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孽界超人ギルフォード・モア①

前回のあらすじ

くるぶしが痛そうだった

 六月中旬。


 定寺成高校の中間テストが終わったことで、真弓と天胡は浮かれていた。

 朝八時。遅刻間近の二人は、通学路を走っている。


 天胡「何で起こしてくれなかったの?」


 真弓「目覚ましが止まってたんだよ。ごめんって」


 天胡「もう足が疲れてきちゃった」


 二人はT字路を左に曲がる。目の前には、同じ高校の制服を着た比較的大柄の男が走っている。その後ろをついて行くように二人も走っていた。


 すると突然、その男が急に立ち止まった。二人は男にぶつかる。

 天胡「うー……、イテテ……」


 真弓「何してるんですか? 同じ高校だと思いますけど、早くしないと遅刻しますよ」


 男「すまないね。整髪用のワックスをつけ忘れてしまったもんで」


 真弓「だからって急に立ち止まらないでくださいよ」


 天胡「ちゃんとブレーキランプをつけてください!」


 真弓「そんなもん携帯してる人いないでしょっ!」


 男「ごめんよ。君たちを悲しませてしまって」


 と言って、男は後退した。


 真弓「別に悲しんではいないんですが」


 天胡「あとバックランプぐらいつけなよ」


 真弓「意味わかんねえよ」


 男は真弓と天胡の方を向き直すと、


 男「あまりにも真弓(きみ)の笑顔が眩しすぎて、サングラスを忘れたことを後悔しているよ」


 真弓「私、呆れてるんだけど」


 天胡「私はスルー?」


 男「そういえば、まだ自己紹介が済んでいなかったな。俺様の名は、込寄静琉(こみよせしずる)。女の子からは、シズ様と呼ばれている」


 真弓「敬いたくねぇー」


 込寄「君もそう呼んでくれたまえ」


 真弓「呼びたくねぇー」


 込寄「以後、お見知りおきを」


 真弓「おきたくねぇー」


 天胡「私はスルー?」


 真弓「まだ引きずってんの? そのままスルーされていた方がいいよ」


 込寄「おっと、すまない。天胡(きみ)真弓(彼女)の妹さんかね?」


 天胡「そうですが」


 込寄「そうか。小さすぎて見えなかったんだ」


 天胡「あんた、燃やしていいかな?」


 込寄「そんな物騒なことはやめてくれよ。せっかく出会えたんだ。今日という日を大切にしようぜ☆」


 天胡「したくねぇー」


 込寄「それではさらばだ。またいつか会おうぜ、可愛いウサギちゃんたちよ」


 と言って、込寄は学校に向かって走って行った。彼の態度に呆気にとられる真弓と天胡。


 真弓「あいつ何者だよ」


 天胡「制服の校章の色を見るに、二年生だよ。まゆ姉、あの人知り合い?」


 真弓「そんなわけないでしょ。あんな人、会ったこともないし、会いたくもないよっ!」


 天胡「私も同じ。まゆ姉、気を付けてね」


 その後、真弓と天胡は遅刻しながら登校した。


 ◇


 真弓が二年四組の教室に入ると、真弓の後ろに誰のでもない席が一つ置かれていた。クラスの皆は、転校生が来るらしいぞ、と噂を聞きつけて盛り上がるが、真弓は不安に駆られる。


 そしてホームルームの時間になると、

 川田「おはようございます。みんなには言っていませんでしたが、今日からこのクラスに転校生が来ます。今、廊下で待ってもらっているので、さっそくですが入ってもらいます。どうぞ」


 と言うと、クラスの皆は教室の前の扉に釘付け。転校生が教卓の前に立つと、真弓は思わず目を疑った。


 川田「それでは自己紹介をお願いします」


 央中「はい。央中典元(おちゅうてんげん)です。よろしくお願いします」


 比較的低身長でマッシュヘアの大人しそうな男であった。真弓は大きなため息をつく。


 真弓「あの子が転校生かぁ~……」


 すると前の席から、


 込寄「よかったな。()()()()()()()()()()()


 真弓「本当だよ。よかったぁ~」


 真弓は安堵した。



 昼休みの教室にて。


 純玲「あなた中二病?」


 央中「中二病じゃないです。大真面目です」


 真弓「どうしたの? 純玲も央中くんも」


 純玲「央中くんが相談に乗ってほしい、って言うから聞いていたんだけど、変な話しかしないっていうか、中二病なの」


 真弓「どんな話だよ」


 央中「僕の話、聞いてくれますか?」


 真弓「いいわよ。話してちょうだい」


 央中「はい。率直に言います。実は、僕の右腕には、孽界超人(げっかいちょうじん)ギルフォード・モアが封印されているんです」


 真弓「そう。それは大変ね。生活に支障をきたすようなことがなければいいんだけど……」


 純玲「ねぇ、何で当たり前のように受け入れてるの?」


 真弓「何でと言われても、そういう人が世の中にいてもおかしくはないでしょ」


 純玲「そうなんだ……。ごめん、私が常識を知らなかっただけだわ」


 と言って純玲は、弁当を食べたまましばらく黙ってしまった。


 真弓は、今まで多くの能力者を見てきた、なんなら自分の妹が能力者であることから、腕に人が封印されていてもおかしくはない、と感じていた。しかし、能力者の存在は公に知られていないことから、自分と世間の常識が乖離していることに気付くのが遅れてしまった。


