9月某日
話は少しづつ動き出します。
――九月某日
父親の葬儀が終わり私は帰りの電車の中にいた。
母は何でも親戚と用事があるとかで私だけ先に帰らせたのだった。
「ほんと、大人って大変ね……」
呟き程度の声量にも関わらず閑散とした車内ではよく響いた。
座席から顔を出して車内を簡単に見回すと、爺さんが一人と上京するのが初めてだろうかという位に荷物を持っている私より少し位年上の男の人が一人いるだけだった。
「しっかし堅苦しかったわねぇ…こんな服もう着ないんじゃないかしらね」
自分の着ている礼服をつまんだ。
明らかに普段私が着てそうな服とは違い、高級そうな生地に小洒落た刺繍が入っている。
首に結んでいたリボンをほどく。
うん大分首が楽になった。
母がいたなら行儀が悪いとか言って注意されそうだけど、お生憎さま今は一人なのだ。
もともと一人になるのは苦手じゃない。
むしろ好きな方だ。父は、仕事にかかりっきりで家族なのにもかかわらず、いや家族だからこそ半年以上会話という会話が無かった。
私は会社の名前は知らないけれど、父は名家の出らしくて、会社での地位も重役と呼べる地位にいたことは何回か偉そうな人が訪ねてきたのでそう思っていた。
死んでから知ったのだが実は、偉いとかそんなものではなく、その会社の社長だったんだけどね。
つまり私は社長令嬢だったのだ。
今となっては肩書きの初めに元がつく立場になってしまったのだが。
それに対して母は家柄が平凡だった。
だから、周り親族に気を使わなければならなかったのだろう。
その点については同情をせざるを得ない。
世間体を気にしすぎたのだ。
まさに上は洪水、下は大火事。さてなんだ?答えは我が家。みたいだったわね。
そして、私は一人になりましたとさ。
めだたし、めでたし。あれ、違ったかしら?
「ん?」
どうやら少し寝ていたらしい。まだ意識がはっきりとしていないが、おぼろげに車内には終点を知らせるベルが鳴っている音が聞こえる。
その音がどうしようもなくうるさいので、しょうがなくなくゆっくりとした足取りで駅へと降りた。
「『人生は何事もなさぬにはあまりにも長いけど、何かをするにはあまりにも短い』とはよく言ったものね」
車内とは違い構内には人がたくさんいたので私の独り言を訝しむような眼で見てきた人もいたが気に留める必要もないだろう。
「さてと、なにから始めようかしら」
座っていて体が疲れたのか伸びをすると肩甲骨と首がポキッと小気味のよい音を立てた。
「とりあえず……大学にでも行こうかしら。話はそれから決めればいいわね」
朝ごはんは何にしようかなぁとか考えながら大学へと足を進めた。
短くてすみません。