第16話 初めての・・・
俺は部屋が明るくなってきたのを感じて俺の目は開けた。そして、視界に入ったのは莉那の不機嫌そうな頬を膨らまされた顔だった。
「むぅ、雅渡早起きしてくれるって言ったのに。なんで起きるの遅いの?」
寝起きから聞かされた第一声がそれだった。そういえば、昨日寝る直前に早く起きる、と言ったような気がする。いや、俺は早く起きる、とは言っていない。早く起きれたら起きるといったのだ。
「莉那、俺はお前に早く起きるなんて一言も言ってないぞ」
なんで怒ってるんだ、と聞いても雅渡が早く起きてくれなかったからだよ、と言いそうだと思った。だから、俺は別のことをこうして言ったのだ。
「む、確かに、雅渡は努力する、としか言ってないけどさ。やっぱり、早く起きてほしかったな。優が散歩に行っちゃたからわたしも一人で寂しかったんだよ」
莉那の顔が更に迫ってきた。気がつけば視界には莉那の顔しか映っていない。
それを意識してしまうととても恥ずかしかった。
「ご、ごめん、莉那。俺が、悪かった。……だから、ちょっと顔を離して、くれるか?」
わけがわからなくなってしまうような緊張のせいでそれだけ言うのが精一杯だった。俺が莉那を押して離す、ということもできなかった。
「……え?あ…………」
莉那は今頃顔がかなり近づいているということに気がついたかのように小さく声を漏らした。しかし、莉那は俺から離れようとはしなかった。
驚いているのか、莉那は固まっている。それでも、徐々に莉那の顔が赤くなっていっているのがわかる。
それは、自分の顔が赤くなっていると感じるのよりも恥ずかしかった。莉那が顔を赤くするということは莉那が俺のことを意識しているということであるからだ。
だから、俺はそれによって更に莉那のことを意識してしまい恥ずかしくなってしまうのだ。
下手をしたらこのまま一生動けそうになかったので俺は口を開こうとした。
しかし、俺が口を開こうとする前に俺と莉那の顔の間が一瞬にしてゼロになった。そして、莉那の唇が俺の唇に触れた。
何が起きたのか理解できず俺はそのまま硬直してしまった。それは莉那も同じだろう。お互いの唇が触たまま動くことができない。
「雅渡、おはようにゃ。莉那のキスはどうかにゃ?」
優の声が聞こえた途端に俺たちは、はっと我に返る。それと同時に俺と莉那は自分たちの状況を理解した。
莉那は今まで見たことないくらいに顔を赤く染めて俺から、ばっと離れる。俺は横になったまま鼓動の早くなった胸を右手で押さえる。莉那も同じように胸を両手で押さえている。
「狙い通り唇同士を触れさせれたのにゃ。優はえらいのにゃ」
得意そうに優が言う。俺はその言葉を聞いて莉那とファーストキスを交わしたということに気がついて、自分の顔が更に赤くなるのを感じた。莉那は俺に背中を向けて顔を俯かせる。優の言った言葉を聞いてとても恥ずかしくなったのかもしれない。
「二人とも初々しすぎるにゃ。でも、だからこそボクも見ていて楽しいにゃ」
本当に俺たちの姿を見て楽しむかのように優は言う。
俺は自分の心をどうにかして落ち着かせたいのに全く落ち着いてくれない。なんだか、恥ずかしさのあまりに全身が熱くなっているような気がする。
「二人ともそんなに照れることはないにゃ。仲がいいのはいいことにゃ。ボクはその仲を深めるために協力してあげただけにゃ」
先ほどとは違い、どこか温かみのこめられた声色で優は言った。
「さ、ボクはもう一度散歩に行ってくるにゃ」
優は窓へ向けて飛んでいこうとした。それを莉那が引き止める。
「……待って、優。わたしも、行く」
莉那は顔を上げてそう言った。莉那の顔はまだ微かに赤い。
「いいのにゃ?せっかく二人きりにしてあげようと思ったのににゃ」
「う、うん。雅渡は朝食を食べないといけないだろうからさ」
「そうかにゃ?わかったにゃ。じゃあ、一緒に行くにゃ」
優は窓をすり抜けて外へと出て行った。莉那は視線をさまよわせつつも俺の方を見る。俺も、先ほどのようなことがあったせいかまともに顔を見ることができない。
「あの、それじゃあ、行ってくるからね」
「あ、ああ。気をつけてこいよ」
「うん」
莉那は俺の言葉に返事をするとすぐに外に出て行った。
俺は俺だけとなってしまった自分の部屋で何度も深呼吸をする。どうにも、まだ気持ちが落ち着かない。
十回目ほどの深呼吸を終えた頃になってやっと気持ちが落ち着いてきた。
そういえば、朝食を食べにいかないといけないな、と思いながら俺は時計を見てみる。時間は六時半だった。
一応まだ余裕はある、そう思って俺は部屋を出て居間へと向かった。




