3、アイブとの出逢い
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
次の日、俺とアイブは制服に着替えて学校へ向かう。
この街の地図は部屋の机の上に置いてあったから、迷うことはない。
しかし、昨日の夜は大変だった。
一人で寝たくないと言うアイブを寝かしつけるのに夜遅くになった。
アイブは俺と話せることが嬉しいのか、ずっと口を動かしていた。
アイブの気持ちが分かるから、俺はアイブの話を頷きながら聞いた。
やっと眠そうにするアイブの頭を撫でながら、ベッドに寝かせた。
俺は、ソファで寝る。
アイブをアイブの家へ連れて帰ることもできたが、起きてから俺がいないことに不安になったりしたら可哀想だ。
知らない場所に来て、俺までいなくなったらアイブは悲しむはずだから。
俺とアイブは離れてはいけない気がした。
俺が離れたくなかったかもしれない。
一人なんて慣れていた俺が、、、。
朝になってアイブは自分の家へ帰り、制服に着替えてから俺の家に来た。
制服姿のアイブを見て、本当に思う。
アイブは可愛い。
制服の胸元の赤いリボンがアイブの整って美しい顔に華やかさをプラスしている。
子供っぽい所が、見え隠れするところが庇護欲を掻き立てられる。
本当に猫そのものだ。
「アイブ。そんなに慌ててると転ぶよ」
そう俺が声を掛けると、案の定アイブは転びそうになっている。
俺は急いでアイブに掛け寄り、体を支えた。
「だから言ったじゃん」
「あっ、ありがとう」
俺がアイブの頭をポンポンと撫でて言うと、アイブは顔を真っ赤にしてお礼を言った。
転んだことが恥ずかしくて顔を真っ赤にしたアイブ。
猫が転ぶなんてことは、ほとんどないことだから恥ずかしくなるのは分かるよ。
それから俺とアイブは学校へ着き、教室へ案内された。
いろんな種類の猫達がいた。
人間に耳が生えて尻尾があるだけだから、コスプレをしているように見えなくもない。
だが、俺には人間というよりも猫に見えて、恥ずかしい気持ちや人見知りを発動しなかった。
俺、人見知りはするけど猫見知りはしないようだ。
これは俺って無敵なのでは?
これで陽キャになれるのでは?
しかし、珍しいはずの人間ではなく、可愛いアイブの方が猫達が集まるのは何故だ?
質問攻めにあっているアイブは困り果てている。
「アイブ、おいで」
俺がアイブに言うと、アイブは嬉しそうに俺の所に来る。
クラスメイト達は、それを見て散り散りになった。
「大丈夫か?」
「うん。なんだか昔を思い出しちゃった」
「昔?」
「うん。アオイが私を助けてくれた日だよ」
「そういえば、あの日もアイブに、おいでって言ったよね?」
俺は、あの日のことを思い出す。
あの日は雨が降っていた。
何処からか、子猫の鳴き声が聞こえた。
近くにいるはずなのに姿は見えない。
俺は上の方から聞こえることに気付き、上を見上げた。
そこには桜の木があり、先端の方に白い子猫が震えながら動けなくなっていた。
俺は落ちる前に助けてあげようと思った。
桜の木をのぼり、子猫の所へ近付く。
子猫は俺が怖いのか、後退りをする。
それ以上は行かないでほしいのに、子猫は怯えてしまって俺の所には来ない。
雨のせいで視界も見えにくいし、足元は滑る。
傘を差していないから、体温も奪われる。
「おいで」
俺は、子猫に優しく笑いかけて言った。
お願い。
何もしないから、俺の手に触れてくれ。
そう思っていたら、子猫は俺の元へゆっくりと歩いてきた。
そして俺の手に触れたと同時に俺は子猫を抱き締めて木からおりた。
近くにいた母猫が俺に近付いてきた。
この子には心配をしてくれる親がいることにホッとした。
「良かったな」
俺は子猫の頭を撫でて母猫に渡した。
母猫は子猫を舐めながら、愛情を注いでいるように俺には見えた。
羨ましいと思いながら、俺は濡れた体で家へ帰った。
俺には母猫のような愛情はないが、温かい風呂はある。
今の俺には、これくらいでも十分ありがたい。
母親の愛情が欲しいと思う感情なんて、とっくの昔に置いてきた。
「アオイ、ありがとう」
アイブは可愛い笑顔でお礼を言ってくれた。
あの時もアイブは俺に何度も、お礼を言っていたんだろうなぁ。
伝わらない言葉で。
だから俺は今なら伝わるから、アイブに伝わっていると伝えたかった。
そしてアイブ、君は俺の希望だよって伝えたかった。
「アイブ、君に出逢えて本当に良かったよ。君は俺の生活に必要不可欠だったよ」
「私もだよ」
アイブは本当に嬉しいのか、尻尾がピーンと立っている。
こんなに可愛い女の子なのに、やっぱりアイブは猫なんだと実感する。
教室に先生が入ってきて授業が始まる。
授業はユニークだった。
猫の掟や猫の習慣。
猫に関する授業ばかりだ。
「それじゃあ、これで終わりだよ」
先生が、そう言って、たった二十分で授業は終わった。
えっ、それだけ?
後は学校で何をするんだ?
「アイブちゃん。今日は女子が山担当だから裏山でキノコ狩りに行くよ」
アイブにクラスの女の子が声を掛けてきた。
メスではなく、女子って言うんだなと思いながらアイブを見ていたら、アイブは困った顔で俺を見てきた。
「いいじゃん。行ってくれば?」
「いいの?」
「うん。気を付けろよ」
「うん」
そしてアイブはクラスメイトの女子と裏山へと行った。
女子が山なら男子はなんだ?
俺は、そう思い近くの男子に視線を向ける。
「男子は、川担当だから、第二川に行くよ」
近くの男子が俺の視線に気付き、教えてくれた。
何も訊いてないのに、よく分かったな。
そして俺は川へ向かう。
男子はパンツ一枚の姿になって、川へ入る。
なんて原始的なんだ。
ほとんどの猫が口や手を使って魚を捕まえている。
俺に、そんなことはできないので見ているだけしかできなかった。
「おいっ、お前も捕れよ」
気の強そうな男子が俺に言ってきた。
「俺は猫じゃないから、魚を手では捕れないよ」
「それだと、これからお前は困ることになるぞ?」
「えっ、何それ?」
「この街は自分の欲しい物は自分で確保するんだよ」
「えっ、でも家も食べ物もあるけど?」
「今は足りるけど、なくなれば自分で手に入れるしかないんだ」
彼の顔を見ていると分かる。
凄く大変なんだってことが。
高校生の子供も大人と同じ扱いなんて、不公平ではないだろうか?
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