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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

山賊団狩りで役得役得

照りつける太陽。ぼやける地平線、均された土の道路がその水分を奪われて陽炎を放っている。

夏の湿気と熱が体力を消耗させる。路側の森ならば木陰を進むこともできるが、荒れているとはいえ道を歩く速度が優先され我慢させられる。

通気性に優れるチェインメイルのおかげで、ある程度風を感じることができるのがわずかな救いだ。

この上にレザーアーマーなど着てしまった日には暑さでやられかねない。

そして背中には約20キログラムほどの背嚢。ある程度の行軍が可能なだけの水と食料、応急措置用の包帯など、そして戦闘補助用の雑多なマジックアイテムが収まっている

。一番重さをとるのが水だがコレなしに長距離を歩くなんて考えられない。

すぐ真正面にもまったく同じ背嚢が上下に規則正しく揺れるのが見える。というのも宙に浮いてるわけではなく、俺の正面に同じ格好の人間が歩いているというだけだ。

さらには俺の後ろにも、さらに後ろにも・・・およそ40人ばかりの集団だ。

背嚢から突き出たショートソードが俺たちがただ単にハイキングなんかに来た町人などではないことを物語っている。

そして目線からやや上を覆う半球形の革兜の額に描かれた公国の国章である五頭一体の獅子がその所属を示す、決して山賊などではない。

むしろ俺たちは盗賊どもを狩る側……というのも俺たちがこうして歩いてるのは公国の行政官を襲撃し殺害した盗賊連中が潜んでいるという国境周辺の村落を排除するためなのだ。

