柏姉妹は奇想天外⑤
【前回のあらすじ】
天胡は超能力者であった。
クジ「何で今になって……能力を見せつけた?」
天胡「単純に話が長い。あと未来人のあなたもさ、早く戦いなよ。なんかもう、私が闘った方が早いな、って思ったわ」
クジ「キサマーッ。俺と未来人の因縁の対決に泥を塗る気か?」
真弓「お前初対面だろっ! 未来人と」
そして天胡は空に向かってもう一発光線を撃った。光の先には一羽のカラスがおり、空中で命中。羽は丸焦げになり、クジラ星人の頭上に降る頃には見事な焼き鳥になっていた。
天胡「このあとお前はこうなるんだぞ。かつてお前だったモノにされたいか?」
クジ「い……いえ、されたくありません」
天胡「じゃあお前らの地球に帰れ。二度とこの地球に来るな」
クジ「あっ、はい……」
さっきのが嘘みたいなほどクジラ星人から威勢がなくなった。天胡の指の圧に負け、彼はノコノコとどこかへ行ってしまった。
未来「危機は去ったような気がする。あの様子を見るに、二度と天胡さんの前に姿を現すことはないだろうな」
真弓「あぁー。ずいぶんと疲れちゃった。変な奴が出るもんだね」
天胡「まぁそういう時期なんでしょ。『春はノケモノ』って言うしね」
真弓「アケボノだよ」
未来「ノケモノじゃないのか。僕たちの未来ではそっちで伝承されていたから知らなかった」
そう言う未来人を真弓と天胡は見つめる。
真弓「……すみません。結局、あなたは何者なんですか?」
未来「あぁ、そうだな。語れる範囲で伝えよう。君たちにも深く関わることだ。まず能力持ちの君は、柏天胡さんだな。そして隣の君は、姉の…………青樺さん?」
真弓「真弓です」
未来「それは失礼した。ではまず能力者について少し話をしよう。君のような能力を持っている人間は、この世界で極僅かに存在する。そのような者は、『アガニマスター』と呼ばれている。これは、能力者はその能力ゆえに苦悩を抱えていることから、苦悩を意味する単語agonyと、それを宿しているmasterを合わせてアガニマスターである。未来世界において、この呼称は当たり前のように浸透していない」
真弓「させとけよ」
未来「そしてこの世界には、アガニマスターを秘密裏に調査する研究機関『アガニマスター・イノベーションセンター』が存在する。そこの所長を務めているのが、柏竜治という男だ。知っているだろ?」
真弓「えっ⁉ 父さんだよね?」
天胡「わからないよ。同姓同名の別人説あるかもしれないよ」
未来「ねーよっ! 君たちの父親だわ。おそらくだが、柏竜治はしばらく家に帰っていないだろ?」
真弓「ちょっと出かけてくる、って行ったっきり帰ってきていないです」
未来「ちょっと、って言ってどのくらい経った?」
真弓「一年ぐらいかな?」
天胡「そうだね」
未来「あいつ一年も帰っていないの⁉ それはちょっと、親としてどうなんだ……。まぁいい。これから少し未来世界の話をしよう。実を言うと、本来であれば真弓さんは今日クジラ星人に殺されるところだったんだ」
真弓「本当ですかっ⁉ ちょっと信じられない……」
未来「残念ながら本当だ。そして天胡さん、あなたはクジラ星人に連れ去られる予定だったんだ」
天胡「でしょうね」
未来「あっ、信じてくれるんだ」
天胡「私、昔から誘拐されやすい体質だったし」
未来「どんな体質だよ。まぁいいや。最悪なことに、君たちはここで歴史の闇に消えている。その先が僕たちのいる未来世界だ。僕はそんな未来を変えてみたくて過去にやって来た」
真弓「なんか嘘は言っていないように思えます」
天胡「私の姉もそう言っています」
真弓「あんたも感想を言いなさいよ」
未来「でも信じてくれるだけで嬉しいよ」
と言った瞬間、未来人の指先が光りだした。
未来「まずいな。あと150字しか過去にいられない」
天胡「もっと計画的に話せばよかったのに」
未来「そうかもな。とりあえず、タイムパラドックス対策でつぶさには言えないが、二つだけ言いたい。一つは柏竜治だ。君たちはそう遠くないうちに柏竜治と再会する」
真弓「父さんと⁉ マジで?」
未来「そして二つ目。真弓さん、天胡さん。青樺さんと一緒に、幸せな生活を送ってください。盛大に願っています。それではさよ――」
彼は消えてしまった。
クジラ星人の陰謀は未来人(と天胡)のおかげで阻止され、起こるはずだった悪い未来も回避した。
柏姉妹は、今までと変わらない平凡な日常を過ごせるのであろうか? 柏竜治と再会するのであろうか?
この瞬間から、未来人が願う新たな未来への道が舗装された。
真弓「私って老け顔?」
天胡「まーだ引きずってんの? 別に老けてないよ」
真弓「……だよね。おばさんなんて言われたことなかったからさ……」
二人は謎の公園をあとにすると、パン屋でパンを食べた。そしてスーパーで食材を買い込むと家に帰った。
◇
夜八時。真弓は豚の生姜焼きを作り、天胡と一緒に食べながら俳句番組を見ていると、一デート終えた青樺が重そうに紙袋を抱えて帰ってきた。
青樺「たっだいまー♪」
真弓「よっぽどデートが楽しかったようね」
青樺「そりゃあ楽しかったよ。服だっていっぱい買っちゃったし」
天胡「楽しむのはいいけど、今日の食事当番は青樺姉なんだから忘れないでほしいものたると」
青樺「ごめんごめん。許してちょうきゅうめいの長助。それより天胡にこれあげる」
天胡「何これ?」
青樺「おやつカルパス百本だ」
天胡「うわっ、嬉しいィ! ありがとォ」
真弓「喜びすぎじゃないかな」
青樺「そして真弓には、ヨ◯バシカメラのポイントを500ポイントあげる」
真弓「うわっ、嬉しいィ! ありがとう」
青樺「そしてわたしにはこれをあげよう」
青樺はビニール袋の中から十キロのダンベルを取り出した。
青樺「前まで使っていたダンベルが腐っちゃってさ」
天胡「ダンベルって腐るんだぁ」
青樺「これでわたしも腐らずに腕力を鍛えられる」
真弓「よくトレーニング続けられるわね」
青樺「いつか気持ち良く人を殴りたいからな」
天胡「性根が腐ってるよ」
青樺「腐ってねえよっ! 華々しいわっ! これを見ろ」
と言って青樺は別の紙袋から、花柄で紺色のワンピースを取り出して見せつけた。
青樺「どうだ。彼氏候補と買ったお気に入りのワンピースだ。羨ましいだろ」
真弓「ずいぶん綺麗ね」
天胡「すごく似合うと思う」
真弓「だけど結構いい値段しそう」
青樺「フッフッフッ、そう思うだろう、柏真弓ならな」
真弓「だから思ってるって」
青樺「なんとこのワンピース、4000円ピッタリで買えたんだ」
天胡「安い……。たしかに想像より安い」
真弓「家計にも優しい」
青樺「そうだろうそうだろう。二人はいくらだと思っていたんだ?」
真弓「えー、どのくらいだろう」
天胡「4001円かな」
青樺「値段近すぎだろっ! 絶対思ってねえだろっ!」
真弓「逆に姉さんは、買う前いくらだと思っていたの?」
青樺「4010円」
真弓「ほぼ変わんねえよっ!」




