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超能力発覚①

【前回のあらすじ】

クジラ星人による地球侵略が阻止された。

 柏竜治はなぜ家に帰って来なくなったのか。全ては三年前に遡る。


 三年前のまだ天胡が能力者であると判明していない頃。青樺は高校一年生、真弓は中学二年生、天胡は中学一年生であった。竜治は雀天堂(じゃんてんどう)大学附属病院の内科医として、朝は早くから、夜は遅くまで勤めていた。このときは週に三日ほど家に帰ってはいたが、やはり娘と過ごす時間は満足に取れず、炊事洗濯も娘に任せるようになったため、やがて彼は家庭内で煙たがられるようになった。


 ちなみに母である柏美聖(みさと)は、天胡を産んだ後、川で洗濯に行って死んだ。



 ある春の日のこと。竜治は珍しく夜早くに帰宅した。


 竜治「ただいま」


 青樺「おい、柏竜治っ!」


 竜治「なぜに呼び捨て?」


 青樺「急いで来て。天胡が、天胡の様子がちょっとおかしいんだ」


 天胡「それ元からじゃなくて?」


 青樺「違う違う。天胡のやつ、真弓の言うことに聞く耳を持たないんだ」


 竜治「そりゃあただ事じゃねえな」


 竜治は急いで天胡に駆け寄る。


 竜治「天胡! 大丈夫か?」


 天胡「大丈夫じゃなさそうな人間に、大丈夫か? なんて言うなよ」


 竜治「……すっ、すまん。それより何があったんだ?」


 真弓「天胡、さっきから不自然に歩いて、おまけに動悸が止まらないって言うんだ」


 竜治「そうか……。ストレスとかかな。最近、腹が立ったことはない?」


 天胡「お前の存在」


 竜治「なるほど。他には何かある?」


 天胡「お前の態度」


 竜治「他には?」


 天胡「何だろォ……、やっぱりお前の存在かな」


 竜治「ねえ俺泣いてもいいかな?」


 真弓「みっともないからやめて。天胡も父さんの悪口は言わないの」


 天胡は不貞腐れた表情をした。


 竜治「でっ、改めて聞くけど、何かないの? 今までできていたことができなくなったとか」


 天胡「あー、滑舌が悪くなったって感じるね」


 竜治「試しに早口言葉を言ってみろ」


 天胡「なんだろう。

古池や かわずピョコピョコ みピゅコピョコ

やっぱり変だな」


 竜治「古池がいらないんだよ」


 天胡「古池がなかったら蛙が干からびるでしょ。いるよ」


 竜治「じゃあ他のやつ言ってよ」


 天胡「隣のカキは、よくキャク食うカキどぅあ」


 竜治「最後で噛んだか。これはたしかに不調だな」


 青樺「そもそも、キャク食うカキって何?」


 天胡「この前、私と姉さん二人で居酒屋に行ったら全員カキにあたったからさ、キャクの方がカキに弱いって信じているんだ」


 青樺「なるほど。納得したわ。というか、ひょっとしてカキにあたったことが不調の原因なんじゃないか?」


 真弓「多分だけど他に原因があるよ。あたったの二か月前だし。一回、医者に診てもらった方がいいんじゃない?」


 竜治「俺もそう思う。明日休みだから連れて行ってやるよ」


 青樺「行くなら小さい病院じゃなくて中ぐらいの病院の方がいいと思うよ」


 真弓「中ぐらいってどのくらいよ?」


 青樺「大きいものよりちょっと小さいぐらい」


 真弓「いや言葉の意味じゃなくて」


 竜治「病院に関しては俺に任せろ。ちょうどいい中ぐらいの病院を知っているからな」


 ◇


 翌日の朝九時。竜治と天胡は歩いて病院を目指した。


 天胡「あのさー、車で行かないの? 私、病人かもしれないんだよ。補欠病人なんだよ」


 竜治「しょうがないだろ。今日が楽しみすぎて、俺は昨日眠れなかったんだから」


