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満留の陰謀③

 満留は小屋で受付を済ませる。


 満留(蛍がいるなんて好都合だ。恋を実らせる蚊に血を吸われやすくするために、虫除けスプレーを使わせたくなかったしな)


 そして、レンタルした器材と食材を、小屋から近く日差しも程よく入る位置まで運ぶと、手分けして設営を始めた。

 天胡と満留は火起こしをする。グリルには、受付から支給された炭を置き、点火棒の火を近づける。しかし、炭に燃え広がる様子があまりない。というか点火棒の火が小さい。


 天胡「ルーズリーフ使います?」


 満留「あっても変わらんだろ。受付で別の点火棒を貰ってくる」


 と言って、受付に向かっている最中、彼は重大な事に気が付いた。


 満留(グリルで周りの空気が温まったら、みんなが蚊に刺されにくくなるじゃん。どうしよー)


 満留は、歩きながら執事に電話をする。


 執事「どうなされましたか? 祠満留」


 満留「二時間後ぐらいでいいからさ、五人分のカップアイスを買ってきて」


 執事「かしこまりました」


 ◇


 その頃、天胡はというと、


 天胡(これ、私が光線を撃てば点くよな……)


 周囲を見回すと、大学生の集団や家族連れは天胡たちに興味なし。川田、純玲、カノンは椅子のレイアウトに夢中。


 天胡(よし! いけるな……)


 彼女は両手を組んで人差し指を突き出し、指先をグリルの炭に向ける。


 天胡(ちょっと弱めにしないと、私の能力がバレてしまうか……)


 光線を撃とうとした。そのとき、彼女の脳内で反芻するかつての敵の言葉。


 ——その電波は、超能力者が超能力を使いそうになったときに発する電波と波形が同じであり、その発信元はこの星であった。

 ——俺は……、能力者が能力を使いそうになったときに発する信号を解析してこのSLに乗った。


 その言葉を思い出した天胡は考える。


 天胡(だから何だっ!)


 躊躇なく撃つ。光線ピカッ。火がブォワッ。


 満留が戻ると、

 天胡「火が点きました」


 満留「僕が行った意味は?」


 天胡「なかったですね」


 ◇


 満留は自分の無力感に襲われ、少し離れた木の根元に腰掛けた。


 満留(まずいぞ。これは恋を実らせる蚊どころではない。同好会内での僕の立ち位置がなくなってしまう。秦海先輩さえ来てくれたら、まだ居場所があるかもしれなかったのに……)


 と、手で顔を覆いながら俯いていると、目の前の草に、体長約二センチ、長い足が六本ある羽の生えた細身の虫が一匹いた。満留は、指と指の隙間からそれを見つめる。


 満留(まさか……、これが恋を実らせる蚊だと言うのか?)


 と勘違いしているが、この虫はガガンボだ。


 満留(こんなデカい蚊に刺されないといけないのか?)


 これはガガンボだ。


 満留(何か……見続けていると、こいつが気持ち悪く思えてきた)


 満留は、小枝を投げつけた。すると、当たった拍子に足がもがれ、そのまま死んだ。


 そこへ天胡がやって来て、


 天胡「先輩、何してるんですか?」


 満留「あっ、天胡さん。今、蚊に枝を投げつけたら、一瞬で死んじゃって……。そんなつもりはなかったのに」


 天胡「これ蚊じゃないですよ」


 満留「え、そうなの⁉」


 天胡「多分、アメンボですよ」


 ガガンボ。


 満留「そうだったのか。知らなかった。これ……、アメンボなのか」


 省略。


 天胡「それより、みんな待ってますよ。私たちの場所に戻ったらどうですか?」


 満留「でも、みんな僕のことを変な奴だとか思っていそうで、ちょっと怖くて……」


 天胡「そんなの元からですよ。今更気にすることないですよ。戻りましょ」


 満留「うん。そうするよ」


 と言って、満留は戻って行った。

 天胡も戻ろうとしたそのとき、目の前の崖上で。日光や蛍光灯、LEDとも違う、黄色く透明な光が発されているのを見つけた。好奇心を煽られ た彼女は、回り道をして崖上を目指す。


 崖上。なだらかな斜面で、下の木も届かない。山の管理会社は、周囲の木を伐採し、電力会社と連携してソーラーパネルを敷き詰めている。

 天胡がそこに着くと、金属が砕かれる鈍い音が響き、ソーラーパネルは地面との支柱を折られた。パネルにもヒビが入っている。


 崖下から見て取れた透明な光、それが今、天胡の眼前二十メートルにあった。球状に広がる光の中心には、一頭の熊がおり、ソーラーパネルを貪りながら、黒い毛皮で陽光を受けている。


 山の開拓によって、人間に住処を奪われた熊は、新たな餌とするため、そして人間に復讐をするため、ソーラーパネルをを食べるようになり、いつしか熊自身が太陽の光エネルギーを吸収して生体エネルギーに変換できるようになった。熊の食生活を人間に例えるなら、陽光が主食、普通の餌が副菜、ソーラーパネルは食物繊維である。

 熊はパネルをしゃぶるのに夢中で、天胡の存在に気付いていない。彼女は忍び足で熊に近づくと、光線を撃つ手の構えをし、熊の頭に照準を定める。


 天胡(こんな熊、初めて見るし、存在を聞いたことすらない。まさか、満留先輩はこの熊を、光る熊の都市伝説を追いかけて飯山高原に……?)


 天胡がそう予想するのも無理はない。都市伝説研究を謳っていながら、全く関係のないバーベキューを行うなど、何か裏があるのではないか、と思うことは何ら不思議ではない。しかし、熊は実在しているため、都市伝説でも何でもない。天胡はそこを見誤った。


 天胡は照準十メートルのところまで近づいた。光線の出力を着火時の二倍にすると、熊に向けて撃った。

 彼女は反動で後ろに倒れ込んだ。そのときに踏んだ枝の音で、熊は天胡の存在に気づき、振り向いた。初めて見る熊の鋭い眼力に足が竦むが、それよりも光線の一部が熊の肌に吸収されてしまい、思うように殺せなかったことで、彼女の目線は熊に固定されたまま泳げずにいる。


 天胡(……まずいな。先輩たちの元に帰ることを考えると、撃てる光線はあと一発だけ……)


 そして熊は、天胡を餌と認識し、静かに近づく……。


 天胡も、一歩ずつ静かに下がって行く……。


 ◇


 その頃。バーベキューグリルでは、牛肉を焼き始めていた。

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