表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠居魔王のポートフォリオ  作者: 悠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第7話:売り抜けろ!

「売り注文、出します! ……あれ?」


 リーゼロッテが通信魔道具(水晶玉のような端末)を叩いている。

 画面が明滅し、ノイズが走っている。


『エラー:通信が混雑しています。しばらく経ってからおかけ直しください』


「繋がりません! なんで!?」

「魔力干渉だ……!」


 私は窓の外を見た。

 西の空が、不気味な紫色に染まっている。

 厄災の竜が放つ強大な魔力が、大気中のマナを乱し、通信魔法に障害を起こしているのだ。

 まだ誰も竜の正体には気づいていないが、本能的に不安を感じた投資家たちが、一斉にアクセスしているのかもしれない。


「まずいな。このままでは売り抜ける前に暴落が始まる」


 市場がパニックになれば、売りたくても買い手がつかなくなる。

 そうなれば、私の資産は紙屑(電子データの藻屑)だ。

 私はアパートを飛び出した。


「ベルナール様!?」

「直接、取引所へ行く! 物理的に注文を通すんだ!」


 私は通りを疾走した。

 身体強化の魔法は使えないが、魔王時代の基礎体力は伊達ではない。

 息を切らせて取引所に到着すると、そこはすでに阿鼻叫喚の地獄絵図になりかけていた。


「おい! 注文が通らねえぞ!」

「画面が映らない! どうなってるんだ!」

「西の鉱山と連絡が取れないらしいぞ!」


 職員たちが怒号を浴びながら、手動で注文票を処理しようとしている。しかし、殺到する人波に押しつぶされそうだ。

 私は窓口へ突撃しようとしたが、屈強な冒険者崩れの投資家たちに弾き返された。


「どけ! 俺が先だ!」

「ふざけんな! 俺の全財産がかかってるんだ!」


 ダメだ。近づけない。

 このままでは間に合わない。

 その時、私の視界の端に、一人の職員が映った。

 彼は人混みから離れた裏口で、壊れた通信機をいじっていた。


 ――**『ちょっと運がいい (A Little Bit Lucky)』**。


 私の勘が告げる。「あそこだ」。

 私は迷わず、その職員の元へ走った。


「おい、君! その通信機、生きているか?」

「え? ああ、いや、さっきから調子が悪くて……あ、繋がった?」


 職員が通信機を叩いた瞬間、ノイズが消え、クリアな光が灯った。

 奇跡的な一瞬の回線復旧。

 私は職員の胸ぐらを掴む勢いで叫んだ。


「売りだ! 全保有株、成行なりゆきで売却! 今すぐに!」

「は、はい! 口座番号は!?」


 私が番号を叫び、職員がキーを叩く。

 その指が『確定』ボタンを押した、コンマ一秒後。


 ドォォォォォン!!


 地響きと共に、取引所の巨大な魔法スクリーンが真っ赤に染まった。


『緊急速報:西の山脈にて「厄災の竜」出現! ミスリル鉱山、壊滅!』


 悲鳴が上がった。

 株価ボードの数字が、滝のように落下していく。

 ストップ安。取引停止。

 市場は完全に凍りついた。


「……はぁ、はぁ」


 私は膝に手をつき、荒い息を整えた。

 職員が呆然とした顔で私を見た。


「お、お客さん……今の注文、ギリギリ通りましたよ。暴落の直前、最高値で約定してます」


 私はニヤリと笑った。

 全身から力が抜けていく。


「そうか。……運が良かったな」


 周囲では、頭を抱えて泣き崩れる者、怒り狂う者、気絶する者が溢れている。

 その中で、私はただ一人、無傷で生還した。

 だが、戦いはこれで終わりではない。

 破壊のあとには、創造があるからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