 天胡「日本中でお前だけだぞ。遊園地気分で病院に行くの。加えて、ほぼ毎日病院勤務なのに、よく休日も病院に行く気になれるね」


 竜治「違う病院の空気を浴びたいときだってあるだろ」


 天胡「病院に空気感の違いなんてあるの?」


 竜治「もちろんある。俺の勤務先は大学病院だから、結構規模も大きいし、建物全体が清潔に保たれている。一方でな」


 と話している間に二人は目的の病院、能来(のうらい)医院に到着した。まず目につくのは、色褪せた看板と鉄格子の門。囲いの中に入ると、ろくに刈られていない雑草や竹が風に揺らされて、むさ苦しい音を立てる。さらに視線の先には、ところによりペンキが剥がれ落ちた建物が聳え立っている。


 竜治「どうだ? 空気感違うだろ?」


 天胡「違いすぎるだろ。そのうち心霊スポットにされてそう」


 カラスが一羽、能来医院から飛び立った。すると、老け顔に丸眼鏡をかけた男が、不敵な笑みを浮かべ、藪の中から現れた。


 天胡「ねえ、父さん。あの人が医者? 本当に信頼できるの?」


 そう尋ねたが、竜治は正面を向いたまま体が固まっていた。


 能来「あなたが診察の予約をした柏さんですね?」


 竜治「そっ、そうです。よろしく……お願いします」


 能来「ハハハッ、そう狼狽えるもんじゃないですよ。どうぞ、お入りください」


 ◇


 竜治と天胡は能来に案内され、建物内の薄暗い廊下を歩く。

 天胡は能来に聞こえないほど小さな声で、

 天胡「おい、聞いてるのか?」


 竜治「ん? あぁ、ごめんごめん。先生が信頼できるかだっけ?」


 天胡「そう。本当にあの先生に診てもらったら治るの?」


 竜治「治らない。先生に診てもらって、薬を飲んで、場合によっては手術をし、経過観察を行った上でようやく治るんだ」


 天胡「それはそうだけど信頼できるかの答えにはなってねえ」


 竜治「信頼は…………、できるよ」


 天胡「何その自信が満たされなかった間は?」


 竜治「きっと大丈夫さ。信じよう。凄腕医師、能来仙栖(のうらいせんす)を」


 天胡「名前が微塵も信頼できねえ……」


 天胡に疑念が募る。そこに能来は二人の背筋を刺すように訊いてきた。


 能来「何か心配事でもありますか?」


 竜治「いっ、いえ。何も心配しておりません。なんせ、この能来医院の悪い噂は、聞いたことありませんから」


 能来「良い噂も聞かないんだがな。ハッハッハッハッ……」


 能来は診察室へと入った。


 ◇


 二十分後。

 天胡が目を開けると、そこは物音ひとつ立たない小汚い部屋だった。横たわったまま上手く身動きが取れず、寝返りを打つことはおろか、自由に息を吸うことも吐くこともできなかった。他に少ない視界で確認できることは、竜治と引き剥がされたということ。密室にただ一人。そして、起き上がれぬように厳しく閉じ込められた。

 スピーカー越しにがさつな声が響いた。声の主は間違いなく能来であった。

 天胡の周りから、ギュ―――――ッ、という音がうるさいほど鳴った。それによって、ようやく天胡は自由に息を吸うことができた。


 ◇


 さらに五分後。

 能来によって密室から出された天胡は、別の部屋に案内されると、頭を板に無理やり押さえつけられた。


 天胡「先生……、次は何をするんですか?」


 能来「うんと強力な光線を照射する」


 天胡「はっ⁉」


 その光線は、天胡に向けて放たれた。


 ◇


 診察室に戻ると、能来はパソコンのモニターを睨んでいた。


 能来「えーっと、まずMRIの結果なんですけど、指の神経と繋がっている脳の部位に異常な活性化が見られました。そして指なんですけど、人差し指が全く写し出されていません。これは異常です。次にレントゲンを撮ったんですが、これは異常が見つけられませんでした。最後に聴診器を当てさせてください」


