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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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番外話 とある日の『お礼』 前編

時間があったのでオマケ的な話を書いてみました

時系列としては一応、第一七話でちょろっとだけ触れられていた『お礼』の内容に当たる部分です


「いや~…今日も満喫させてもらっちゃったね。やっぱり日依の家って無性に落ち着くんだよなぁ…」

「そう? あたしはそこまで落ち着くとか、実感少ないんだけど…」

「まぁあくまでも私基準の判断だからね。住んでる張本人の日依からしたら分かりにくいこと…って、前にも似たようなこと言ったっけ?」


 すっかり夜も遅くなる時間帯が近づいてきてしまったが、そんな時刻になっても尚佳澄は日依の家から帰宅していなかった。

 それも今の背伸びをしながら深く息を吐き出した様子からもう少しで帰っていくだろうことは予想できるものの、残念ながらそこまで単純に終わるほど彼女は甘くない。


 何故なら、ここから帰ろうとするためにはまだ終わらせていないある種の()()とも言い換えられるノルマが二人の間には残ってしまっているゆえに。


「まっ、それはさておき今日の『お礼』をしておこっか。まだやってなかったもんね」

「うっ…やっぱりそこは忘れずやるんですね…」

「当たり前じゃん? 一日の中で唯一、私が気兼ねなく日依のことを揶揄う──…んんっ、可愛がってあげられる時間なんだからさ。忘れるなんてありえないでしょ」

「………今、揶揄うって言わなかった?」

「気のせい気のせい。はい、それじゃあ日依こっち来て?」

「絶対誤魔化そうとしてるよね……はいはい、分かったよ。これでいい?」


 実にあっさりとした口調で佳澄の口より語られた発言が全てを物語っているが、要するに彼女らのやるべきことというのは佳澄から日依に対して仕掛けられる『お礼』だ。

 最近は毎日のように繰り返され、しかも内容はその時々の佳澄の気分によって変幻自在化するため日依も自分が何をされるのかは実際に受けてみるまで分からない代物。


 時には少々過激とも思えるやり方を選んでくることもあるため、受ける身としてはたまったものではないが…そう思ったところで抵抗も無意味。

 ならばいっそのこと、心を無にしながらこの時間をやり過ごした方が精神的安寧のためにもなるという悟りに辿り着いた日依は本日も特に嫌がる素振りは見せず。


 手招きをしながら誘導してくる佳澄の膝元にすっぽりと収まるのもまた、いつも通りの流れとして定着してきた形だ。


「それで、今日は何するつもりなの? …あんまり過激なのはもう勘弁してほしいんだけど」

「大丈夫だって。そんなに警戒しないでも、私だって日依が本当に嫌がることはしないって決めてるんだからさ」

「本当に分かってるのかな、それ…別にいいけど」

「いいからいいから。とりあえず今日の『お礼』は…そうだね。この辺りにしておこっかな。…んっ」

「………んう」


 そうしてちょこちょこと文句のような呟きを垂れ流しながらも、明確な拒絶はしていない日依の言葉を遮るように佳澄は自らの唇を彼女に近づけ…そっと、頬に密着させた。

 頬に触れた柔らかな感触。


 それを肌で感じていたはずの日依も無意識に漏れ出たのだろう声を零しながらも、ほんの少しくすぐったく感じるかのようなリアクション以外は取ることもなく甘んじて受け入れていた。


「…今度はこっちにキスしてきたの? この前おでこにもされたような覚えがあるんですが…」

「そう言われればそうだね。…でも、日依ってば私にキスされると全身に力入れて身体を強張らせる癖があるからさ。その様子が可愛かったというか、もう一回見たくなっちゃった的な?」

「ぶっ!? …あ、あたしそんな癖ないから!! 人の特徴暴露するのやめてくれます!?」

「え~…絶対あると思うよ? 特に唇を押し付けられた瞬間なんか、顔を赤くしながらも耐えようとしてプルプル震えちゃってさぁ──」

「や・め・て!! …これ以上この話題続けたら、あたし佳澄さんと口きかないからね!」

「おっと、流石にそれは困っちゃうな。しっかし相変わらず、日依はムキになっちゃって可愛いんだから…」


 が、そのやり取りを終えて尚佳澄からの追撃は留まることなく。

 むしろ勢いを増すかの如く日依を揶揄う言動の数は増していき、自分の知りたくもない特徴を暴かれた彼女の顔は真っ赤に染められる。


 …最終的に、日依の方からそれ以上ふざけた発言を続けるのであれば意思疎通を図らなくすると宣言したことで羞恥心を刺激してくる攻防は終息することとなったが。


 されどこれで佳澄が落ち着くかと聞かれれば全くそのようなことはなく、追撃の手こそ緩むことになったが自身の膝元にいる日依の身柄を解放する気配は皆無でありそのまま彼女を愛で続けていた。