 真弓が思わず冷や汗をかいていると、央中の話を聞きつけたキザな男、海道達也(かいどうたつや)が、

 海道「ギルフォード・モアか。洗練された名だな。ぜひ聞かせてくれ。この魔界冒険部の俺に」


 央中「何ですか? 魔界冒険部って?」


 海道「我が部は、現実と魔界の扉を開くために日々活動している。この前は高尾山に行った」


 真弓「要するに、登山部ってことよ」


 央中「いや、わからないですよ。本当に僕のギルフォード・モアを対処できるかもしれない」


 海道「そうか。頼ってくれたまえ、この俺を」


 央中「はい。お願いします」


 海道「敬語はよせ。同じ人類の存亡を見守る者として。もっとラフに話せ」


 二人は廊下で話し合った。


 …


 しばらくして、海道は真弓に話しかけた。


 海道「柏。あの転校生と話したんだが、点でダメだ。あいつのレベルは低い。まだ俺の頂には到達していない」


 真弓「お前の頂が低すぎるだけだろ」


 海道は自分の席に着いた。


 その十分後、職員室に行っていた央中が戻って来て、真弓に話しかけた。

 央中「海道くんと話してきたんですけど、あの人のレベルは低いです。僕の深刻さをまるでわかっていない。全然相手にならなりませんでした」


 真弓「でしょうね」


 央中「僕は真剣に話していたんだ。でも海道くんから出る言葉は魔界ばっかり。ギルフォード・モアは妖孽界なのに」


 真弓「知らんよ、そんなこと」


 央中「簡単に言うと、異世界です」


 真弓「本当に簡単に言うのね。まぁ、いいけど」


 央中「魔界が本当にあるのかと思ったんですけど、話聞く限りデタラメじゃないですか。海道くんって中二病なんですか?」


 真弓「そうだよ。というか、あなたにも一応訊きたいんだけど、そもそもギルフォード・モアって何なの?」


 央中「ギルフォード・モアは全ての人間よりも格上になれる超人です。こいつが世に放たれれば、世界の理が崩れることだってあり得るんです」


 真弓「それが、あなたの右腕に封印されていると……?」


 央中「はい。もう二年も封印しているんです」


 真弓「そんな秘密を堂々と言ってもいいの?」


 央中「大丈夫。みんな僕のこと、ヤベー奴だと思っているから」


 真弓「転校初日がそれでいいのかよ」


 央中の言葉通り、彼はクラス中から南極大陸のように冷たい視線を送られていた。


 央中「そんなこと、別に問題ないで……候」


 真弓「なぜ侍みたいな口調を?」


 央中「あ、いけない。一瞬、ギルフォード・モアに体を乗っ取られかけた……。まずいな、そろそろ封印が……」


 真弓「ちょっと、大丈夫なの? こんなところで解き放たれたら、私はどうすればいいの?」


 央中「何もしなくていい……。何もしなければ、ギルフォード・モアに超えら(ゼェッ……ゼェ……)れることはない……」


 真弓「苦しそうだよ。病院にでも行ったら?」


 央中「医者が対処できる問題じゃない……。心配するな。ギルフォード・モアの封印が解かれたときの対処法を……さっき川田先生にも相談した」


 真弓「あの先生、何者だよっ?」


 央中「何者なんだろうね。でも今は、先生を信じるしかないのかぁ。嫌だなぁ~」


 真弓「信頼してないのかよ。相談して、先生が自信持っていたなら、信頼した方がいいよ」


 央中「うん。頑張るよ。頑張ってギルフォード・モアに立ち向かうよ。ありがとう。僕の話にここまで真剣に聞いてくれる同年代は、真弓さんが初めてだよ」


 真弓「いいのよ。役に立ったなら何よりだわ」


 そう話している内に、真弓もクラス中から氷河のように冷たい視線を浴びていた。


 ◇


 翌日の放課後。

 真弓は央中に呼び出されて屋上に行くと、彼が左手で右腕を押さえながら蹲っていた。


 真弓「どうしたのよ、央中くん」


 央中「もう……ダメだ。封印が解かれる……。ギルフォード・モアの封印が解かれてしまう」


 そこへ焦燥した川田がやって来て、


 川田「遅かったか。もう、間に合わない……」


 突如として、太陽が雲に隠される。


 央中の右腕から零れ出す紫の煙は、見る見るうちに量を増やしていき、直径二メートルほどの球体を形成する。球の内部から一筋の黄色い光が放たれると、煙がはけて、中から央中と同じ顔をしたちょんまげの男が、紫の着物を着て現れた。男は、空間の裂け目から刀を一振取り出して、腰の鞘に納める。そして真弓の方を振り向き、


 モア「これが今の人間の世か。ギルフォード・モア、これが麻呂の名だ」


 真弓「公家なの⁉」


 川田「こいつが、孽界超人…………」


 川田は膝が震えて上手く動けなかった。

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