しかも連中はただの盗賊ではない、俺たちの所属するマン公国は元々この地にあったチャオ王国を我が宗主国のサン帝国が滅ぼしてできた傀儡国家。

要は公国は実質的には占領地行政局みたいなもの。

その占領政策に反発する人間を隣国のラスラフ王国やらが焚きつけて支援しているわけだ。

そして連中のもくろみはいろいろ理由もあって徐々に成功しつつある。

さっきは盗賊が潜んだ村落といったが、むしろ村落全体が盗賊の根城みたいなものだ。

連中からすれば自分は盗賊などではなく侵略者の手先を殺しただけだというのだろうが、そんな理屈をわれわれが聞いてやる必要はない。

ただ殲滅して刃向かうものがどうなるか教えるだけだ。成功すれば村落のものを俺たちで分けることも許されている。

派遣されたのは標準の30人隊に支援の風導士・雷導士組を含めた増強30人隊。村ひとつを30人隊で分けられるんだから結構な儲けだ。

10人班長の俺はそれなりに融通も利くしな。いい女がいることを期待しよう。

それを思えば、このクソ暑い中での行軍も余裕というものさ。まあ生き延びればという但し書き付だが、自称義勇軍の盗賊どもなど訓練された俺たちの敵ではない。

楽な仕事がいくらでもあり旨みは多い、これだからこの国の兵士はやめられん。


そういった邪念で気力を持たせながら歩き続けること数刻、真上からさしていた太陽も若干ながら高度を下げているがまだ暑さは変らない。

そろそろ村が見えてくるころだ、そう思ったころ前方から短笛の甲高い音が三度連続して耳に届いた。

前を見ると真正面の30人隊長殿,名をコルという,がおもむろにまっすぐ手を上げている。止まれの合図だ。

「全員止まれ!村の家屋が見えたぞ。いったんここで再編成する。10人班と組ごとに並べ。」

空気が変った。単調な行軍と暑さで少しばかり抜けていた気が一瞬で引き締められる。

コル30人隊長の号令に従い、一列に行軍していた集団が10人班3列と2組2列の横隊に速やかに組みかえられる。何度も訓練した動きだ、滞りなどあるはずもない。

規則正しい足音がほんの数秒響いたと思えば静寂が訪れる。

整列を確認した30人隊長は林を指差し、彼の低めで抑揚に乏しい声で俺たちに呼びかけた。

「いったんあの木陰で小休憩を取る。各隊長と班長は合議を行うので俺の周りに集まってほしい。急げ。」

駆けるように皆が土道から離れ指し示された木の本へ集う。

みな戦の前の休息に顔が緩んでいるのが目に見えてわかる。が、それでいて周囲の警戒を怠っていない。

一方、急ぐ彼らと異なり30人隊長は村の方向をみつつ、ゆっくりと最寄の木に近づくとその根に腰をおろした。

俺を含めて3人の10人班長と2人の組長、そして30人隊副長がそれに続く。

木陰に入るとわずかな涼けさが長時間火に照らされた体を癒した。ゴツゴツとした木の根も体重を預けられるのならそれでいい。

皆がいっせいにうっとおしい背嚢を背中から下ろすと、瓢箪の水筒を取り出し口に含んで渇きを潤した。

喉を鳴らすように飲めるような量を一度には飲めない、それでも行軍の後の水分補給ほど美味い水はない。生き返るとはよく言ったものだ。

コル30人隊長が額の汗を拭いつつ口を開いた。

「さて、村までおよそ3キロほどだ。しかし、村の2キロほど前になると森が開けて簡単に見つかってしまう。どうしようか。」

30人隊副長は特徴的なしゃくれ顎を突き出しつつしかめ面で応答した。彼は顔は面白いが部下を厳しく扱うことで隊からは恐れられてる。

『地図が正しければ平原といえども細かい起伏があります。稜線に隠れて道の北側から接近すべきでしょう。道の南側は森は長く続いてますが出た後隠れられません。』

「なるほど、では進路の後方に風導士班と雷導士班を配置して正面からの攻撃に対応できるようにすべきか。」

これに対して俺たちと違いローブを帝国訛りの男が答える。彼らは真空波を嵐のように浴びせかける強力な風魔術と真上から雷を浴びせる雷魔術の使い手だ。

『我らとしても賛成であるな。あるいは丘を用いた前進部隊への側面攻撃にも対応できるというものだ。彼らの安全は我等が保障しよう。』

俺たちより待遇がずっといい(帝国軍からの派遣だから当然だが)魔術師様だ。

彼らは条件によっては単独で1000人隊を拘束することができる。

コイツらがいるから山賊どもに対して圧倒できると考えれば高慢ちきな態度も親しみが持てるってもんだ。

「よし、ならばそうしようか。村落側の森に着いたら今度はこの丘から支援してくれ。では聞いたか皆。時間になったら北側に移動するぞ。」

まあ、どちらにせよ俺は一番危険な先頭になることに変りは無い。今回は魔術師どもの支援があるから楽なものだが、場合によっては彼らの死角で戦闘することもあるだろう。

「アミラ、いつもどおりお前の班が先頭だ。今度もしっかりやってくれると信じてるぞ。」