 ふとした瞬間に日依の頭を優しく撫でたかと思えば、次の瞬間には腕の力を強めて彼女を目一杯抱きしめてくる。


 そんな時間がしばらく続き、傍から見れば微笑ましい光景がもう少々継続される……そう思われたものの。


「……んん? 日依、私の気のせいならいいんだけど、何だかさ…身体凝ってたりしない?」

「え? …あっ、言われてみれば確かに。この前から家の掃除とかやってたりしてたから…まぁ気にするほどの事じゃないよ。痛みもそんなにあるものじゃないからさ」

「………ふむ、なるほどね」


 日依と密着しながら抱きしめていた佳澄がぽつりとこぼした、些細な違和感とでも言うべき点。

 この僅かな時間で見抜いた観察眼は流石と評するべきであるも、そこで指摘されたのは腕の中にいる少女の身体に存在した異様な()()であった。


 おそらく日依のことを撫でまわしている間に思い至ったのだろうが、事情を問いただしてみると納得でもある。

 曰く、つい最近になってこの家の掃除をそれなりの規模で行っていたとのこと。

 確定ではないがきっとその時の疲労がまだ残っていて、佳澄に確認された肩や腰といった箇所に感じられた凝りという形になって表出してしまったのだろうとの弁。


 当人の口からそれほど気にするような痛みも伴っておらず、多少揉み解すような仕草こそ見せていたが大げさに騒ぐようなレベルでも無いと言っていたので実際その通りではあるのだろう。

 ゆえにこの話はここで終わり。

 張本人が気にする必要はないと述べているのだから、第三者が取り立てて大騒ぎする意味はない。


 ……しかしそれは、この場にいるのが普通の相手であればの話となる。

 あいにく、今現在ここにいるもう一人の少女はありふれた凡人とはかけ離れた行動力を持ってしまっている。


 そのため突如として動き始めた彼女の()()()()()()()にも、日依は即座に反応することが出来なかった。


「よしっ、日依。ちょいと失礼するよ」

「はぇ? 失礼するって、一体何を──わ、うわわっ!? きゅ、急にどうしたの!?」

「ほいほい、あんまり暴れないでねー。激しく揺らされると落っことしちゃうからさ」


 謎の一言を告げるや否や、佳澄はどういうわけか何てこともない様子で日依の身体を横たわらせた状態のまま()()()()()()()

 要するに、お姫様抱っこの形式で抱きかかえられたわけであるが…予告も何もなしにそんなことをされたものなので当然ながら日依は困惑の声を上げる。


 何故唐突に自分のことを抱えるような真似をしてきたのか。そこに対する困惑と疑問。

 またもう一つ彼女の動揺を誘っている要因として、抱きかかえられたことで必然的に至近距離まで近づいてきた佳澄の……顔の良さ。


 …今更何を言っているのかと思われるやもしれないが、日頃時間を共にしている間柄ゆえに失念しそうになる瞬間こそあれど佳澄はとにかく顔立ちが整った美少女だ。

 はっきりとした目鼻や穢れ一つない艶やかな肌の美しさに始まり、スタイルまでも高校生離れした完璧さを誇るという。

 クラス内。否、学校内でも彼女ほどの魅力を兼ね備えた人物は存在しないだろうと断言できる相手の容姿をこうも間近な距離で見せつけられているのだ。


 たとえ日依であろうと、この状況下で平静を保つのは不可能に近い。

 結果的に近距離でぶつけられてくる顔の良さの暴力によって、佳澄の意味不明な行動の意図を問いただすことすら出来ずただただ彼女の望むままに今いるリビングから連れ去られる。


 そしてどこに行くのかさえも分からない状態で廊下に出たかと思えば、すぐ傍に備え付けられていた階段を上がって二階に。

 人一人を抱えていながら、その重量など全く感じさせない軽快な雰囲気で悠々と向かって行った先にあったのは…一つの扉。


 住人である日依にとっては見慣れた空間でありつつも、もう一方の人物たる佳澄からしてみれば入った機会もほとんどないはずの()()()()()へ躊躇なく足を踏み入れて行った。


「到着…っと。そんじゃ日依、少しここで横になっててもらっていい?」

「あの、佳澄さん…? どうしてあたしは、自分の部屋に連れ込まれたのでしょうか…それも何故ベッドの上に?」

「いやぁ、私もこれはどうかと思ったんだけどね……少し気になることが出来ちゃったからさ。見過ごせなくってね」

「質問の答えになってないんですが…」

「まぁまぁ、日依は安心して私に身を委ねてくれたらそれで良いからさ」

「……そもそも何をされるのかも知らされてないんですが」


 遠慮なんて言葉は佳澄の辞書に存在していないのだろう。

 実際この家で彼女と過ごすようになってから、大胆かつ唐突な行動に驚かされたのは最早片手の指の数で数えることすら出来ないくらいなのでその点は日依も諦めている。


 …しかし、自分の部屋に直行された上でベッドの上に寝かされるなんて摩訶不思議な状況は流石に前例がなく、日依の立場としても訳が分からず目を白黒させて動向の意図を問う。


 すると目の前で日依を移動させていた彼女は何故だかにんまりと嫌な予感を覚えざるを得ない笑みを浮かべると……こう、言ってきた。


「本当に何をするつもりなの? あたしの部屋にまで来て……」

「ん~…良い事、かな? 少なくとも私にとっては楽しい事でもあるけど」

「……佳澄さんにとっての楽しい事って、あたしにとっては悪い事な予感しかしないんですが」

「まぁまぁ、気にしない気にしない。とりあえず日依には今から──()()()()()()、してあげるよ」

「…………ひゃいっ!?」


 耳元でこそっと囁かれながらも。

 寝かされたベッドの上にて吐息混じりに投げかけられてきた言葉は、まるで日依を誘惑するかのような意思を微かに思わせながらも…そこはかとなく魅惑的な雰囲気を滲ませたものだ。


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