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隠居魔王のポートフォリオ  作者: 悠々


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8/9

第8話:焼け野原で買い物を

 翌日。

 王都証券取引所は、お通夜のような静けさに包まれていた。

 昨日のパニックは去ったが、残されたのは絶望だけだ。

 『ミスリル鉱業』は倒産。『ブレイブ・キャピタル』は巨額の損失を出し、取り付け騒ぎが起きているという。

 株価は軒並み大暴落。紙屑同然になった権利証が、床に散らばっている。


「……ひどい有様ですね」


 隣を歩くリーゼロッテが、青ざめた顔で呟く。

 彼女の実家の資産も目減りしたらしいが、私の指示で一部を現金化していたため、致命傷は免れたようだ。


「ああ。だが、ここからが本番だ」


 私は懐から、ずっしりと重い革袋を取り出した。

 昨日、売り抜けて確保した現金キャッシュ

 市場から資金が蒸発した今、現金を持つ者は王様だ。


「ベルナール様、まさか……」

「買うぞ。ショッピングの時間だ」


 私は掲示板を見上げた。

 赤字(下落)だらけのボードの中に、私が狙っていた銘柄がある。

 『ドワーフ精工』。

 ミスリル鉱山の閉鎖で、主要な取引先を失い、株価は十分の一以下になっている。

 だが、彼らの持つ技術力は本物だ。ミスリルがなくても、鉄や銅の加工で十分にやっていける。ただ、今の市場は恐怖に支配され、冷静な判断ができなくなっているだけだ。


「あの株を買い占める」

「えっ!? でも、倒産するかもしれませんよ?」

「しない。私が資金を入れるからな」


 私は窓口に向かった。

 職員たちは死んだ魚のような目をしていたが、私が現金の入った袋をカウンターに置くと、ギョッとして顔を上げた。


「『ドワーフ精工』、あるだけ全部だ。あと、『王立運送』も買い戻しておけ。竜が去れば物流は復活する」


 私は次々と注文を出した。

 底値で拾う。

 それは、死に体の企業に輸血をするようなものだ。

 私の買い注文が入ることで、暴落していた株価がピクリと止まる。

 それを見た他の投資家たちが、「お? 底打ちか?」「誰かが買ってるぞ」とざわめき始める。


 その時、入り口からやつれた顔の男が入ってきた。

 勇者アレックスだ。

 昨日の輝きは見る影もない。髪は乱れ、目の下にはクマができている。


「……貴様」


 彼は私を見つけ、よろよろと近づいてきた。


「貴様、知っていたのか? 竜が出ることを」

「さあな。ただの勘だよ」


 私は肩をすくめた。

 アレックスは悔しそうに唇を噛んだ。


「僕のファンドは……終わりだ。借金だけが残った。また一から、冒険者としてダンジョンに潜るしかない」

「それも悪くない人生だ。汗水垂らして働く。それが一番尊いことだよ」


 私は皮肉ではなく、本心で言った。

 魔王として君臨していた頃より、今の隠居生活の方が、よほど生きている実感があるように。


「……覚えてろ。次は負けん」


 アレックスは捨て台詞を残し、去っていった。

 その背中は、かつて私を倒した時よりも、少しだけ大きく見えた気がした。


「さて」


 私はリーゼロッテを振り返った。

 彼女は呆然としながらも、私の顔をじっと見つめていた。


「ベルナール様。あなた、本当に何者なんですか?」

「ただの隠居老人だよ。……ちょっと運がいいだけのな」


 私はニカっと笑った。

 市場は少しずつ活気を取り戻し始めている。

 私の資産は、暴落前よりもさらに増えていた。

 巨万の富。

 さて、この金で何をしようか。

 とりあえず、今夜は高級なステーキでも食べるとするか。

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