おうおう、隊長の癖に一歩後ろで怯えながら進みやがって。そのくせに取るものは取りやがって糞やろう、と内心思うが隊長を敵にしていいことは何もねえ。

『いつもどおり戦利品をちょっとは選ばせてくださいよ隊長殿。』

「ああ、考えといてやる。死ななければの話だがな。」

こいつこそ死んでくれねえかな、いや比較的マジで。お前が隊長じゃなきゃ当の昔にシメてたぜ糞野郎。

などと考える頭を薄ら笑いで隠して早々に班の部下の下に行き、作戦についてしっかり伝達しておくのだった。




一時間程度の休憩を取った俺たちは予定通り北側の森の端に移動した。

なるほど、確かに森を出てすぐに崖というほどではないが急な斜面が立っており、その陰になるここは向こう側からは死角になっているようだ。

先ほどと同様に整列した俺たちの前で隊長殿が点呼の確認を終えた副長からの報告を受け取っている。

疲れと休憩への安堵でどこか緩んでいた一時間前と異なり、十分な休息と戦闘の予感がいくらか緊迫した空気を作り出している。

そんな空気を和らげようとしているのか本音だかはしらないが、隊長は下品な笑みを浮かべて宣言する。

「諸君、作戦は伝えたとおりだ。なに相手はいつもどおりの素人、死ぬようなマヌケは戦利品なしだぞ。配置につけ。」

まったく、これではどちらが盗賊だかわかったものではないな、と苦笑する。

一度大うけしたからって隊長殿は攻撃前に毎度毎度これを言いやがる。上手いこと言ったと満足する隊長に対して皆またこれかと呆れ顔だ。

そんな思いを胸に隠し、予定通りに俺の率いる10人班を引きつれ横列で斜面に張り付く。

予定の進行方向に対して右側には別の10人隊が、左側には隊長を含む隊が並ぶ。つまり俺たちが中央だ。

まったくあの野郎、一番安全な崖側を選びやがって。指揮官は中央にいやがれって言うんだ。

左側には切り立った高い崖がある。上に監視所があったとしてもその根元にいる俺たちには気づくまい。岩でも落としてくれんものかな。


その隊長は斜面から一人身を乗り出すと、剣を握り高く掲げた。

「総員!抜刀、前進せよ!」

合図と共に一斉に金属の擦れる耳障りな音が鳴り、金属光沢の眩しい刀身が皆の手元に現れる。

そしてそのまま斜面を登り前方の視界が一気に開けた。先ほどまでの森とは打って変わっていきなり見晴らしのよい草原だ。

真正面に見える森から見ると30人の横列が突然として生えてきたように見えたことであろう。当然、見られてないのが最善だが。

右奥を確認するとちょっとした丘が500m強ほど先にあり、視界を隠してくれる効果が望めそうだ。

確認した地図によると、あの丘の向こう側がちょうど目標の村落になっているらしい。

つまり俺たちは殆ど正面以外に気にする場所は今のところ無い。

後ろを振り返ると魔術師どもが斜面から上半身だけを出してなにやら魔法詠唱の準備らしき何かをしている。

しかも魔術師の支援を受けられるという最高の状況なわけだ。理想的とさえいえる。

少なくともここを超えて村落側の森にたどり着くまでは。


左右にはある程度の間隔を開けつつ俺と同様に武装した仲間が訓練通りの前進速度でただまっすぐ突き進んでいる。

その統制された動きは、草と地面を踏みつける低音がまったくズレることなく一定のテンポで拍子打ちのごとく発生することが悠然と物語っている。


歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、


周囲を警戒する。崖上は見えないが人のいる兆候は無いか、右側の獣道沿いの森には誰もいないのか、正面になにも動きは無いか。


草を踏みつけるごとに正面の森が近づいてくる。歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、


聞こえる足音は我々のものだけか、話し声は聞こえないか、魔術詠唱のエーテル光は見えないか、ただ集中力を研ぎ澄ませる。


遠い、300メートルほど進んだ、歩く、歩く、歩く、右側向かって正面が森ではなく斜面になりはじめた、歩く歩く、歩く、歩く、


気づかれているかも、歩く、歩く、歩く、もし弓兵がいたら、歩く、歩く、歩く、歩く、魔術師がいるかも、歩く、歩く、歩く


歩く、歩く、歩く、歩く、生き延びれるのか、歩く、歩く、予想外の戦力がいないか、歩く、歩く、歩く、歩く、


恐怖心だ、恐怖を忘れない兵士は生き延びる。歩く、歩く、悪い予感と焦燥感が集中力を高めてくれる。歩く、


だから俺は臆病者じゃない。歩く、これはコントロールされた恐怖だ。歩く、歩く、歩く、歩く、


歩く、歩く、歩く、右の斜面がどんどん寄ってくる、歩く、歩く、歩く、崖と斜面のスキマが一番狭いところまですぐだ歩く、歩く、


歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、まるで回廊だな、横幅150mとは宮殿かな、歩く、歩く、崖と斜面が並行に壁のようだ、歩く、歩く、歩く、


