柏姉妹は奇想天外③
青年「川魚が気に入らなかったぐらいで不機嫌になるんじゃねえ」
男「鮮魚店で買ったわけでもない魚貰って何が嬉しい?」
青年「たしかに……」
男「ならお前が食えよっ! あの汚い魚」
青年「残念だけど、僕ベジタリアンなんだよね」
男「関係ねえよっ! ベジタリアンだかオバタリアンだか知らねえけどよ――」
青年「リバタリアンだよっ!」
男「魚食いたきゃ食えよっ!」
青年「お前が食えばいいだろっ! 何で食わない? お前だってこの星で暮らす同じ人間だろ?」
男「それは……」
ここで真弓は青年に尋ねる。
真弓「あのォ、すみません。何だかあの男に詳しそうですけど、あの男は何者なんですか?」
青年「明かすしかないようだな。あいつと僕の正体を」
男「おい、まさか俺の正体を知っているというのか?」
青年「あぁ。お前、クジラ星から来たクジラ星人だろ?」
クジ「嘘だろ⁉ いつバレていた?」
天胡「えっ⁉ 本当なの? 宇宙人ってこと?」
青年「そうだ。クジラ星からだぞ。ここ重要な」
真弓「もっといい名前はないの? クジラ星ってちょっと変だよ」
青年「あなたたちも見てただろ。あいつは川魚を食べられない。それは海水魚しか食べないクジラと同じではないか。だからあいつをクジラ星人、あいつの故郷の星をクジラ星と呼んでいる」
クジ「テメー、俺の質問に答えろ。俺の正体はいつ知った?」
青年「昔から知っていたさ。今日ここで起こることも含めてな。何故なら僕は、未来人だから」
クジ「なん……だと⁉」
衝撃の事実が発覚した。
未来「お前の好きなようにはさせねえぞ」
クジ「それはこっちのセリフだ」
天胡「関係ないこと言うけど、クジラって海水魚だから、淡水魚を食べる機会がないだけで食べようと思えば淡水魚も食べられるよな」
未来「なん……だと⁉」
衝撃の事実が発覚した。
真弓「気付けよ」
未来「たしかに、何でなんだ……?」
と、天胡のしょうもない揚げ足取りに動揺した隙を突いて、クジラ星人は未来人の腹に蹴りを入れた。それに負けじと未来人もクジラ星人の腹に一発殴りを入れる。しかしクジラ星人は微動だにしなかった。
未来「効いてないだと……⁉」
クジ「残念だったな。俺はこの星の男とは違い、みぞおちを殴られたぐらいでへこたれねえぞ」
未来「じゃあ、どこをなぐれば……」
クジ「俺の弱点は股間だ」
真弓「それ地球人も同じだよっ!」
すかさず未来人は、クジラ星人の股間に蹴りを入れた。当然のようにクジラ星人はその場で蹲り、ジワジワと押し寄せる痛みに悶えるしかなかった。
未来「昔から急所を殴るのは得意なんだ。これでお相子だな」
クジ「クソー、容赦ねぇ。せっかく後ろの小娘が、こいつの隙を作ったのに……。俺の味方に付いてくれたのに……(グァァァァ……痛い)」
天胡「私、味方をしたつもりないんだけど。何勝手にチーム意識持ち始めてるの? そもそもお前は、パンのミミ一袋しか買ってないくせにバターロール一個貰ったケチ野郎なんだよ」
クジ「おい。さっき俺の後をつけてきたのは、そのパン屋での買い物態度に文句を言うためか?」
天胡「そうそう」
クジ「しょうがねえだろっ、そんなこと。だってよ、俺今日初めてあのパン屋に行ったんだよ。そうしたら店員が、一会計あたり一個バターロールをあげる、って言いだしやがったんだ。バカじゃねえの、って思ったよ。そんなもん、バターロールが欲しいに決まってるじゃん。だから一番安いパンのミミを買ってバターロールを貰ったんだ」
真弓「気持ちはわからなくはない」
天胡「というかわかる」
未来「そんなくだらないことで争いに発展したのかよ」
クジ「うるせーっ! お前に金欠宇宙人の気持ちがわかるわけねえだろっ! 俺なんか……、ずっと腹が立って立って、そして腹が立ってんだよっ!」
天胡「少しは座ったら?」
クジ「お前何言ってんの?」
真弓「多分腹が立つ原因、他にありますよね?」
クジ「そりゃ、あるよ。そもそもクジラ星って何だよ? お前たちにとってはクジラ星だが、俺たちにとっては地球なんだよ。呼称で侮辱している」
真弓「何言ってんの?」
天胡「なるほど。そういうことか」
真弓「ごめん。どういうこと? 教えてほしい」
天胡「あー、多分だけどクジラ星だからややこしく考えているんだと思う。例えば、火星に火星人がいるとするじゃん。私たち地球人は火星って言うけど、それは地球人が勝手につけた名前であって、火星人は火星のことを火星とは呼ばない。つまり、火星人にとってみたら、火星こそが地球なの」
クジ「そういうことだ。俺はこの星に来て、自分の故郷の星がクジラ星と呼ばれていることを知った。でもそれ以前は地球としか呼んでいなかった。ちなみに故郷では、この地球のことを『アース』と呼んでいた」
真弓「英語読み⁉」
クジ「俺がアースに来て住み着いている理由、未来人はとっくに知っているんだろ?」
未来「いや知らん」
クジ「じゃあ教えてやる」
未来「興味ねえよ」
クジ「聴けっ!」




