柏竜治の秘密②
真弓「というか、姉さんは殴るつもりないと思うよ。私と天胡と彼氏さん以外に本心を見せたくないだけだからさ、きっと」
天胡「思った。青樺姉が本当に父さんを殴りたいと思ったら、もう既にまゆ姉の許可を貰おうとしてるから」
竜治「俺に許可を取れよっ!」
青樺「じゃあ殴っていいの?」
竜治「ダメ」
青樺「チッ、なんだよ。がっかりさせやがって」
竜治「そんなに不満が溜まってるの? いや、家をずっと留守にしていたことが理由なら、今殴ってもいいよ」
青樺「違えよっ! わたしは、ふざけた手紙に怒ってるの!」
竜治「そこなの⁉ 悪かったって」
真弓「実際、あの手紙なんだったの?」
竜治「えっと、先日の手紙は、書くのが面倒くさかったの。五月のSLチケットを入れた手紙は、久しぶりに娘宛てのメッセージを書くし、少し朗らかな雰囲気を持たせたかったの」
青樺「真面目な文でよかっただろ」
竜治「頑張ったんだぞ。随分とノリの悪い娘だな」
天胡「世代の違う人間のノリほど付き合いづらいものはないよ」
真弓「わかるー。すごいわかる」
竜治「酷い言い方だな。俺だって若者のトレンドを知ろうと比較的若い職員を雇ったんだぞ」
天胡「若い人がいるだけでトレンドに追いつけるのかね」
青樺「わたしだってトレンドに追いつけないのに」
竜治「今日、その若い職員が来ているぞ」
青樺「なら今すぐ呼んでくれ」
竜治「どうぞ入って来て」
真弓「何この料理番組みたいな段取りの良さは」
三姉妹の背後、扉を開けて現れたのは、波戸野リアの元部下、チャルプス・ヴァルプルギスであった。
チャ「どっ、どうも……」
青樺「お前は、NGワードゲームを真っ先に降りた女」
真弓「そんなことしてたの?」
天胡「楽しそう」
青樺「楽しくねえよ。死にかけたんだぞ」
チャ「私がリア様たちと一緒に捕まった後、竜治さんが会計業務担当として雇ってくれたんです」
青樺「ちゃんとした社会復帰の場があってよかったな」
天胡「雇う側も低賃金で問題なさそうだしな」
竜治「それもあるな」
チャ「やりがい搾取されて嬉しいです☆」
真弓「それでいいのかよ……」
竜治「互いに受け入れてるんだからいいだろ。それにチャルプスさんは、簿記ができるってことで本当に助かってる。今まで経理をしていたのは能来先生なんだが」
真弓「先生、経理やってんのっ⁉」
竜治「あぁ、そうだぞ。ただ能来先生は還暦を過ぎている」
天胡「もう引退したの?」
竜治「してない。育児休暇を取ってるだけ」
天胡「能来先生がっ⁉」
竜治「そうだ。今や孫の育児のために休職する時代だぞ」
真弓「これは常識よ」
天胡「そうだったんだ……。ごめんなさい」
青樺「別に休暇取ってなかったとしても、先生に経理やらせてる時点で慢性的な人手不足だったんだろ」
天胡「たしかに」
竜治「あまりに人が多いと、この組織の情報が漏れやすくなるだろ」
天胡「社員研修を強化しなよ」
竜治「普通の企業みたいなこと言うなっ!」
青樺「普通の企業じゃねえのかよっ!」
竜治「普通じゃねえだろっ!」
真弓「普通じゃないよね……」
竜治「そういう意味でも若い女性を入れることで職場の雰囲気も変わるんじゃないかと思う」
真弓「いいんじゃないかな」
竜治「あろがとう。これからは能力者、あるいは能力者と関係のあった人を登用したいと考えている。それこそが能力者の謎解明につながると考えているから」
青樺「じゃあわたしも、親父のコネでここに就職するか」
竜治「それはやめておけ」
青樺「何でだよっ!」
竜治「だって、娘たちには……幸せになってほしいんだ。これ以上、能力者のいざこざに、娘を巻き込みたくないんだ」
真弓「……まぁ、親の立場だったらそう言うよね」
竜治「もちろんだ。せめてここのアルバイトまでにしてくれ」
真弓「それはいいのかよ」
天胡「社員にならなきゃ良さそうだね」
竜治「みんなが幸せになれるなら何だっていい。幸せにしてあげることこそ、俺ができる孝行なんだ」
青樺「別にそんな思い詰める必要なんかねえよ。わたしは今が一番楽しいもん」
竜治「青樺……本当か?」
青樺「本当だよ」
真弓「私も姉さんと同じ」
天胡「私も。家と学校生活、両方充実してるよ」
竜治「みんな……、そうなのか。俺がいない間に仲良くなったな。これじゃあ俺が帰りづらいじゃないか」
青樺「だから、帰っていい、って言っただろっ!」
竜治「ごめんなさい。でも、俺は嬉しいよ。娘の成長ぶりに」
竜治は再び泣き出した。
竜治「そういえば天胡にプレゼント用意したんだった」
青樺「わたしにはないの?」
竜治「すまないがない。でも天胡のプレゼントは、家族みんなが喜んでくれると思うんだ」
そう言うと、チャルプスが小さい箱を持ってきた。
真弓「チャルプスさん、雑用係なのね」
竜治「えー、天胡にはな、この首飾りをあげよう」
と言って竜治は、ミント色の鉱石がついた首飾りを天胡の首にかけた。
天胡「何これ?」
竜治「首飾り」
天胡「だから何のための首飾り?」
竜治「能力者がこれを着けている間、そいつの能力を消すことができるんだ」
青樺「超有能アイテムじゃん」
竜治「能力者の研究を繰り返した末に開発したアイテムだ。もちろん効果も実証済み」
天胡「別にいらない」
竜治「何でだ?」
天胡「今さら能力を消したところで、日常は変わらないもん。私、能力を持っていることによる苦悩とか感じたことないし。姉二人も私のことをただの人だと思ってくれているし」
竜治「でも役に立たないわけじゃないだろ。この首飾りをしていたおかげで、人をうっかり焼き殺すことがなくなるんだぞ」
天胡「しないよっ! 今までもしたことないわっ!」
竜治「他にもさー、カンチョーをするときも、うっかり光線を撃つことはなくなるんだぞ」
天胡「うわぁ……。それはありがたい」
青樺「またリアみたいな奴が襲って来るかもわからないんだ。厄除けも兼ねて貰っておきな?」
天胡「これ、御守り代わりなの? まぁ、それでもいいか」
竜治「よかった。ちゃんと受け取ってくれて安心したよ」
真弓「それで、家には帰って来るの?」
竜治「うん。帰りたい。娘の成長をまだ全て感じ切れていないんだ。親がいないのに立派になったもんだな」
柏姉妹は親の愛情をまともに受けずに育ってきた。それでも、社会の歯車としてハメを外しすぎなかったのは、常に姉妹が拠り所にあったからだろう。
と、竜治は考えた。
竜治「今日は波戸野リアの報告書を書くから帰れないと思う。それ以外にもまだ仕事が残っているんだ」
青樺「関係ないよ」
真弓「急ぐ必要なんかないよ」
天胡「帰りたいときに帰ってきな」
竜治「うん……、ありがとう。みんなも職場見学したければ連絡してくれ。見学させてあげるから」
真弓「当分はいいかな」
天胡「しばらく能力者は懲り懲りだよ」
青樺「わたしも」
三姉妹は共に笑った。
次回最終回です。