歩く、歩く、歩く、歩く、男の叫び声、左を振り返る、叫び、


「全体止まれ!落とし穴だ!」


隊長の怒号が聞こえる。全員が足元を見る、草以外何も見えない。

隊長の班のうちの一人が右足を地面に突っ込み腹の底から悲鳴を轟かせている。

おそらく穴の底に槍かそれに類するものが生えているのだろう。

村落からこの距離でこんな声を上げていては間違いなく察知された。

両隣の味方が助け出しているが足をやられるのは戦場では非常にまずい

戦闘が終わるまでここに放置されるだろう。

畜生、おそらく村落につくまでにあちらの体制は整えられてしまう。

舌打ちすると同時に滑空音、弓だ

軽い音と共に幾人がうめき声を上げ倒れる。

畜生、方向からして正面の森からだ。

なんてマヌケだ、当の昔に待ち伏せされていた。

今ので真隣のケレツがくたばった。

頭に恐怖が渦巻く、一歩間違えたら俺が死んでいた。

最悪のタイミングだ

急いで向こうの森まで走ろうにも落とし穴への恐怖で全力を出すことはできない。

敵はこちらが逃げるにも進むにも最大の被害を受けるであろう状況まで攻撃を待っていたんだ。

本数から言って弓兵は10人未満といったところだ

消耗覚悟で走ればこの100mを戦闘力を維持して抜けられるかもしれない。

だが、足元を気にして全力疾走するのは厳しい。

彼らは俺たちを全滅させられることだったろう、支援が無ければ。

「伏せろ!伏せろ!」

隊長の号令と共に地面と愛を交わす。草の青臭さが鼻を付くなどと感じる余裕は無かった。

通常、剣士が伏せるなど下作もいいところだ。

その直後、無数の恐ろしい風きり音と強烈な風の流れが頭上を流れていく。

まるで竜巻が横に吹きつけているようだ。

風魔術師の攻撃魔法だ。

俺たちから1キロ強も離れてるにもかかわらず、正確に前方の森を切り刻んでくれている。

これは長弓兵もとてもかなわない。

草の間から前を見ると、カマイタチが森の草木を切り裂き風の流れに乗ってその断片が舞い上がっているのがわかる。

俺たちは所詮は魔術師ども囮なのだ。敵を見つけるための目に過ぎないんだ。こ

の世界において魔術師とそうでないものの格差は隔絶している。

この距離だ、連中には敵の姿なんか見えてないに違いない。

だが、この圧倒的な威力とその持続力でめくらうちを続ければそれでいいのだ。

「よし、魔術師様に感謝しながら這って前進!!たったら死ぬぞ!」

隊長の号令の下に、芋虫のように腹を擦り付けて前進する。

畜生、俺も魔法使いに生まれていればそれだけで金持ちになれたのに。

幾筋の閃光が奔る、雷術に違いない。あれは樹木を一瞬で焼き焦がす程度の威力だ。

おそらく前方の弓兵は殆ど生きてはいまい。

俺のような非魔法使いが100人集まってもできるかどうか怪しい破壊をたった一人で起こす圧倒的格差に泣きたくなる。

だが、今は味方だ。ただそれだけで救いになる。

おっと、目の前に落とし穴らしき何かがある。危ないところだ。

糞、たぶん彼らがいなきゃ死んでたな。悔しいが、事実だ。

伏せながら迂回するのは面倒だが串刺しよりマシだ。這う、芋虫のように。

途中で風魔術師の支援は止んだが隊長は立ち上がらせない。おそらく罠を警戒してのことだろう。

這う、這う、焦げ臭いにおいがする。おそらく木と人間の焼けた臭いだ。一瞬で死ねたのだろうか。

這う、切り刻まれた草の青臭さもまじる、這う、這う、森まで間近だ、這う、這う、雷魔術も止んだ

「よし、突撃!」

隊長の号令を聞いた直後皆が雄たけびを上げる。立ち上がり駆け足。脳が煮えたぎる感覚がする。

叫ぶという獣の行動が精神を高ぶらせるのだろうか。

