孽界超人ギルフォード・モア②
屋上には、さらに天胡がやって来て、
天胡「まゆ姉、これは……?」
真弓「ギルフォード・モアっていう異世界人らしい」
央中「彼女は妹さんだな? 先に注意しておく。こいつは、定めた対象よりも常に上をいく。決してこいつに勝とうなどと思ってはいけない」
皆はその後、黙ったまま下手に動けずにいた。
すると、校庭で練習している野球部のピッチャーが剛速球のストライクを投げたことに反応して、モアは屋上から校庭に向かって舞い降りた。
その場でピッチャーのボールを横取りすると、
モア「お前よりも上をいく。球速では絶対に負けん」
と言ってモアは、時速220キロでボールを投げた。向かいにいたキャッチャーは、グローブと腕がボールのパワーに耐え切れず、砕けた腕をもう片方の腕で撫でながら、モアを睨むしかなかった。
その様子を屋上から見ていた天胡は、
天胡「ごめんね、まゆ姉」
と言うと、モア目掛けて躊躇なく指から光線を放った。それも自分が出し得る最高出力で。
光線はモアに命中。ヤツの左脇腹を抉った。それでも体はピンピンとしており、生命活動を止める気配はなかった。
モアは校庭のフェンスを挟んだ向こい側、老夫婦が病院から薬を持って出てくると、
お爺「これですぐに治りそうだな」
と、お婆さんに向かって言った。
それに反応すると、モアはフェンスを乗り越えてお爺さんの前に立ち塞がり、
モア「お前より上をいく。治癒力では絶対に負けん」
と言うと、ヤツの抉れた体が紫の煙に包まれ、修復されていく。
その様子を屋上から見ていた央中は、滝のような冷や汗をかいた。
央中「まっずい……。ギルフォード・モアを街に出してはならない」
彼は一目散に室内に戻って、学校外へと向かった。真弓、天胡、川田もついて走る。
◇
校舎を駆け抜ける際中。
真弓「先生。あなた、何者なんですか? 何で央中くんの常識から乖離した相談に乗ったんですか? ついでに対処法まで考えていたらしいですけど」
川田「……聞いたのね。央中くんから。仕方ないから言うわね。私は、アガニマスター。イノベーションセンターという能力者を調査する機関の工作員よ」
天胡「嘘つけっ!」
川田「本当よ。本当に工作員よ」
天胡「工作員だったら、簡単に自分の秘密を打ち明けないでしょ」
川田「たしかに」
真弓「工作員失格だろっ!」
川田「でも打ち明けなきゃダメでしょ。うちらのボス、柏竜治さんよ。あなたたちのお父様よ」
真弓「だから何でそういうことベラベラ喋るかね」
川田「娘さんの要望に応えた方が上司にいい評価をもらえるじゃない」
真弓「秘密を喋っているなら解雇されるべきですよ」
川田「大丈夫よ。あなたたちは能力者が世にバレる危険性を知っている。私はあなたたちを信頼しているわ。そもそも私がここに赴任したのは、あなたたちが五月に秩父で能力者と出くわしたことで、保護する必要性が出たからよ。派遣は竜治さん直々に指名されたのであって、ちょっと秘密を喋った程度じゃクビにならないわ」
真弓「父さんもテキトーすぎるでしょ」
央中「あともう一個。僕のギルフォード・モアの対処法、何で教えてくれなかったんですか?」
川田「機密情報だから」
真弓「もっと守るべき情報があるでしょっ!」
央中「その対処法って何ですか? 今なら言えるんじゃないですか?」
真弓「……円周率をずっと言い続けるロボットを使って、孽界超人と円周率言いまくり対決をさせようと思っていたの。円周率は無限にあるから、お互いに言い続けることになる。その現場を埋め立てれば、孽界超人が地上で暴れることはなくなる」
天胡「たしかに完璧な作戦だ」
川田「ただ作戦の欠陥として、土砂を埋める業者が見つからなかったのよ」
真弓「そこなんだ、問題点」
川田「央中くんは三年前、どうやって対処したのよ?」
央中「あー、それはですねー。当時の担任の先生に相談したら、僕とギルフォード・モアがテストを受けることになったんです」
川田「ずいぶんと律儀ね、孽界超人さん」
央中「テストを受けて採点が終わりました。そうしたら、僕が2i点、ギルフォード・モアが9i点だったんです」
真弓「虚数⁉ あっ、でもそのやり方、賢いかも」
央中「虚数なので数の大小が存在しない。これにより、僕より高い点数を取るはずだったギルフォード・モアはエラーを起こしたんです。そして気付いたら、僕の右腕にはギルフォード・モアが封印されていました」
川田「あなた、封印ができるということは、おそらく能力者ね」
央中「そうなんですか?」
互いの秘密を暴露しまくっている間に、彼らは学校の外へ出た。しかし、ギルフォード・モアは既に街へ出てしまった。
央中「まずい。なんとしてもヤツを探しますよ」
川田「私も、イノベーションセンターの同僚に応援を要請しておくわ」
◇
山尻駅前の公園。子どもたちが遊具で遊んでいる最中、一組のカップルがベンチに座って、互いの目を見つめ合っていた。
沙羅「亮太くん、大好き。本当に嬉しい」
亮太「何を言ってるんだ。俺の方が君のこと好きだよ」
モア「いや、麻呂だ。麻呂の方が好きだァッ!」
モアは勝手に沙羅の手を握った。
沙羅「キャーッ! 誰よあなた?」
モア「お前よりも上だ。この女に対する愛では絶対に負けん」
亮太「ふざけたこと言ってんじゃねえっ!」
と言って、亮太はモアの顔面を力いっぱい殴った。モアは吹っ飛ばされて亮太を睨む。沙羅は怯えながら、亮太の後ろに隠れた。
亮太「どこの誰かは存じ上げないが、俺の彼女に手を出していいのは俺だけだ。実力行使もいとわない」
モア「お前の上をいく。殴る力では絶対に負けん」
亮太とモアは互いの右拳をぶつけた。力ではモアの圧勝。亮太は手を複雑骨折し、痛みによってただひたすら叫んだ。
セクハラ、暴行。道徳心なんてものを持ち合わせていないモアは、周りの人間から畏怖の念を抱かれた。公園にいた者たちは、悲鳴をあげながら逃げ出していった。
宮本家のお父さんも、「早く逃げるぞ」という声を上げて子ども達を車に乗せたが、モアは逃げ出す彼らを見逃さなかった。
モア「速さでは絶対に負けん」
そう言ってモアは、宮本家の車に走って追いつくと、車の前に立ち塞がった。慌ててお父さんは急ブレーキを踏むが、間に合わずモアと衝突。車はペシャンコになった。
事故現場に駆け付けた央中と真弓、天胡、川田は、惨状を目の当たりにし、どうすればいいのかわからなくなっていた。
川田「これ、私たちが解決できる問題なのかしら……?」
真弓「とりあえず、姉さんに何か解決案を頼んでみるべき……?」
天胡「役に立つのか?」
真弓「でも、相談するなら早くしないと、街が……」
とそのときだった。
モア「お前より上をいく。相談するまでの早さなら誰にも負けん」
そう言って、モアは真弓たちとは反対方向に突っ走って行った。道中に立ちはだかる車やビルは、突き破って行く。金属が裂ける音、ガラスが割れる音、人々が泣く声、あらゆる災いの音が現れては木霊する。一度飛び越える対象を定めたモアを止める手段はない。
真弓は、その場で涙を流し、突っ伏した。




