2、おっさんが高校生になる
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「落ち着いたかな?」
青年はニコニコしながら言った。
「俺、おっさんなのに高校生?」
「あっ、それはアイブに合わせたんだよ」
「アイブに?」
「そう。アイブは人間でいうと高校生くらいの歳だからさ」
「へぇ~、それで、あなた様はどちら様でしょうか?」
「あっ、ワタシはこの街の長。こう見えて五百歳を過ぎてるよ」
「えっ、五百歳!」
俺は驚きすぎて、まじまじと長の整ったイケメンの顔を見てしまった。
長は嫌がることなく、俺に観察をさせてくれた。
それから長が、全てを説明してくれた。
簡単に、俺が説明をしよう。
俺とアイブは死んだ。
そして、この第二の街の住民になる資格を得て、やってきた。
その住民になる資格というのが、死ぬ前に未練があるかどうかのようだ。
ほとんどの猫は未練というものがなんなのか分からず命の火が消える。
しかし俺とアイブは未練があったために、この街へやってきた。
俺に未練があったなんて信じられない。
あの生活に執着などなかった。
あの生活が楽しかったなんて思っていなかった。
未練なんて何一つとしてない。
「アイブ。君には未練があったのか?」
俺はアイブに未練があるのか知りたくなった。
もしかすると母猫に会いたいとか、思っていたりするのかもしれない。
「未練? よく分かんない」
えっ、分からないでいいのか?
俺達って本当に、この街へ来てよかったのか?
「アオイくん」
「なんですか? 長」
「君は初めての人間だから、珍しい存在なんだ。何か問題があればすぐに教えてほしい」
「はい。分かりました」
「それでは、まずは君達の新居へ案内するよ」
俺とアイブの前で長が手を振りかざすと、俺達は一瞬で豪邸の前に立っていた。
瞬間移動にも驚いたが、目の前の豪邸にも驚いた。
そして俺達は大きな豪邸の中へ足を踏み入れた。
大きすぎるリビング。
俺が一人で住むには、もったいない。
ワンルームに住んでいた俺には、少し過ごしにくいかもしれない。
「ここが、アオイくんとアイブの家だよ」
「えっ、俺とアイブ? いやいや、女の子と一緒に住むのはダメでしょう。俺は一応、おっさんなんですよ?」
「えっ、私は大丈夫だよ。アオイと住みたいって思ってたもん」
「いやいや、君は女の子なんだよ?」
「私は猫だよ」
そうだった。
アイブは猫だったんだ。
猫と一度は一緒に住みたいと思っていたが、俺の目の前にいる猫は女の子にしか見えない。
俺、大丈夫なのか?
「それなら家を半分にしよう」
そう長が言い、手を振りかざすと家がガタガタと音をたてだした。
そして俺の目の前で家が二つに分かれ、壁ができて、分かれたもう一つの家は見えなくなった。
どうなったのか確認をするために家から出ると、家がもう一つできていた。
さっきの家とは半分の大きさで、全く同じ二つの家の完成だ。
「アオイくん。この街は元いた場所の人間と同じ生活だから、働かないと食べてはいけないからね」
「俺は働くけど、アイブはまだ学生ですよね?」
「うん。アイブは学校へ通ってもらうけど、アオイくんもだよ」
「俺もですか?」
「うん。アオイくんはアイブと同じ年齢だって、最初に言ったよね?」
顔だけの話じゃなかったんだ。
俺、若返ったってことでいいんだよな?
二度目の高校生活は楽しもうかな。
人間の世界じゃなくて猫の世界で、だけどな。
「一応、必要な物は家の中に揃っているが、何かあれば言ってくれよ」
「はい」
俺は長の優しさ溢れる微笑みに感激しながら、頭を下げて返事をした。
「アイブ、君はアオイくんに頼りなさい」
「はい」
長はアイブの頭を撫でて言った。
アイブは撫でられて嬉しそうにしながら返事をしていた。
イケメンに撫でられて嬉しくない奴なんていないよな。
俺みたいな陰キャのおっさんには撫でられるのも嫌だろうな。
陰キャが移るなんて学生の頃は言われていた俺。
サラサラの長い前髪で目元を隠し、口角の上がった口は、いつもニヤニヤしていると勘違いされ、嫌われていた俺。
「アオイ」
アイブが俺の名前を呼んで、ニコニコとしている。
いつの間にか長は、いなくなっていた。
「どうした?」
「ずっと呼んでたんだよ?」
「えっ、あっ、ごめん。考え事をしていたから気付かなかったよ」
「ううん、違うよ」
アイブは首を大きく横に振り、否定した。
「アイブ?」
「アオイが私を助けてくれた日から私は、ずっとアオイの名前を呼んでたよ」
「そっか。ごめんな気付いてあげられなくて」
俺はウルウルとした目で見てくるアイブの頭を撫でようとして手を止めた。
だって、俺みたいな奴に撫でられたくはないだろうから。
「撫でてくれないの?」
アイブは不満そうに口を尖らせ俺を見ながら言った。
「あっ、いやっ」
「いつものように撫でてよ」
いつものように撫でていいのか?
いやっ、待てよ。
アイブは猫なんだ。
女の子に見えるが猫なんだよ。
「ごめん、ごめん」
俺はアイブの頭を撫でた。
アイブは嬉しそうに目を細め、笑っていた。
「可愛いな、アイブは」
「もう! 照れること言わないで」
そうアイブは言って俺から離れた。
いつもと同じ感覚に嬉しくなる。
俺がアイブを撫でた後に可愛いと言うと、アイブは離れていく。
あの行動の意味がやっと分かった。
アイブは照れていたんだ。
言葉って大切なんだなと今になって、やっと分かった。
アイブに教えられたよ。
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