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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第五話 誰かと共にする食事


 ──佳澄が日依の家で過ごすようになった。


 まぁ、それは構わない。

 元々それ自体は日依自身も了承したことであって、何なら彼女の方から持ち掛けた提案なのだからそこで拒否する姿勢を見せればこちらの正気を疑われる。


 だから、問題があったとするならもっと別の箇所で…昨日、不意にやられてしまった頬へのキスは中々に忘れることも出来ない経験へと昇華されてしまった。

 別に日依は同性を特別嫌っているわけでも無いが、抜群に好んでいるわけでも無い。


 あくまでも彼女の好みは一般的なもの寄りなはずであって、同じ女子である佳澄のあのような行動に胸の鼓動を早めていたのは何かの間違いだったのだ。

 …とは弁明したところで、だからと言って好きな男子でもいるのかと聞かれればまた難しいところなのだが。


 悲しい過去を語ることになりかねないが、日依は生まれてこの方特定の誰かを恋愛対象として定めたようなことがない。

 加えて、一定のアイドルや俳優に熱を上げて応援すること…いわゆる推し活的なことでさえも周囲の同級生がどのメンバーが良かったと語りあかす中、あまり熱中できる対象が見つけられなかった身としてはいまいち理解に時間を要してしまう。


 しかし、それはそれ。これはこれ。

 いかに誰かに恋するような人生経験に乏しく過ごしてきたとはいえ、流石に出会ったばかりのクラスメイトを……それも女子に情緒を掻き乱されるなどあるはずがない。


 あの時は…そう。

 強いて言うなら多少頬に唇を押し付けられた瞬間に心臓の鼓動が早まり、心拍数も一気に上がって顔には熱が集中するように体温が高まったような感じくらいはあったかもしれないがそれだって気のせいに違いない。


 ゆえにこそ、あの後佳澄が帰宅していっても一人取り残された家の中で自分はこれからどうなってしまうのかと悶々とした思考を延々と続けて布団にくるまって潜り込むまで考え続けていたことも無かったはずなのだ。

 うん、間違いない。


 なので今日この時、見慣れた部屋の中央にて見慣れない人物が既にやってきている状況下であってもこの冷静さを日依が崩すことは無い。

 …そうであってほしいと思う。


「ふーむ…やっぱり、日依の家って何だか落ち着く感じがするね。学校は退屈だから尚更そう感じるのかも。…あ、これ美味しい」

「それなら良かった……って、デリバリーのピザ食べられながら言われても何だか説得力薄いよ…」

「だって実際に美味しいし。日依も食べる? ていうか食べるの手伝ってほしい。私一人じゃ絶対に食べ切れないから」

「調子に乗ってLサイズなんて買ってきたからだよね、原因は?」


 がしかし、いざ佳澄を前にしてみるとそのような決意など容易く吹き飛んでしまう。

 事実として現在、昨日交わした約束が嘘ではなかったと証明するかのように今日の授業が一通り終わってから…この家を訪れた彼女の姿が何よりも確かな証拠だろう。


 昨日既に一度目の当たりにしているというのに、やはり何度見たところで慣れそうもない彼女の()()

 フードを下ろしたことでいつもなら覗ける面積も少ない肌が全て露わになってしまっているが…その美貌はどれだけ時間が経とうと衰える気配がない。


 それどころか目を向ければ向けるほどに輝きを増しているようにさえ思えるので、やっぱり美人というのはとてつもなく得だ。

 こうして近くで見る機会が格段に増えたことで、必然的に目を向ける回数も増えたというのに…経験を経るごとに、ふとした瞬間に彼女の顔の良さに視線を惹きつけられそうになる。


 しかしそれに関しては、今どれだけ騒ぎ立てたところで無意味である。

 だったらそちらに関してはもう一旦置いておこう。


 今騒いだところでどうにもならないことを無駄に悩み続けても仕方がないのだ。

 ならばいっそのこと開き直って今この時間に目を向けた方が良いと日依も意識を切り替え、目前の景色に視線を移し………。


 …現在進行形で、その両手に自身で持ち込んできた()()()()をこれでもかと手に取り、はむはむと頬張っている佳澄を見てしまえば不思議と緊張感も解けてしまうというもの。