いつもどおり誰よりも前に出て駆け抜ける。先ほどの魔法でずいぶん見晴らしのよくなった森に一番乗りした。

ベッタリと血や肉片がこびりついた木がいくつか見える、ズタズタに切り刻まれた死体が下に転がっていることだろう。

死体は後だ、殺すのは生者だ。

後ろは見ない。誰よりも前に出たのだから後ろは味方だ。だから俺は一番乗りが好きなんだ。

奥を見るとかなり奥まで攻撃が及んでいるのがすぐにわかる。向こう側に逃げるようなやつは馬鹿しかいるまい。

ということは集落のある右側,そこなら丘の影で死角になっていた,そう気づくとすぐにみぎに振り向く弓兵は残ってないか。

50mほど向こう、風魔法の被害の及んでいない場所にいくつか黒く焦がされた樹木があることにすぐ気づく。

雷は真上から落とせる、おそらく風魔術の届かない場所の掃除をやっていてくれたのだろう。まったく恐ろしいもんだ。

俺に続いて草むらから後続が一気に突入してきた。

確認すると7人そこら減っている、まあ仕方があるまい。

後ろの部下を確認した俺は隊長に向かい叫ぶ

「アミラ班、いつもどおり先行する!」

『よし、頼むぞ!』

地面には連中が大慌てで逃げた後だろう足跡がいくつか残っている。

こちらに魔術師がいることがわかると連中が逃げ出すのはいつものことだ。

だから追っかけて逃げられる前にぶっさしてやらなきゃいかん。逃げられると戦利品が少なくなる。

右手の剣をしっかり握ってまっすぐ目的に向かう。足止めがいるか?いたら切り捨てるまでだ。

一度突撃が始まると俺はもう攻勢発起前の恐怖心を維持していられなくなる。

都合のいい展望だけだ、大丈夫俺は死なない。

喧騒が聞こえてきた、目標は近い。木々が両側をいくつも追い抜いていく。光だ、森を抜けるぞ。

日当の熱気が体を温める、村の騒ぎが開けた場所に出たためはっきりと聞こえる。

殺気、脚部に思いっきり力を込め身を縮める。

右から空気を割く音と流れ、頭上を通過する。首をなぎ払われるところだった。

寒気を感じる暇も無く反射的に右手を振り抜く。

肉に突き刺さる感覚。馬鹿が、攻撃しやすい聞き手側に立つから。

必殺のつもりだったろう、驚愕と苦痛に目を見開く若い少年に力をこめ思いっきり腹に突き刺す。

手に伝わる内臓を破壊する感覚はもう慣れた、引き抜いて首に一閃。

血を噴出して倒れた少年には目もくれず村の向こう側の出口を見る。

急いで脱出しようとする馬車の荷台で騒ぎが起きていた。

どうやら馬車に乗せてほしいとゴネられているようだ。

ちょうど後ろから班の仲間がやっと現れた。

10人班には通常は剣士兼任の石弓射手が一名おかれることになっている。

生きてるのは確認済みだ。

「あそこに馬車だ!馬車を射て!」

これに気づいたのか数人の男たちがこちらに殺到してきた。阻止するつもりだ。

射手が石弓を準備するのを尻目に正面の連中に吶喊する。

まずは先頭からだ。長身の男が奇声を上げて両手で長剣を振り上げたまま突進してくる

いい度胸?いや、素人の無謀だ。

一気に間合いを詰める

直前で左に回りこんでやると力任せに簡単に空振りさせてやれた。

隙しかない、首を切り抜いて次に移る。

後ろの叫び声を聞きながら長身男のすぐ後ろにいた赤毛の青年に飛び掛る

こんな位置で支援していたつもりだったとはお笑い種だ。

目の前の味方が殺された衝撃から立ち直りきれないまま

喉に突き刺さった剣に命を絶たれた青年を蹴り飛ばして得物を抜く。

正面のは片付けたようだ。

……妙だ、素人過ぎる。

あの見事な奇襲で危うく俺たちを殲滅仕掛けた連中と同じとはまるで思えない。

違和感に急かされ周囲を目配せする。

そうだ、弓兵を一人も見ていない。

