NGワードゲーム①
前回のあらすじ
和也は亡くなった。享年32歳。
今回でいよいよ物語は佳境に入ります。個人的にはこの作品を構想するうえで一番書きたかった話です。
七月中旬。休日の昼下がり。
真弓と天胡の帰宅途中、央中典元が彼女らの元へ息を荒らげながら駆け寄って来た。
央中「真弓さん……」
真弓「急にどうした?」
央中「実は僕……、世界征服を企む組織に追われているんだ」
天胡「中二病?」
央中「んなわけあるかっ! 本当なんだ。孽界超人ギルフォード・モアが解き放たれたせいで、封印先であった僕に目をつけた奴らがいるんだ(そもそも、ギルフォード・モアの顔は僕と同じだし)。すまないが、しばらく匿ってほしい」
真弓「いや、いきなりそんなこと言われても……」
天胡「私たちの身も危うくなるからね。私だって能力者だし」
と話していると、彼女らの背後から、ハイヒールのカツカツとした音が鳴ったため、咄嗟に振り返る。
央中「誰だ?」
川田「私だ」
央中「紛らわしいっ!」
天胡「何で川田先生がここに?」
川田「さっき、央中くんが慌てて駆け出したから、私も追いかけて来たの。イノベーションセンターの工作員として、央中くんも保護しなければならなくなったし」
真弓「目をつけて追いかけたの、先生じゃないの?」
央中「さすがに違う。奴らは五人組だった。リーダー格の奴は女だったけど」
川田「央中くんに辿り着けるということは、何かしらそいつらが能力者に関わっている可能性が高いわね。その場合は、厄介なことになりそう……」
と話していると、彼女らの背後から、革靴のカツカツとした音が鳴ったため、咄嗟に振り返る。
川田「誰だ?」
トニ「私だ」
川田「だれぇええっ⁉」
スキンヘッドでスーツを着た男、トニー・ジキルトハイドは、四人の男女を引き連れて、ゆっくりと距離を詰めていく……。
トニ「こいつか、都内で暴れた奴と同じ顔をしている」
彼の凍てつくような瞳に、天胡は両手を組んで、光線を撃つ準備をする。
虎屋「おい。飯山高原で反応していたと思われる奴もいるぞ」
虎屋浩大は、柏天胡を注視する。すると、
川田「あー。あなた、以前に会った……」
虎屋「この辺の高校教師か」
川田「バードウォッチャーだ」
虎屋「まだ言うか、それ」
川田「えっ⁉ この集まりって、あれですか? バードウォッチング愛好会か何かですか?」
虎屋「んなわけねえだろっ! 端から能力者狩りしか興味ないわっ!」
川田「そんな……、一緒にバードウォッチングしたかったのに……。私を裏切るのね」
虎屋「勝手に誑かされるお前が悪いだろ。リーダー、やっちゃってくれますか?」
と言うと、トニーの後ろにいるウェーブヘアの女が前に出た。
彼女は腕を組み、佇まいで川田らを威圧する。天胡の指の照準もブレて定まらなくなった。皆が瞬きを忘れるほど、彼女のオーラに取り込まれそうになっていた。
◇
ギルフォード・モア騒動により、雀天堂大学病院は一般人の立ち入りを禁止していたが、約一か月続いた病棟の補修工事も終わり、患者との対面も許されるようになった。
この日の午前中。青樺は、弘前義道と共に雀天堂大学病院へ行き、消積削助のお見舞いに行った。
昼下がり。青樺は弘前を自宅に案内するため、帰路を歩いている。
青樺「妹たちも喜んでくれると思うよ」
弘前「でも、気を遣わせたりしないかが心配……」
青樺「大丈夫だよ。二人とも、わたしと犯罪者以外には優しいから」
弘前「犯罪者と同じ扱いなの⁉」
と、二人がときめいていると、目先の曲がり角から、ベージュの長袖Tシャツを着た女がモジモジしながらやって来た。そして二人の前で立ち止まると、
リア「あっ、あの……、突然すみません。柏青樺さんですよね?」
青樺「……そうですが」
リア「わたし、波戸野リアと申します。えぇっとォ…………、お願いします。わたしと……つ
き合ってくれませんか?」
青樺「……はっ⁉」
リア「わたし、青樺さんとつき合いたいんです」
弘前「あの……僕、青樺の彼氏なんだが……」
リア「つき合いたいです」
弘前「聞いてるの?」
青樺「いいだろう」
弘前「青樺⁉ 何考えてんの?」
リア「あっ、ありがとうございます。嬉しいです」
青樺「わたしも嬉しいよ。まさか、こんなに人気者になっているとはな」
リア「そうですよ。青樺さんは大人気なんですよ」
青樺「なら…………、その人気に応えなくちゃなぁああっ!」
青樺は勢いよく駆け出し、リアのみぞおちを狙って右拳を振った
しかしリアは、それを左手で受け止め、右手で青樺のみぞおちを突く。
青樺「ぐっ……、うぅぅっ……」
リア「勝負あったようですね、柏青樺」
青樺「……卑怯だぞ。わたしはまだ……お前を突いていないのに……」
リア「お前が雑魚なのが悪いんだよ」
すると、弘前はリアの背中を肘で突き、一瞬怯んだ隙に青樺を抱えて逃げ出した。
リア「チッ……わたしが粗忽だったか。青樺(あの女)、どんだけ愛されてんだよ……」
リアはゆっくりと立ち上がり、弘前の後を走って追いかけた。
リア「まーた服が汚れちゃった」
◇
一方、闘争本能剥き出しの青樺と逃走本能剥き出しの弘前。
青樺「ひっ、弘前……くん。まだあいつと……決着がついていない……」
弘前「そんなこと言っている場合じゃないぞ。青樺が負けたんだ。そんな奴、僕だって勝てるわけがない。逃げるしかないんだよ」
青樺「逃げるってどこへ……?」
弘前「とりあえず青樺の家に行こう」
青樺「そうだね……。早く、真弓と天胡にも会いたい」
弘前「いいか。今、リアには勝てない。反射神経が桁違いだ」
青樺「あぁ。まるで、わたしの戦略全てをあらかじめ知っていたかのようだ……」
弘前「なんだそれ? もしかして、あの女、能力者とか?」
青樺「どうなんだろうな」
弘前「でもあの女、くるぶしは伸びなかったよ」
青樺「元カレの話するのやめてくれるかな」
弘前「……ごめん」
弘前は自転車並みの速度で走り柏家に着くと、急いで玄関の扉を開けた。
部屋の中を一度見て、青樺と共に思わず言葉を失った。そこには、どこの馬の骨かも知らない男三人と女一人、そして四つん這いのままガムテープで床に拘束された天胡と、麻ひもで縛られた真弓、川田、央中が眠らされていた。
青樺は弘前の背中から降りて、馬の骨一人一人の胸ぐらを掴みかかろうとした。
そのとき、弘前の腹が何者かに強く叩きつけられ、彼は体のバランスを崩した。
弘前「うっ……」
青樺「⁉」
咄嗟に振り返った青樺の目の前には、追いかけて来たリアがいた。リアの右足の蹴りに対し、青樺は左腕を眼前に構えることで防いだ。




