1、ようこそ第二の街へ
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
『恥ずかしがりや』
『人見知り』
『フリーター』
『変人』
『ほぼ一人』
この『はひふへほの残念5H』を持つ俺は、幸せでもなく不幸せでもなく、なんとなく生きていた。
生きていけるのなら不満もなかった。
誰かの心にも残らず、命が消える時は一人で、なんの未練もなく消えるのだと思っていた。
恥ずかしがりやと人見知りが発動するので、コンビニなどで食べ物を買うことができず、いつもの日課である無人販売のお店に入り食べ物を買う。
収入は在宅ワークのシール貼り。
長年やっているから、その日暮らしのお金くらいは稼げる。
俗に言うフリーターだ。
買い物帰りに公園へ寄り、猫達に猫缶をあげて、戯れてから帰る。
それを見ている近所の人は俺を変人と呼ぶ。
家に着き、ご飯を食べる。
そして今日は特別に一言だけ呟く。
「誕生日、おめでとう」
俺は今日、三十歳を迎えた。
祝ってくれる家族も友達もいない。
一人で当たり前のように、誕生日を祝う。
「そういえば、あの子にもおめでとうを言わなくてはいけないな」
俺は、ご飯を食べた後そう言って家を出た。
手には高級な猫缶を持って、公園へ向かう。
公園の入り口付近に、あの子がいた。
真っ白で青い瞳のあの子と出逢ったのは一年前。
あの子の誕生日なんて知らないから、出逢った日を誕生日にした。
そして出逢えたことに感謝をするために今日、俺はやってきたんだ。
俺があの子に気付くと、あの子も俺に気付いた。
そして、俺の元へ駆け寄ってくる。
公園の前は、車の交通量が多いので気を付けなければいけないのに、あの子はいきなり飛び出した。
あの子に向かってトラックが近付く。
俺の体は、考える間を与えず動く。
あの子を助けるために。
俺は、あの子を抱いてトラックにひかれた。
あの子を抱き締めたまま、宙へ飛んだ。
痛みを感じることもなく、スローモーションのように俺は宙を飛んでいる。
あの子を見ると、震えて怯えていた。
俺だって怖い。
しかし一人で消えていくと思っていたのに、俺はあの子と一緒に消えるのか?
あの子だけでも助かる方法はないのだろうか?
たった一瞬のはずなのに、俺には考える時間があった。
でも、時間はスローモーションのように少しずつ進んでいく。
このまま公園へ放り投げる方法があるが、俺の体はトラックとの正面衝突の衝撃のせいで動かない。
俺が体の全体で包み込むこともできるが、正面衝突で飛ばされた衝撃を俺の体で受け止めることなんてできる訳がない。
地面は、すぐそこまできている。
俺は何の答えも見つけられないまま恐怖で目を閉じる。
しかし、いつまで経っても衝撃はこない。
宙に浮いている感覚しかない。
不思議に思って目を開けた。
俺は、その光景に絶句した。
だって、寝そべっている俺の腕の中に女の子がいたからだ。
白い長い髪の毛が風に揺れている。
頭の上には猫の耳がついていて、両耳とも垂れ耳だった。
長い白い尻尾が俺の顔をくすぐる。
俺は我慢ができなくなり、笑ってしまった。
「やっ、やめてくれよ」
笑いすぎて腹が痛くなった俺は、助けを求めるように叫んだ。
「えっ」
俺の声に驚いた目の前の女の子は、目を開けた。
青い瞳に懐かしさを感じた。
「やっと、やめてくれた」
俺は目尻にたまった涙を拭った。
笑いすぎて死ぬかと思った。
死ぬ?
俺、死んだのでは?
ん?
ここは何処なんだよ?
「アオイ、死んでいないの?」
「なんで俺の名前を知ってんだよ?」
「アオイ。私の大好きなアオイ」
彼女は、そう言って俺に抱き付いてきた。
誰だよ。
「えっと、君は?」
「アイブだよ。瞳が青だからって名前を付けてくれたでしょう?」
「アイブ? でもアイブは白猫で、君は女の子なんだけど?」
「私は白猫だよ。ほらっ、尻尾もあるし垂れてる耳もあるよ」
「見た目は猫耳をつけた女の子だよ」
「それならアオイも男の子だよ?」
自称アイブに言われ、俺は驚く。
三十歳で男の子と言われるのは嬉しいが、今まで年相応と思っていた俺からすれば、信じられない。
信じられないといえば、この俺がいる場所も信じられない。
大きな猫じゃらしの集合体の上に寝そべっている俺と自称アイブ。
こんなに大きなサイズの猫じゃらしを見たことはない。
猫じゃらしが大木ほどの大きさだ。
猫じゃらしの上は、フワフワと宙に浮いている感覚に似ている。
だからトラックにひかれて飛ばされている時に、ここに来たのに気付かなかったんだと思う。
「アオイくん。ようこそ第二の街へ」
いつの間にか俺の横に誰か立っていて、言った。
「えっ、何? 誰? 第二の街?」
「ははは。そんなに混乱しなくても大丈夫さ」
俺の横で笑うのは、黒い猫耳がついた若い青年。
黒い尻尾の先端は曲がっていた。
「アイブ。君も、ようこそ第二の街へ」
アイブ。
本当にアイブなんだ。
可愛い女の子で驚いたよ。
おじさんの俺とは歳が離れすぎている。
「まずは、お互いに自分の顔を確認してもらおうか」
そして青年が手を振りかざすと俺とアイブの前に鏡が現れた。
そこで俺達は起き上がり、自分の姿に驚いた。
「わっ、若い」
「えっ、人間?」
俺とアイブは思ったことを口にした。
それほど驚いたんだ。
だって俺は、高校生くらいの歳に若返っていたんだ。
見た目は高校生なのに、中身はおっさんの俺。
喜んでいいのだろうか?
だがしかし、俺には猫耳も、尻尾もない。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。




