柏姉妹は奇想天外①
この物語は、柏家三姉妹の平凡な日常を淡々と書くものです。過度な期待はしないでください。
柏家三姉妹は今日も賑やかな日常を過ごしています。
午後一時。
アパートの一室にて。
「私の高校に村岡正紀っていう問題児がいるんだよ。同じクラスの人で、普段から授業の提出物を出さなかったり教師に対して失礼な言動をとったりしているんだけど。
ある日、そいつが歩いてたら転んでしまって、それで足首を捻ってしまったんだ。かなりの重傷で全治三週間。歩くときは常に松葉杖をついてて、まぁ言い方は悪いけど、可哀想な状態だったの。
でも三週間が経った頃、村岡が登校しようとしたら時間ギリギリだったらしく、お母さんに、
『正紀、早く!』
って、急かされたら、『あっぶねぇ』だって。あいつ走って家出てったんだよ。それで、
『正紀、松葉杖忘れんな』
って、言われたら、『あっぶねぇ』って、走って戻って来る。もうとっくに治ってるのに怪我人を装い続けてるの。親子グルで。たちが悪いにもほどがあるよな。
何でそうまでしているのかっていうと、やっぱり怪我してる人に教師っていうのは強く注意できないからなんだよね。体育の授業だって見学だから楽できるし、学校に遅刻しても多めに見てもらえる。
あと私の高校って公立だからさ、毎年予算カツカツなんだよ。電気代を節約しなきゃいけないの。だからエレベーターも、車椅子に乗っている人や骨折した人、それらの付き添い人以外の使用は原則認められていないの。教師ですらまともに使えないんだよ。
でも、村岡は足首を捻った設定のまま過ごしているから、エレベーターを使えるわけ。せこい事するよねー。あいつ、普段は自転車通学なんだよ。家から十五分で着くんだよ。でも自転車を漕いじゃいけないんだよ、設定上。だから、わざわざ電車を使って通学するの。駅なんて二駅だよ。こんなに近い距離を電車で移動なんて、私だったらやりたくないよ。面倒だもん。
でもやっぱり村岡はレベルが違うね。あいつ電車に乗ったら真っ先に優先席に座るからね。松葉杖を手すりにかけて、右足を上に組んで、ほら、捻ったのは右足首だからさ、地面から離していた方が楽、っていう設定なんでしょうね。
そんな愉悦感に浸る間もなく、二駅しかないからね、村岡は電車を降りて学校に向かった。到着したら、生徒指導の亀垣先生が校門の前で見張っていたんだよ。村岡は何も気にせず先生の横を通り過ぎたんだけど、亀垣先生は、
『おい、お前どうした?』
明らかに血走っている声だったの。もうアクセル踏みっぱなし。いつ怒号が飛んでもおかしくない。そして、
『いやぁ、すみません。足がまだ治っていなくて、歩くのが大変で……』
と言ったら、
『嘘をつくなーッ!』
とうとう爆発したんだよ。村岡は、『うぅ……』と怯えていたんだけど、その間にもあいつ気づいていないんだよ、電車に置き忘れた松葉杖のことを。
もう両手がら空き。思わず、『あっ……』と声を出して口元を押さえるが、先生の怒りは収まらない。当然、
『杖はどうしたっ?』
と言うもんだから、
『すっ……、すみません。すぐに取ってきまぁ~す!』
と言って、村岡は電車を走って追いかけたんだ。
何だかね、もうちょい賢くなれ、って思ったよ。でもね、亀垣先生は安心した表情をしていた。
『これで、あいつが嘘をついているとわかったんで、ようやくまともに指導できる』
って。問題行動が多いから指導するのも大変だろうけど、頑張ってほしいね。
今回は、村岡がドジ踏んだから嘘だとわかったけど、かなり運が良かったよな、と私は思っていた。そうしたら亀垣先生は、
『いやー、神を信じた甲斐がありました』
と言った。だから助かったんだよ。
これはきっと、あなたも例外ではない。よければ私と一緒に、神に祈りを捧げないか?」
真弓「捧げません」
聖花「そこを何とか……」
真弓「あなた高校教師でしょ? 勧誘なんてあってはなりませんよ。通報はしませんから、早急に出て行ってください。そして、二度とこの家に来ないでください」
聖花「そんなぁ~」
玄関の扉は閉められ、聖花は帰って行った。それに安堵する柏家の次女、真弓。すると、奥から三女の天胡がやって来て、
天胡「まゆ姉、あの人誰?」
真弓「知らない人。あんな馴れ馴れしい奴、初めて見た」
天胡「友達と話してるのかと思ってた」
真弓「何なんだろうね。あの人が担任なら問題児が生まれるよなぁ、としか言いようがない」
天胡「やっぱり通報しておくべきだったんじゃない?」
真弓「そうかもしれない。このアパート、セキュリティが脆いし、また押しかけてきそう。でも休日の目覚ましとしては悪くはなかった」
天胡「そりゃあ良かった」
赤の他人に気を取られている間に、二人はお腹が空きだした。
キャラリスト
【柏家】
・柏真弓(次女)
・柏天胡(三女)
【その他】
・村岡正紀(問題児)
・聖花(宗教勧誘のおばさん。公立高校の教師。村岡の担任)
・村岡正紀の母
・亀垣先生(公立高校の教師。生徒指導主任)




