柏竜治の秘密①
前回のあらすじ
下ネタが飛び交った
柏竜治の秘密③で最終話となります。
波戸野リア逮捕から一週間後。柏家に一枚の封筒が届いた。
天胡「ハワイからの航空便が来たよ」
青樺「それ、思い当たる節が一人しかいないんだが」
天胡「『高校生のお子様へ』だって」
青樺「いつまでもわたしを子ども扱いかっ!」
真弓「私と天胡が対象なんでしょ。間違ってはいないよ」
天胡「あと送り主が木村カエラだって」
真弓「間違えすぎだろっ!」
青樺「そこまで成りすます必要がないだろ。ふざけた親父だろ」
天胡は封筒を破って中の手紙を見せる。手紙の内容は次の通りである。
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ここに来い。
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天胡「だって」
真弓「少ないなー」
青樺「ここってどこだよ」
天胡「手紙の裏にQRコードがあるよ」
真弓「読み込むのか~」
青樺「回りくどい」
天胡「これは行くしかないな。文句を言うために」
青樺「行っても親父がいるとは限らないけどね」
スマホでQRコードを読み込むと、街の地図が出て来た。
三人は、QRコードが示す場所を目指す。
◇
三人は地図を凝視しながら路地を歩いている。
天胡「ねぇ、ここさ……」
真弓「見覚えがあるの?」
天胡「うん。三年前、父さんに連れられた道を辿っている。おそらくここは……」
と思っている内に、三人は目的地に着いた。
錆びついた鉄格子。色褪せた看板。藪の中に聳え立つ建物。
真弓「ここって……」
天胡「能来医院。私を能力者だと見抜いた病院だよ」
青樺「……なんか気味が悪いな」
三人は怯えながら建物の前まで歩き、慎重に玄関のインターホンを押す。
青樺「なにも三人で押さなくても」
真弓「いや、ちょっと怖いじゃん」
天胡「このボタンを押して世の中の誰かが死んだら、押した一人に責任を擦り付ける気なの? そんなの嫌だよ。責任は三人で分散するべきでしょ」
青樺「死刑執行ボタンと勘違いしてる?」
そのときだった。建物の入り口が軋む音を立てながら開いた。
扉の先、灯りのない長廊下を三人は見つめる。
そしてインターホン横のスピーカーからは、ガサガサとノイズ混じりに一言。
「……おわかりいただけただろうか?」
もう心霊番組もびっくりなほどファンキーな声だった。
天胡「みんなびっくりするよ」
青樺「この場に相応しくない」
真弓「私もムカついてきたわ。行きましょ」
三人は病院内の長く暗い廊下を進むと、突き当り左手に地下へ続く階段があり、そこを降りる。
降りた先、目の前の扉の下、一センチの隙間からは、青白い光が漏れ出しており、その扉を慎重に押す。
青樺「だから三人で押さなくていいだろっ!」
天胡「三人で押したくなるときぐらいあるでしょっ!」
真弓「そうだそうだ」
そして扉の向こうは広い事務所になっており、薄気味悪かったそれまでとは異なり、蛍光灯の光が強く照りつけている。
奥の席、そこに三人を凝視したまま唇を噛みしめる男が一人いた。他は誰もいない。
青樺「親父か……」
竜治「そうだ。青樺、真弓、天胡……。久しぶりだな」
竜治は、目にうっすらと涙を浮かべる。彼の中に溜まって返すに返せなかった娘への恩が、体中の細胞壁一つ一つを突き破ってあふれ出たのだ。
真弓「一年よ、一年。歴代最長の留守よ」
天胡「私たちをここへ呼んだってことは、能力者から狙われる危険が減ったってことでいいの?」
竜治「あぁ、そういうことだ。波戸野リアが逮捕されたからな。……って、ちょっと待って。何で俺と能力者の関係を知っているんだ?」
天胡「何でって、通りすがりの能力者や未来人が教えてくれたよ」
竜治「未来人⁉」
真弓「なんなら川田先生も言ってたよ」
竜治「あの女……、クビにしてやる」
天胡「戦力外通告発令か」
竜治「で、話を少し戻そう。改めて、俺は能力者を調査する機関、アガニマスター・イノベーションセンターの所長をしている。ちなみに、アガニマスターというのは能力者の呼称なのだが、全然浸透していないから積極的に使ってくれ」
天胡「嫌だよ」
竜治「それでイノベーションセンターは、元々この病院の運営者である能来先生が所長だったんだ。だが一年前、俺が所長を引き継ぐことになった」
真弓「それで忙しくなり帰れなくなったの?」
竜治「それもあるんだが、帰れなくなった一番の原因は波戸野リアだ。実は一年前の時点で、波戸野リアが心を読める能力者であること、奴が能力者を利用してユートピアを作ろうとしていたこと、この二つはわかっていた。ただ奴の組織にこちらからメスを入れようとしたところで、奴は部下と共に逃亡した。
我々は、能力者が能力を使いそうになったときに発される信号を基に能力者の追跡を行ってきた。ただ観測史上、波戸野リアだけは違った。警察からの取り調べも含めてわかったんだが、彼女は視界に入った人間の心を自動で読めるらしい。すなわち、使おうと思って能力を使っているわけではない。そりゃあ能力を使いそうになったときの信号が彼女から感知できないのも無理はない。そもそも発していないんだもん。結局、奴の居場所は掴めなかった。そうなると、俺も迂闊には動けなかったんだ。万が一俺が奴に捕まったら、能力者が一斉に狩られてしまう。天胡もだ」
真弓「だから家に帰れなかったのか。姿を晒すと私たちにまで危険が及ぶから」
竜治「そういうことだ」
天胡「実際、青樺姉がいなかったら、私も波戸野リアの養分にされていたと思う」
竜治「というか本人から聞きそびれたんだが、何で青樺はリアに勝てたんだよ?」
青樺「単にバカだから。わたしがいなくても、そう遠くないうちに捕まってたと思うぞ」
竜治「そうなのか。青樺……、立派に成長したな。もちろん真弓も天胡も」
竜治は潤んだ瞳のままそう言った。
青樺「親父らしくない顔だな。おれじゃあ、恨もうにも恨めねえじゃねえか」
竜治「なら無理せず恨んでいいぞ。俺は……、最低な父親だ」
真弓「そんなことないよ。父さんは毎月欠かさず仕送りしてくれるじゃん。不自由なく暮らすために支え続けてくれたじゃん」
天胡「そうそう。表立った貢献は少ないかもしれないけど、父さんがいるおかげでお金に困った生活はしてないし」
竜治「真弓……、天胡……、嬉しいよ。ただお金以外にも褒めてほしかった」
青樺「……あんまり悲しみを抱え込むなよ。リアがいない今なら家に帰って来られるんじゃないのか?」
竜治「いいのか? 一年も帰っていないのに」
真弓「私はいいよ」
天胡「私もいいよ。母さんがいなくて自分も忙しい中、いっぱい接してくれたのは父さんだし」
青樺「私もいいぞ。思いっきり殴れるから」
竜治「理由が乱暴すぎるっ!」
天胡「安心して、父さん。光線で青樺姉を焼き殺しておくから」
竜治「お前も乱暴すぎるっ! 俺はそんな風に育てた覚えはないぞ」
三人「「「育てられた覚えがねえよっ!」」」
竜治「息ピッタリだな。仲良さそうでよかったよ」