 こちらについては特に語るほどのことがあるわけでも無し。


 というのも、放課後になってからしばらく時間が経った頃合いに彼女はやってきたのだが…そこでいつ購入したのやら。

 片手にこの近くにある宅配ピザ店のものだと思われる袋と商品を持ち、あまつさえ『この辺りってファーストフードのお店も充実してるんだねぇ…思わずピザも大きいサイズで買っちゃったよ』なんて抜かしながら微かに口角を上げていた。


 別に彼女の食生活まで日依はガミガミ口出しをするつもりも無いし、ここで注意をするほど無粋でもない。

 ただ、あえて言わせてもらうのなら…流石にそのサイズは大きすぎやしないかと思ったくらいだ。


 事実、途中までは満足げにしていてなおかつ、心の底から幸せそうな空気を振りまきながらピザを堪能していた佳澄は中盤に差し掛かる辺りでこちらに助けを求めていた。

 ……別に、彼女が何を食べようと自由ではあるが叶う事ならもう少し自分の胃袋の許容量を見極めてほしかったと切に思う。


 しかしそこで呆れて無視をしたところで目の前の温かなピザが無駄になってしまうことは想像に難くないため、自分もこれを夕食と兼ねてしまおうと密かに決めてご相半にあずかる。


「じゃ、一切れだけいただきます……あっ、確かに美味しいかも」

「でしょでしょ? 昔からこういうの好きだったんだけど、家の近くにはあんまりお店が無かったから食べる機会も少なかったんだよね…その点日依の家の近所は充実してて羨ましいよ」

「まぁ、言われてみれば多いかもね…そこまで寄ったことは無いけど」


 佳澄が食べ始めてからさほど時間が経っていなかったからか、幸いにもピザはまだほのかに熱を維持していて日依が食しても美味だと思えるくらいには味もしっかりしていた。

 なお、そんな会話の最中でサラッと言及されていたが思い返してみると確かに日依の自宅近辺はファーストフード関連の店が溢れていたりする。


 日依は普段、食事などは自分で用意するか余裕がない時には出来合いの品を買ってくるかの二択なので滅多に利用することこそないがそういった店があることは記憶していた。

 そして佳澄曰く、彼女はそんなジャンク的な雰囲気を全開にした品々を好んでいるという、またもや新たな情報が開示されてきたがこの光景を見る限りそれも事実なのだろう。


 学校では他人と関わること自体が少ない彼女がジャンクフードを好んで食べているというのは何とも不思議で…どことなく新鮮な景色にも思えるが、佳澄とて一人の人間。

 こういった嗜好の一つ二つくらいは当たり前のように持っていてもおかしくないのだから、新しい一面が見れたくらいに思っておけば良いか。


「にしてもこの量は買いすぎじゃない? 絶対佳澄さん一人じゃ消費しきれなかったと思うんだけど…」

「そうかもね。でもこういう時、日依なら手伝ってくれるだろうって分かってたし大丈夫だよ」

「私が手伝わなかったらどうするつもりだったのさ…」

「まあまあ。現にどうにかなってるんだし、それに……こういう食べ物は、誰かと一緒に食べるといつもより美味しいって感じられるじゃん? 日依だってそう思ってるんじゃないの?」

「……否定は、しないけども」


 それよりも日依としては色々と苦言を呈したいところもあって、まず自分一人では明らかに食べ切れないボリュームの量を買い込まないようにとか、他にも迂闊な行動は控えるようにだとか………。


 …忠告のほとんどはのらりくらりと躱されてしまったので無意味に終わった上、こちらの考えなど見透かしているとでも言うようにほくそ笑んで返事をしてくる。


 ──そんな彼女の言葉通り、こうして誰かと一緒に食事をする中で普段よりも味わいが数割増しで心地よく感じられたのが何だか少し口惜しくて。

 まるであちらの掌の上で転がされているように思えてしまって、日依はピザを含んだ口を更に膨らませ……せめて拗ねた態度は見せまいと、プイッと首を彼女から背けた。


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