閃光の伝説(笑)
「僕達に受けてもらうにふさわしい依頼って、なかなかないね」
焦茶色の髪をした、成人したてに見える容姿と装備の良い男がつぶやく。
「そうね…なぜ新人向けの依頼って、こうもがっかりさせられるのかしら」
言ったのは、男の仲間である、こちらは薄い金髪の若い女。魔術師だろう。
新人冒険者にそうそう難易度の高い依頼など任せられはしないのだが、
彼らも他の仲間三人もそうは思っていないらしい。
◆
ひと月前の事。
この新人冒険者五人「閃光の伝説」は薬草採集の依頼を受け、失敗した。
特に限られた場所にしか生えていない訳でもなく、群生地も知られていて、
注意深く、丁寧に、手順を守れば失敗などまずないものを、失敗した。
さらに、依頼の不手際を咎めた受付嬢に、彼らは逆上して喧嘩を売った。
文句だけでなく脅迫めいたことまで仕出かした相手は、実は領主の三女。
冒険者組合を通して領主の伯爵家から彼らの実家にまで厳重注意が入り、
下級貴族・準貴族だった彼らの実家はそのやらかしに蒼白に。
幸い冒険者資格の剥奪まではいかなかったものの、一か月の謹慎処分。
実家から彼ら五人は徹底的に絞られ、かろうじて家からの除籍は免れた。
実家の方も、嫡子ではないため縁切りしたいのはやまやまであるのだが、
既に冒険者組合と伯爵家に身元は割れているため、うかつに除籍した後、
下手に犯罪に手を染められたりすると、さらに家の信用が損なわれる。
苦々しく思いながらも、ある程度は面倒を見るか、と結論付けたのだった。
実際に彼ら五人の装備は整っている。平民では揃えるのも難しかろう。
実家の助力がなければ、彼らでは今ある武器のひとつも買えまい。
依頼案内板での会話を見る限り、反省など既に過去の出来事らしいが。
本日は、その謹慎明け翌日である。やる気だけはあるらしい。
いや、根拠のない自信もあるらしい。
実のところ彼らはまだ冒険者見習いで、ろくな依頼は受けられない。
その中で、採集依頼を選んだのは「なんか楽そうだったから」である。
工事補助や道路清掃や水路清掃は「臭そうだし疲れるからイヤ」。
討伐された獲物の解体は「そんなものは業者にやらせればいい」。
成程、彼らにはふさわしくないだろう。雑にやられても迷惑である。
ところで依頼受注には、抜け道がある。
害獣駆除や人物護衛などの危険を伴う依頼は見習いが受けられないものの、
「正式な冒険者がいる場合、一行に見習いがいても許容される」のである。
見習いに現場を体感してもらうための、言うならば実地研修であり、
つまり正式な冒険者がその手の依頼を受け、それに同行する形を取れば、
彼ら五人も参加が許されてしまう。不本意ながら。
想定は正式な冒険者数人に見習い一人二人、なのだが。抜け道は抜け道で。
よって「彼らの実家より依頼を受けた冒険者」が今回彼らに同行している。
五人を上手く誘導し、自信を持たせ、次の仕事へ繋げられるようにと。
非常に、非常に、非常に、不本意ながら。
人物護衛や施設警備など第三者に迷惑が掛かりそうなものは難しかろう。
装備だけは良いので、攻撃を喰らっても大した怪我は負うまい。
不幸にも厄介事を引き受けてしまった中級の三つ星冒険者、
剣士のラウレールは自らの幸運を信じつつ、害獣駆除の依頼を受けた。
◆
町からやや離れた小さめの森。
ここから少し離れた畑で、害獣による食害が出ていた。
駆除対象はそれである。齧った形跡からイノシシと思われるが。
「まったく…戦う相手がイノシシとはね。楽な仕事ではありそうだけど」
今の発言はラウレールの雇い主の男爵家六男である。ご不満のようだ。
武器と防具は、ラウレールのものより高品質だが、戦闘面の実力は未知数。
王立中央学院に通っていたと聞く。そこでは剣術が必修科目らしい。
そのせいか、ラウレールを「仕方なく同行させている」つもりのようだ。
実際の「仕方なく」はこちらなのだが…腕前には期待していいのだろうか。
「そうね。わたしも魔術の威力は抑えないと森ごと消滅しちゃう」
これは確か別の男爵家三女。
魔術師の装備はよくわからないが、剣術より金がかかると以前聞いた。
ラウレール以外の、ここにいる全員が学院を出たという話だった。
本当に強いなら味方撃ちなどされなければ、きっちり駆除も出来るだろう。
そう考えていると、何かかなりの勢いで近付いてくる足音がする。
飛び出してきたのは予想通り一頭のイノシシ。だが、様子がおかしい。
見ればイノシシは傷だらけで体のところどころに血が滲んでいる。
こちらに向かって突進してきたというより、何かから逃げている?
イノシシはこちらを見るや、別方向に走って逃げた。
追うべきか迷ったが、そんな考えは次の瞬間消え失せる。
草むらからゴブリン六頭がギャギャギャ、と声をあげつつ現れた。
連中はどうやら、得物のイノシシを追いかけてきたらしい。
こちらも自分を入れて六人。ゴブリンも六頭。数だけは同じ。
しかし五人の実力は未知数。ラウレールは指示を出そうとするが、
「ふんっ、ゴブリンか。僕に任せてもらおうっ」
と六男が指示を待たず剣を抜き真正面からゴブリンに突っ込んでいく。
一頭に斬りかかろうとしたが、横からゴブリンが棍棒で殴りかかった。
慌てて六男が下がるが、棍棒が盾にかすってよろめく。
遅れて他の者も武器を取り、それぞれゴブリンへと攻撃を始める。
しかし。
剣を振るう四人は正直、剣術を学んでいたとは思えない戦いぶり。
攻撃が当たらない。攻撃を避けられない。味方に当てそうになる始末。
乱戦の経験がないのか?密集するな!もっと場所を広く使え!
魔術自慢をしていた三女は、乱戦の中で攻撃魔術を躊躇い右往左往する。
ラウレールも二頭を相手にしているので、なかなか加勢に行けない。
どうにか仕留め、ようやくラウレールも援護に回る。
そこに。
「ええいっ、喰らいなさいっ!《氷筍の雨》!」
三女の範囲攻撃が降り注いだ。余程焦ったのか、自分も範囲に含めて。
◆
応急手当にかなりの時間を食わされ、
町へ帰還できたのは予定より随分と遅くなってからであった。
本来駆除対象だったイノシシはゴブリンに与えられた傷が深かったのか、
少し離れた場所に倒れていた。漁夫の利だったが駆除完了でいいだろう。
乱入してきたゴブリンは仕留める事は出来た。まあ臨時収入にはなった。
身体も装備も満身創痍になっているが。三女の魔術が弱くて命拾いした。
収支を考えれば赤字もいいところだろう。ラウレールも含めて。
彼ら視点では満足な戦いだったようで、傷だらけでも表情は明るかった。
あのグダグダな戦闘は、なぜか自信につながったようだ。
ラウレールは思った。
二度とこんなの引き受けん。
「学院を出た」であって「卒業できた」とは言ってない。
なおこの国で、学院を卒業できなかった者は家の後継者資格がありません。




