10月20日
一応漢数字と算用数字には意味があります。
――十月二十日午後三時
「うーん」
意気揚々と駅から出たのはいいけど、いかんせん私は自分の状況を理解するのは苦手らしい。偶然見つけた公園のベンチで腹ごしらえとしてコンビニで買ったパンを食べながらそんなことを考えていた。
「大学まで遠すぎでしょ」
そりゃ、電車で揺られれば四十分もあれば着くかもしれないけどさ。
私的にはさっきまで三時間位電車に揺られてた身としては勘弁願いたい。
でも電車がだめとなると、タクシーってことになるけど、それじゃいくらかかるか分からない。
私の財布には福沢さんが一枚しかいない。
つまりこのことから導かれる私の行動は……
「よし今日は家に帰ろう」
どうやら私の意思は薄弱らしくついさっきの考えをあっさりと翻した。
ここから家までなら少しかかるけど歩いて行けるだろう。
久々に都会の風景を見ながら帰るってのも乙な行動かもしれない。
頭よりも先に体が我が家に向いた。
幸い今日は曇っていてそんな汗をかきそうに無かったので好都合だ。
ここら辺で一番都会らしいとも言えるスクランブル交差点を通りながらそんなことを考えていた。
スクランブル交差点はこんな時間でも騒がしい。
人が歩く音、誰かがしゃべる声、車のクラクションが響く音。きっとここで誰か居なくなってもここは騒がしいままだろう。
そんなことを考えていると次第に都会の喧騒から離れていた。
私の前に長い坂道が見えた。
私はそれを心臓破りの坂と大仰な名前をつけていた。
だって長いし傾斜が急なのだもの。
いつも通り途中の電柱で手をついて一息つくと私は家と家の間の隙間に何かがあるのを見つけた。
何だろ?誰かここに落としたのかな?好奇心という親切心とは無縁の心で隙間に入りこんでそれを拾った。
「なんだろコレ?」
一見すると人間の手に見えなくもない。
よく出来たマネキンにも見える。
マネキンにしては質感も随分とリアルなのだが、最近のマネキン事情なんて知らないのでもしかしたら、今は全部こんなものかもしれない。
「でも、人形にしちゃあリアルよねぇ。重いし」
持ち上げると、ボロッと先の方が崩れた。
崩れた断面を見ると、骨やら、血管のようなものが見えた。
ありゃ本物だ。
触ったことがないから分からないが、恐らく死体を触ったらこんな感じなのだろうと思う。
その地点から更に路地の奥を遠目で見ると何か落ちていた。
その何かの周りには素人目で分かる位致死量を超えた血みたいな赤い液体が飛び散って少し臭った。
これがちの匂いと言うものなのか。随分と頭がクラクラする。
つい二日前に仏に会ったっていうのに今度は知らない仏さんに会ってしまった。
こっちは綺麗に棺桶にしまわれてなくて仏っていうよりも本当に人の死んだ体に近かった。
私はぱっと手を離して空を見た。
先ほどと変わらず空には雲が厚く漂っている。
このまま見て見ぬ振りをしてもいいんだけど流石にここで見捨てると最近死んだ父親に呪われそうな気がするので、手を離して隙間から抜け出すと携帯を開いて小学校で習ってから一度も押したことのない番号を押した。
数コール後に向こうから反応があった。
あーもしもし警察ですか?