋り続ける。

受け止めるには大きすぎる事実に、日向は何も考えられなくなっていた。


「なあ、お前らなんなの?

 双子で同じ顔して、いつも一緒にいて、お互いにベッタリ依存して、

 そういうのおかしいと思わねえの?」


将悟の問いかけに答えることができない。

何も答えない日向から視線をそらすことなく、将悟の口は止まらない。


「それ。」


将悟が日向を真っ直ぐ見て、自分の首筋を指さす。


「その首のも、弟につけられたわけ?」


「こ…これは…っ。」


日向は指摘された噛み跡を、慌てて手の平で覆うように隠す。

動揺と緊張で、喉がカラカラに乾いて言葉が紡げない。


「否定もしねえのかよ。…お前らホモかよ、気持ち悪い。」


将悟は吐き捨てるように呟く。


バンっ!


亮太は耐えられないといった様子で、机を叩いて立ち上がる。


「もうやめろよ!日向は何も悪くないだろ!

 …そんな責めるみたいな言い方するなよ!」


一瞬の沈黙。

そんな亮太を横目で見て、将悟は静かに口を開く。








「俺は思ったことを言っただけだ。

 明らかにこいつら、普通じゃない。…異常だろ。」






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