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先生を勧誘しよう③

敢助は死んだ。

 カノ「あのときさぁ……、みんな本当に悲しかったの? 私、全然悲しくなかったんだけど」


 純玲「私は悲しかったですよ。敢助とほとんど接したことないですけど」


 天胡「うちの姉も、そのときだけは落ち込んでいましたね」


 カノ「そうなんだぁ……。私がおかしいのか……」


 純玲「まぁ、ともかくですね、敢助がいなくなった後の模様替えが、この部室にものが少ない理由の一つです」


 川田「忘れてました、その話。で、もう一つの理由は?」


 純玲「単純にみんなのやる気がないからです」


 川田「元も子もなさすぎるでしょっ!」


 満留「あの、勘違いされたくないんで言いますけど、僕はやる気ありますよ」


 純玲「満留くんはたしかにやっている。秦海先輩とカノン先輩は、受験が近いから活動に全然関わらない。それもわかる。何をやっているんだ? 天胡ちゃん」


 天胡「自分もでしょ」


 純玲「だってさぁ、私がこの同好会に入った理由、楽そうだからだよ。先輩方や満留くんほど都市伝説に熱中しているわけじゃないんだよ」


 満留「腑抜けているな」


 純玲「んあぁっ⁉ スマホの保護フィルムに気泡入れてやろうか?」


 満留「それだけはやめてくれ、頼む!」


 純玲「ってか、天胡ちゃんは何でこの同好会に?」


 天胡「そりゃあ、楽そうだからですよ」


 満留「腑抜け過ぎだっ!」


 カノ「あまりよろしくない状況ね」


 満留「あの、僕からの提案なんですけど、今週の土曜日、みんなでバーベキューしません? 新入生歓迎的なイベントもしていなかったし、先輩方も勉強の息抜きにと思って」


 カノ「私、金欠」


 満留「金なら僕が出します。なんなら送迎もしますよ」


 カノ「行こう」


 純玲「即答ですね」


 天胡「お気持ちはありがたいですけど、先輩に借りを作るのが申し訳ないです」


 満留「そんなことないよォ~。僕の方こそ借りを作らせて」


 天胡「嫌ですよ」


 川田「ほぼ人質じゃん」


 満留「とーにーかーくー、僕に奢らせて。僕が金を出したいの。ね⁉ お願いします」


 純玲「そんなに金使いたいの?」


 天胡「なら私の参考書買ってくださいよ」


 カノ「私にも何か本買って」


 満留「嫌です。他人の愉悦感を浸すだけじゃ、僕が愉悦感に浸れません」


 純玲「知らんがな」


 カノ「クズね」


 天胡「むしろ破産寸前まで追い詰めて、奢ったことを後悔させる方がいい気がしてきた」


 満留「怖いこと言うのやめて」


 純玲「いいね。私も後悔させてやりたいから行くわ」


 満留「動機が怖い」


 秦海「それで、場所はどこなんだ?」


 満留「場所は、飯山(めしやま)高原バーベキュー場です」


 秦海「どこ?」


 満留「飯山高原にあるバーベキュー場です」


 秦海「オッケー、わかった」


 天胡「何もわかんなかった」


 秦海「それで、どこに集合するの? あと集合時刻も」


 満留「集合場所は……、山尻(やまじり)駅でいいかな。そこで送迎に向かいます。集合時刻は……どうしよう?」


 秦海「昼にやるの?」


 満留「その予定です」


 秦海「それなら十時集合でいいんじゃないか?」


 満留「そうですね。それでいきましょう」


 他の生徒もそれを受託した。


 秦海「じゃあ決まりだな。みんな頑張れ。俺は行かねえから」


 カノ「何のために話したのよ?」


 秦海「俺、受験生だぞ。息抜きなんてしている暇ないぞ。俺を窒息させる気かっ!」


 満留「……そうですか。了解です。寂しいですが、今回は秦海先輩を除いた五人で準備します」


 川田「えっ⁉ 私も含まれているの?」


 満留「はい。どうせ、ここの顧問になりますよね?」


 川田「そりゃあ、現顧問の音村先生がしばらくいなくなるし……。まぁ、それがなかったとしても、多分顧問になっていると思うけど……」


 純玲「顧問になって頂けるんですね。嬉しい!」


 秦海「ありがとうございます。同好会の代表として、嬉しい限りです。顧問になる決め手は何ですか?」


 川田「やっぱり楽そうだから」


 秦海「みんなやめちまえ」


 こうして、今週土曜日、川田を新顧問に迎えた新生都市伝説研究同好会のバーベキューが計画された。

 ちなみに説明会は、川田が勝手に疲れたので、強制終了となった。


 ◇


 放課後の柏家にて。青樺が真弓の腰にタックルを仕掛けた。


 青樺「ねえ~、真弓ィ、相談に乗ってェ」


 真弓「それが人に助けを乞う態度かっ!」


 という真弓の体の軸は、全くブレていなかった。一連の光景を見た天胡は、青樺のうなじを掴んで、真弓から引き剥がした。


 青樺「痛い痛い痛い痛い痛い痛い。猫になっちゃう。猫になっちゃうぅぅぅ……」


 天胡「相談ってなんなのさ?」


 青樺「言うからっ! 言うから話してお願い」


 天胡は手を離した。


 青樺「えっとねー、そのー、今週の土曜日に、大学の先輩とまたデートしてくるんだよ。ほら、この前、服買いに行ったのと同じ人なんだけど、この前はさぁ、服を買うっていう確固たる目的があったからよかったの。次のデートはさぁ、特に目的がないのよ。どうしようと思って……」


 天胡「やめちゃえば?」


 青樺「夢のないこと言うなよっ!」


 真弓「じゃあ、二人で美味しい料理でも食べなよ」


 青樺「美味しい料理って何? 冷凍食品?」


 真弓「たしかに美味しいけどもォ……、それじゃあ夢がないでしょ」


 青樺「そんなことないっ!」


 天胡「十年前と比べても、技術は進歩しているし、まだ発展の余地はあるよ」


 真弓「冷凍食品じゃねえっ!」


 天胡「ちなみに最近話題のお茶屋さんがあるけど、どうかな?」


 天胡はスマホの検索で出てきた店の画像を見せる。店前には石畳が敷き詰められ、扉には暖簾が掛けられており、内装はヒノキで施されていた。店のホームページからメニューを見ると、お茶のアイス、お茶のケーキ、お茶漬け、お茶(飲用、うがい用)があると確認できる。


 青樺「おぉー、こういうのだよ、こういうの。やっぱり冷凍食品じゃダメだな」


 天胡「青樺姉が言い出したんでしょうが」


 真弓「あんたも乗ってたじゃない」


 青樺のデートプラン、無事決定!

【都市伝説研究同好会】

顧問 川田実那子、音村巌

3年 桂馬秦海、香車カノン

2年 祠満留、雅野純玲

1年 柏天胡

インコ 敢助(死亡)


次回から天胡の同好会活動、それが終わったら青樺のデートが始まります。

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