魔術で全滅したと考えるのはいくらなんでも楽観的過ぎる。

どこかに隠れているのか、何かの陰に隠れるか、いや全滅した、

いくつか脳裏に並列していくつか考えが巡るも、馬車をもう一度見直して気づく。

村の馬車にしては手入れが行き届いている。

そうか、連中はここのもともとの住人じゃないんだ。これは手柄になりそうだぞ。

連中はこいつらを焚きつけてる王国の手先なんだ。

そう閃くのと同時に馬の甲高い悲鳴が当たりに響いた。

やった!馬車の首に石弓が突き刺さっているのがはっきりと視認できる。

あれでは逃げられまい。

周囲を見ると他の味方も完全に敵を圧倒しているようだ。

すくみあがって武器を手放してる敵さえいる。

後ろから別の班も到着したのが見える、完全に勝敗は決してしまっている。

これはもはや戦闘というより殺戮だ。

よし、連中を確保しに行こう。

急いで馬車に向かうと周りで乗せてくれと懇願するためそこに集まっていたのだろう女子供が悲鳴を上げて散っていく。

今は邪魔だ、女を捕まえるのは後。

あれだけの連中だ用心に越したことは無い、荷車は御者に空けさせよう。

と、御者のほうに目を向けるとうつぶせに倒れているのが見える。

暴れる馬に巻き込まれたのかと近寄って蹴り上げると喉に短剣を自ら刺しているのがわかった。

しまった。急いで荷車を自分で確認する。三人の男が同様に自決しているのが確認できた。

なんてやつらだ。自ら口を封じたとは。

こうなっては仕方があるまい。殺戮に参加しなおそう。

そう考えていると降伏の合図である白旗を掲げる集団が目に入ったのだった。




隊長が村長を名乗る老人に対して生き残りの皆を村の中央広場に集めるよう命令しいくばくか経ったところだ。

村人がすすり泣く声が兵士の下品た笑い声に混ざってまるで地獄のようだ。

特に男の鳴き声ほど耳障りなものは無い。とはいえ、男といえど子供のほかは老人しか残っていないのだが。

公国から支払われる兵士の褒章はそれほど多いわけではない。だが人はそれなりに足りている。

なぜかというとマトモな仕事で食っていけない人間が多いからというのもあるが、二つ目にはこれだ。

いま建物や倉庫から金になりそうなものを捜索しに行った班が今最後の建物を調べ終えて帰ってきた。

残念ながら王国の関与を示す明確な証拠はつかめなかったが、俺たちにはそれよりももっと価値のあるものがある。

気の早いやつの中にはもう股座を膨らませて女たちを指差しているやつまでいる。いや、それが隊長というのが嫌になるところだが。

絶望と悪寒に泣き崩れる彼女たちは夫や息子だったモノの血の臭いが残るこの村でなにを思っているのだろう。

もっとも、俺には関係ないことではある。なに、死んでしまうよりは奴隷になったほうがまだいいに決まってるさ。

そうだろう?と、傍らに転がる死体に一人かたりかけるのだった。

初投稿作品になります。

習作的な感じなのですが楽しんでいただけたでしょうか?

よろしければ感想などあるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きというか、下士官役の主人公さんの過去話が読みたくなる短編。 [気になる点] 誤字報告 聞き手→利き手 [一言] R18で連載とかげふんごふん
[良い点] テンポ良く基本を押さえた文章、詰まることなく読めました。 [気になる点] 難読語にはルビを打ってくださるとありがたいです。 必ずしも間違いとは言えませんが、「」内末尾は読点。を付けない方が…
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