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〝戦天使〟が見た過去(ユメ)は  作者: 筑間 陸
〝戦天使〟編
1/35

1.壊された日常

 少女は帰り道を歩いていた。

 手には果物が入った籠を持ち、その表情は明るい。

 だが、彼女の着ている物はあちこちがすり切れていた。靴にも穴が開いている。お世辞にも、裕福そうとは言えない。

 それでも、彼女の表情に曇りはなかった。しっかりと前を向いて、どこか楽しそうに歩いている。


 帰った先で何が起こっているかなんて、考えもしないまま――。



 小国カルミア。

 サラマンダー大帝国とキャラウェイ王国に挟まれた、小さな国だ。

 だが現在は、七大国家火の国とも呼ばれる大帝国の、ほぼ属国状態にある。〝小サラマンダー〟とも称されるほどだ。何をするにも帝王の言いなりである。その代わり、守られてはいるのだが。

 そしてもう片方の隣国、キャラウェイとは争いが絶えない。国境付近でよく小競り合いが起きている。


 そんな平和と言えないこともないこの国で、メイローラ・シュイは暮らしていた。

「ねえ、メイ」

 呼びかけたのは、姉のラミーナ。

「ちょっと果物を買って来てくれない?」

「いいけど……何で?」

「内緒」

 ラミーナは微笑んで、妹に籠を持たせた。

 二人には、両親がいない。

 父親は戦地に、母親は働きに出たまま、帰ってくることはなかった。二人が十一歳、六歳の時だ。

 それ以来彼女たちは支えあい、貧しいながらも幸せに暮らしている。

「何を買えばいいの?」

 メイローラが尋ねる。

「メイの好きな物」

 姉の答えにうなずいて、『行ってきます』と手を振った。

 ラミーナも微笑(わら)って振り返した。



 言われた通り好きな果物を買って、メイローラは家に向かっていた。

 日差しがきつい。早くしないと果物が傷んでしまう。

 走るようにして歩くと、家に着いた。

「ただいまー」

 汗をぬぐって、ドアを開ける。


「――え?」


 家を間違えたとすら思った。

 だが、割れた窓も壊れたテーブルも引き裂かれた絨毯も、すべてが今日まで使ってきたものだった。

 ただ、一つ欠けているものがある。

「姉さん……?」

 ラミーナの姿がなかった。

 部屋に入る。

「どこ? 隠れてるの?」

 寝室にも。

「姉さん」

 台所にも。

「姉さん!」

 どこを捜しても、姉はいない。

「痛っ……」

 ガラスの破片で足を切った。血と痛みが、じわじわと広がる。

 ――そうだ。きっと姉さんは出かけてて、その間に泥棒が入ったんだ。だから、もうすぐ帰って来るはず。

 そう思い安心して座り込むと、手が何かに触れた。

「あ……」

 銀色の首飾り(ロケット)だった。

 ――違う。姉さんは余程のことがない限り、これを外したりしない。父さんと母さんの写真が入った、この首飾り(ロケット)を。

 じゃあ姉さんは……と考えた時、


「シュイ家というのは、ここかな」


 ドアが開いて、男が数人入ってきた。一人がメイローラを見つけて、声をかける。

「君が、メイローラ・シュイ君かな?」

 黙ってうなずく。

「そうか……。じゃあ、ラミーナ君の妹というのはき」

「姉さんはどこ?」

 首飾り(ロケット)を握り締めて、メイローラは訊いた。

 男は困ったような顔をして、

「先に足の手当てをした方がい」

「姉さんはどこ!?」

 彼女の再びの問いに、ふうと息をついた。

 そしてその目を真っ直ぐに見て、

「君のお姉さんは――」



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