5、何もかも消えていく
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「長。今日、クラスの女子が学校に来ていなかったから周りに訊いたら、最初からいなかったって言われたのですが、何か理由があるのでしょうか?」
「それはアイブも君と同じかな?」
「はい」
俺はアイブを置いて、一人で長の家へと来ていた。
長と二人で話をしたかったから。
「本当に君達は不思議だよ。この街の影響を受けないんだからさ」
それから長は、街の秘密を教えてくれた。
この街に招かれるためには未練があることが必要で、この街を去るためには未練がなくなることが必要だ。
未練がなくなれば、いつの間にか消えて、街の猫達の記憶からも消えてしまう。
そして消えた猫は何処に行ったのかが問題だ。
それは誰にも分からないようだった。
「長には未練があるのですか?」
「ワタシもみんなと同じだよ。でもワタシの未練は消えない。だから五百歳過ぎまで生きているんだよ」
「それでいいんですか?」
「ここは人間の世界に比べると住みやすいんだ」
「でも、ここは、、、」
俺は言おうとしたけどやめた。
だって、俺の言おうとしたことを長に言ってしまえば、傷付けてしまうことは分かっていたから。
「人間には分からないさ。猫の気持ちなんて」
長から人間を否定された気がした。
人間だって猫が好きだ。
いつでも癒してくれる猫が大好きだ。
変人扱いされる俺に対しても、いつも可愛く近寄ってくれる。
可愛く鳴いて、体を擦り付けながら撫でてほしそうに頭を出してくる。
俺は猫が、アイブが大好きだ。
「長。あなたには、この街から消えてもらいます」
俺の言葉を聞いた長は、目を見開いて俺を見てきた。
「長は、もう未練を捨ててもよいのでは?」
「捨てる、、、」
「人間の世界では未練があれば幸せにはなれません。未練を捨てて心を軽くすれば、新しい未来が待っています」
「新しい未来。それが、この街から消えるということなのだろうか?」
「俺は、そう信じたいです」
この街は、第二の街と呼ばれるが、本当の役目は未練を消し、魂を浄化させる場所。
誰も、とどまり続けることは想定されていない。
そんな街であってほしい。
俺はそう願っている。
いつか、俺もアイブも浄化される。
そして、いつかアイブとは離れてしまう。
「長、大変です。街の猫達が、どんどん消えていっております」
長の秘書が部屋へ入ってきて焦りながら言う。
そして足からどんどん消えていく。
「ありがとう。君には感謝しているよ」
長は秘書の手を握り、消えるまでずっとお礼を言っていた。
秘書が消えると長は俺を見る。
何か決心したような顔だ。
「人間を、また信じてみようかな?」
意味深に言った後、長は俺に向かって手をかざす。
「長。何が起こっているのですか?」
「ワタシの未練がなくなるんだよ。この街が、、、」
長の言葉は最後まで聞こえず、俺は長の魔法で最初にいた大きな猫じゃらしの上にいた。
長は俺だけを、この場所に飛ばしたのか?
アイブは?
俺は大きな猫じゃらしから下を覗く。
街がどんどん消えている。
この街は、もう失くなるんだ。
俺も。
アイブも。
いなかったことになる。
そして、また新しく産まれ変わるのだろうか?
最後にアイブに会いたい。
抱き締めたい。
頭を撫でたい。
「アオイ!」
アイブの声が聞こえた。
何処にいる?
俺は消えていく街を上から眺める。
「アオイ!」
見つけた。
アイブが走りながら俺を呼ぶ。
俺は届くわけがないのに、アイブに向かって手を伸ばす。
すると糸が出てきてアイブの体を一周する。
でも、それから引っ張っるのに力が足りないし、時間も足りない。
「アイブ、すぐに引っ張るから。大丈夫だからな」
「アオイ」
「何?」
「お願い、アオイ。聞いて」
「聞いてるよ」
「それなら私を見て」
「無理。引っ張るので精一杯だよ」
「アオイ。もう、いいから」
「ダメだ。俺達はペアだろう? ずっと一緒だ」
最後の時まで、アイブと一緒にいたい。
俺の場所にアイブが来ても、俺達は消える。
それでも今、アイブに触れないまま消えるのは嫌だ。
俺達はペアだ。
一心同体だ。
一心同体、、、。
そうだ!
ペアなんだよ。
「アイブ、君も俺のように糸が出せるはすだ」
「でも、どうやって?」
「俺の隣に来たいだろう?」
「うん」
「俺に頭を撫でられたいだろう?」
「うん」
「俺に向かって、手を伸ばせ!」
「うん!」
アイブが手を伸ばすと糸が出てきて俺の所へ届く。
ただ糸が二本になっただけ。
でもこれから魔法を使えば、できるはず。
俺の収入とアイブの収入を足して、魔法を手に入れる。
俺は願いながら二本の糸に向かって手を振りかざす。
すると二本の糸の間を横に向かって何本もの糸が出てきて二本の糸が長い梯子になった。
「アイブ。君は猫だよね?」
「うん」
「その梯子を駆けのぼれ」
「うん」
アイブは華麗に梯子に飛び乗り、走り出す。
猫のように両手両足を使って駆けのぼる。
白くて美しい髪が猫の姿のアイブを思い出させる。
街と一緒に白い梯子も、どんどん消えていく。
もっと急げ。
アイブ!
「アイブ。俺はここにいる。待ってるから、安心して来い!」
「うん!」
アイブの足が速くなる。
大丈夫。
ちゃんと間に合う。
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