 能来は聴診器を天胡の胸に当てる。


 天胡「聴診器って最後に当てることもあるんですね」


 能来「いや、こんなやり方をするのは私ぐらいなもんですよ」


 竜治「俺もこんなやり方はしない」


 天胡「そうなんだぁ~」


 聴診器を当て終わると、能来は悩んだ。


 能来「うーむ。やはり神経に異常が偏っているようだ。柏天胡さん。あなた、何か隠していることがありますね?」


 天胡「うぅ……バレてた?」


 能来「ここまで客観的なデータが揃っているんだ。言い逃れはできんぞ」


 竜治「実は俺も天胡は怪しいと思っていたんだ」


 天胡「絶対思ってないでしょっ! 後出しにもほどがある」


 竜治「そんなわけないだろ。天胡の考えなんてお見通しだ。自分が誰の減数分裂で生まれたのか忘れたか?」


 天胡「えぇ……、そこまで言われちゃ何も言い返せない。仕方ない。言うしかないのか……」


 能来「何か言えない理由でも?」


 天胡「あんまり姉二人にバレたくなかったから、特にまゆ姉。でも、父さんと先生が黙ってくれるなら話そうと思います」


 能来「安心しなさい。秘密は守ります」


 竜治「俺も、自分の尿と同じぐらい漏らさない自信あるから大丈夫だぞ」


 天胡「心配なんだが……。まぁいいや、率直に言うと、私……ビームが撃てるの」


 能来「なるほど。そんな能力を君が……。もっと詳しく教えてくれるか?」


 天胡「えっ⁉ 信じられるの? えーと、これに気付いたのは一週間前のことで、射撃のイメージトレーニングをしたくて公園で遊んでいたんだよ」


 竜治「お前は何者になりたいんだ?」


 天胡「そのとき、両手を組んで人差し指を突き出して、手を鉄砲に見立てていたんだけど、遠くの木に照準を合わせたとき、弱かったとはいえうっかり光線が出てしまったんだ」


 竜治「うっかりなんだ……」


 天胡「このとき知ったんだよ。私は超能力者なんだ、って」


 竜治「最近、急に能力に目覚める人がいる、という噂を聞いたことがある。天胡もひょっとすると、そういう類の人間なのかもしれない」


 能来「可能性は高いだろうな。おそらく、動悸が止まらないのも、能力を使ったことによるエネルギーの過剰消費が原因だと考えられる」


 天胡「ってことは、もう能力は使うべきではないということですか?」


 能来「そうなるな。使うほど苦しくなる可能性が高い」


 天胡「そんなぁ……。せっかくの超能力が……。私だけの能力が、もう使えない……」


 天胡は悲しさから、虚ろな目で天井を仰いだ。


 竜治「あのなぁ、世の中には超能力が欲しくても持っていない人間が大勢いるんだ。そんな人たちの気持ち考えたことあるのか?」


 能来「君こそ何を言ってるんだ。世の中には超能力を手放そうと思っても手放せない人間が大勢いるんだ。そんな人たちの気持ち考えたことあるのか?」


 竜治「……すみません。視野が狭かったです」


 能来「とにかくだ、柏天胡さんはとりあえず経過観察を行うべきかと思う。くれぐれも能力で社会規範を乱すようなことはしないでくれ」


 竜治「はい。わかりました。天胡、帰るぞ」


 と呼びかけるも、天胡は一切反応を示さなかった。


 竜治「よっぽど能力を使えないことがショックなのかよ。多分、今の先生の話も聞いていないですよ」


 能来「それならそれで構わん」


 竜治「じゃあ帰りますね。診察、ありがとうございました」


 竜治は、天胡をおぶって能来医院をあとにした。



 帰り道、竜治のスマホには、能来からのメールが一通届いた……。

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