表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

孽界超人ギルフォード・モア③

 川田「……あなたのせいじゃないわ」


 真弓「でも、私が姉さんに相談を急ごうとしたせいで、街がメチャクチャに……」


 央中「悠長に言っていられないのも確かだ。とりあえず言えるのは、お姉さんに相談するのはやめよう。ヤツは真弓さんよりも早く相談しようとしている。真弓さんが今相談してしまったら、ヤツは途端にスピードを上げて、今よりも酷い惨事を巻き起こす可能性がある」


 真弓「でもっ! それじゃあ姉さんは……」


 悲観する真弓の肩を叩いたのは天胡であった。


 天胡「青樺姉なら、きっとなんとかしてくれるはずだよ。だって、青樺姉は喧嘩にめっぽう強かった、って岡田先生が言ってたじゃないか」


 真弓「喧嘩で勝てるような相手じゃないでしょ」


 川田「私はイノベーションセンターに対策を提案してもらうわ。できる限り青樺さんを、そして日本国民を守るわ」


 央中「……真弓さん、川田先生。ヤツがこの場を離れすぎてしまった以上、もう僕たちにできることはありません。信じるしかないです、お姉さんを」


 彼らの周りに漂う苦しい空気は、救急車のサイレンでかき混ぜられるほど軽くはなかった。真弓と天胡は、少しでも青樺に近づこうと、モアの突き進んだ方向へ歩き始めた。


 ◇


 無茶ノ水駅前。青樺は弘前と待ち合わせをしていた。


 彼女の背後から足音が立った。ようやく弘前くんが来た、と思って振り返ると、そこにいたのは、ちょんまげ姿の男だった。

 モア「麻呂の名はギルフォード・モアだ」


 青樺「誰ですか?」

 

 モア「麻呂の相談を聞いてくれ。麻呂は世の人間すべての上をいくことができる。この麻呂がいる限り、この世界に災いが訪れる。どうすればいい?」


 青樺「知るか、そんなこと」


 モア「どうすれば麻呂を対処できる?」


 青樺「まず人間すべての上をいく、って何だ?」


 モア「……」


 青樺「この青樺に対して黙秘を貫くとは……、私が怖くないのか?」


 モア「麻呂の方が怖いだろっ!」


 モアは青樺にメンチを切った。


 青樺(えぇ……、何こいつ、怖いんですけどォ……)


 青樺は次に、靴のつま先で土を少し抉った。その瞬間、モアは自分の下駄のつま先で土をスコップの如く大量に抉った。


 青樺「はっ……⁉ お前、マジかよ……」


 モア「お前の上をいく。土を抉る量では誰にも負けん」


 青樺(こいつマジだ。本当に誰であろうと上をいくんだ)


 彼女は思慮を巡らせた。途端に駅前の道路の先、雀天堂大学付属病院に向けて走り出した。


 青樺「おい、化け者。どっちが早くあの病室につけるか競争しようぜ」


 青樺は、入院患者が生活している一号館の四階の病室を指した。


 モア「いいだろう。麻呂の方がお前より早く病室につく」


 と言うと、モアは助走をつけて走り出し、空を飛んで一直線に病室に突っ切ると、窓を破って先に到着した。


 一号館は、窓が割れた衝撃で人工的な地震が発生し、周囲にガラス片が飛び散った。幸いにも、怪我人はいなかった。


 青樺(おいおい、いくらなんでも常軌を逸しているぞ……)


 彼女は急いで、モアの元へ向かった。


 ◇


 雀天堂大学付属病院一号館。四階には、病気が治る見込みのない終末医療患者が残り少ない余生を過ごしている。


 四階の個室。ベッドに横たわる青年、吉田和也(よしだかずや)は、瞬きも覚束ないほど憔悴していた。心電図も横ばいに近くなって、彼の死が近づいていることを薄々感じてしまう。

 交際相手の水本(みなもと)真菜(まな)は、彼の右手を掴んで、彼の脈を必死に感じようとしている。病室には他に、医師が一人と看護師が二人。皆が和也の病状を見守った。


 真菜は大粒の涙を流しながら、

 真菜「カズくん……、私より先に死なないでよ」


 和也「ごめんな……真菜。……俺の方が、先に……死ぬっぽい」


 そのときだった。突然、病室の窓が壁ごと突き破られ、ギルフォード・モアが和也に向かって叫んだ。


 モア「麻呂は……、お前より上だっ! 死ぬまでの早さでは、絶対に負けんっ!」


 そう言うとモアは、鞘から刀を取り出し、自分の腹に突き刺した。握った手は痙攣を起こし、紫色の血を滴らせて倒れ込む。


 孽界超人であるギルフォード・モアは、決して死体を残さない。死を迎えたその体は、外側から少しずつ霧状になって消えていく。



 切腹から一分後。遅れて青樺が病室に着いた。彼女は、モアの体が散る最期の瞬間を見ることができた。

 同時に、和也の生命の痕跡を示した心電図は、ツーーー、と嫌な音をあげて直線を映し出した。

 外との気圧差で家具や器具が宙を舞う異様な病室。それでも真菜の気持ちに揺らぎはない。一途であった。


 真菜「カズくん……。そんな……」


 彼女は、和也の眠るシーツを握り締め、目元を拭った。

 その場の誰もが胸を締め付けられた。医師も看護師も何て言葉を掛けていいか分からない。状況の整理もろくにつかない。


 そんな空気を変えたのは、赤の他人である青樺だった。


 青樺「私たちがするべきことは、彼が短い生涯で得た経験を忘れないことだ。彼は他の誰よりも立派に生きた。彼もそんな人生を誇りに思っていて欲しいな……」


 青樺は合掌した。


 吉田和也 享年三十二歳。

 彼の生き様は、多くの人々の心に残るだろう。

キャラリスト

吉田和也(享年32歳)

水本真菜


【定寺成高校2年4組】

央中典元

…転校生


込寄静流


海道達也


【妖孽界】

孽界超人ギルフォード・モア

…妖孽界を統べる女王『マル子』の子供であるが、自動で他人を上回ることしかできない病気を患ったために、皇位継承権をはく奪され、この世界に捨てられた。やがてモアは、央中典元の体に封印されしばらくの眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